【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.50 大阪・関西万博 |Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.50 大阪・関西万博

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

vol.50 大阪・関西万博にまつわるニュース

Photo: Aflo
Photo: Aflo

この連載も今回でありがたいことに記念すべき第50回めを迎えました。いつも読んでくださっている皆さま、ありがとうございます。とはいえ華やかなニュースを取り上げるわけではなく平常運転で、日々の中で気になったニュースについて書いていきます。

2025年に予定されている大阪での万博のニュースが少しずつ増えていっていますが、この何日かで、耳を疑うような気になるニュースが立て続けにありました。

万博、残業規制適用外に

https://jp.reuters.com/article/idJP2023072701001731

大阪・関西万博 海外のパビリオン建設へ貿易保険検討 経産省

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230728/k10014146141000.html

ひとつめは工事に従事する建設関連の労働者を残業規制から外すように要望している、という件。災害復旧工事などを対象外とする特例はあるようですが、万博のためにいわゆる「超法規的措置」を行うべきなのかを考えてみると、そこまでして万博を開催する必要があるとは思えません。人手不足解消のためもひとつの目的のようですが、人が集まるレベルに給与をあげて対応すべき事案でしょう。当然その分コストはあがるわけで、そこまでのコストをかけてまでやる必要があるか、ということにはまた別の議論が発生しますが。

万博開催のために土地活用などに関しては臨機応変なルールのアップデートが必要なのは一定理解できますし柔軟に対応すればいいのはわかりますが、このレベルの案件でいわゆる命を守るための安全管理の範疇のひとつともいえる労働時間に関する法律をなし崩し的に変えていってしまうと、コンプライアンスという概念自体も揺るぎかねないというか、こういうオプションが平気で出てきているところに相当な違和感を感じました。

ふたつめは、このニュースを見るまで恥ずかしながらその言葉を知りませんでしたが、海外のパビリオンの建設に関して「貿易保険」という仕組みの導入が検討されている件。貿易保険は、日本企業が海外との取り引きで代金が回収できなくなった場合に政府が100%出資する保険会社の「日本貿易保険」が企業が被る損失を補償する制度、とのことですが、そもそもどの程度の確率で建設費の未払いが発生するかなんて予測が困難なのは明白で、正確な保険料の策定がどう考えても難しそうな案件です。

また、通常、保険会社もロイズに代表されるような「保険会社のための保険会社」に加入し、再保険というかたちで災害などのリスクを担保するわけですが、このように不確定な要素が多すぎる状況だとコンサバに判断せざるを得なく、こちらの保険料は高くなってしまう気がします。

とはいえ保険料が高額で建設会社に加入を躊躇されてしまうとそもそも意味をなさないシステムであることを思うと、日本貿易保険が建設会社に掲示するものは、そこまで高めの保険料にはできないでしょう。そうなると、日本貿易保険は政府が100%出資の会社ということで、未払いが発生しようともしなくても高額の再保険料を税金から支払うか、そのリスクは会社の方で引き受けたところで想定以上の参加国が支払いをバックレてしまうと、当然税金から未払い金を補填することになるわけで、そういうリスクがある中での保険というのは相当に不可解です。地震が起こりそうなエリアで地震保険のビジネスをはじめます、とまではいかないかもしれないですが、通常のビジネス的な判断から考えると相当に不可解なレベルの話だなと感じました。

僕は2005年に開催された愛知県で開催された万博「愛・地球博」には足を運べていなくて、ちょっと行ってみたいなとは思っているのですが、なかなかうまくいきそうな気がしていません。予算も倍々で増えていってしまっているようで、オリンピック然り、こういうプロジェクトのマネジメントを適切にクリーンに推進していくことは本当に難しいですね。やるからにはいい博覧会になってほしいなとは思いますが。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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