「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2023」高木由利子のパラレル・ワールド | Numero TOKYO
Art / Feature

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2023」高木由利子のパラレル・ワールド

京都で開催中の国際的な写真フェスティバル 「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2023」。国内外作家の貴重な写真作品や写真コレクションを京都市内各所の歴史的建造物や近現代建築の空間に展示。開催11回目のテーマは「BORDER(境界線)」。世界的な写真家・高木由利子は、40年近くにわたり撮り続けてきた世界各国の民族衣装を日常的に着る人々を記録するプロジェクトと現代のファッションを撮影したシリーズをパラレルに展示する。その心を動かしたものは何だったのか。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年5月号掲載)

DIOR by Maria Grazia Chiuri 2021 S/S @Yuriko Takagi/DIOR
DIOR by Maria Grazia Chiuri 2021 S/S @Yuriko Takagi/DIOR

amachi. 2022 A/W @Yuriko Takagi
amachi. 2022 A/W @Yuriko Takagi

写真家・高木由利子インタビュー「パラレル・ワールド」とは

さまざまなファッションデザイナーとのコラボレーションや、民族衣装を記録するプロジェクトなど、衣服と人間との関わりをテーマにした創作で世にインスピレーションを与えてきた写真家・高木由利子。およそ40年に及ぶキャリアを網羅した個展「PARALLEL WORLD」展が、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023のメインプログラムとして開催される。個展のコンセプトや創作にかける思いについてお話を伺った。

ISSEY MIYAKE 1986 A/W @Yuriko Takagi
ISSEY MIYAKE 1986 A/W @Yuriko Takagi

二つの世界を行き来するパラレル・ワールド

──まずは、個展の内容について教えてください。

「私個人が出会ってきたファッションや衣服、そして人々の写真を展示します。写真家として活動してきた40年間を網羅する初めての試みです。個人的なプロジェクトだけでなく、仕事で撮影した作品も含まれますが、パーソナルな視点にこだわって展示を構成しました」

──展覧会名にある“パラレル・ワールド”に込めた意味は?

「これまで民族衣装で生活している人々を記録する私自身のプロジェクトを続ける一方で、新しい価値観を創出するファッションデザイナーたちとのコラボレーションも行ってきました。私にとって、この二つの世界は同時に存在していて、その間を行き来しながら、服と人間との間の関係性に深い興味を覚え、また刺激を受けてきました。このポジティブな意味での“パラレル・ワールド”を見てくださる方にも感じていただきたいと思っています」

──40年前の、最初期の写真作品も含まれるのでしょうか。

「もともと私はヨーロッパでフリーランスのファッションデザイナーとして仕事をしていました。しかし、8年ほど活動してから、ちょっとファッションから離れたいと思った時期があって……そんなとき、私に撮影の依頼をしてきたのがポール・スミスでした。ちょうど彼が日本に進出しようとしている時期で、「日本向けのカタログを作るから、写真を撮ってみないか?」と誘ってくれたんです。写真は好きではありましたが、ファッションは撮ったことがないからと躊躇していたら、「ランドスケープと同じだよ」と言われて……半ば騙されて始めたようなものですね(笑)。でも、そのお仕事がファッションの写真を撮るきっかけとなりました。とても古い作品ではありますが、工夫して展示したいと思っています」

──以後、ファッション界とはさまざまなかたちで貴重なお仕事をされてきましたね。

「今回の展示では、はじめにきっかけをくださったポールとのお仕事から、イッセイ ミヤケとのコラボレーション、そして雑誌などを通して撮影させていただいたコム デ ギャルソン等々、さまざまなブランドのファッション写真、そして「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展のために撮りおろした最新シリーズまでを網羅します」

Comme des Garçons 1995 A/W for Gap Japan @Yuriko Takagi
Comme des Garçons 1995 A/W for Gap Japan @Yuriko Takagi

服や人から感じるパワーとは

──現在も開催中の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展では、アーカイブを撮影した写真作品が展示されていますね。

「さまざまなファッションブランドやデザイナーとお仕事をしてきましたが、オートクチュールを撮影するのは初めての経験でした。間近で見たとき、人の手で作られているクラフトマンシップのすごみをひしひしと感じたんです。また、注文する方、デザイナー、作り手、すべての情熱が循環するポジティブなエネルギーが服から立ち上がってくるようで、とても感動しました。このプロジェクトを開始するまで、民族衣装が消えていくことがあまりに惜しくて、その悲しみを抱えているようなところがあったんですが、不思議なことに、ディオールの撮影を進める過程で、そのような変化も必然性があってのことではないかという思いに変わっていきました。今ではファッションと民族衣装の両方が愛おしくてしょうがないですね」

Iran, 2006 @Yuriko Takagi
Iran, 2006 @Yuriko Takagi

──ライフワークとされてきた民族衣装の撮影は、どういった経緯で始められたのでしょうか。

「90年代頃に、いわゆるスーパーモデルが大流行したんですが、人間と服の関係が軽視されているようで、とても疑問を感じたんです。そこで、私なりのスーパーモデル、つまり大自然と生きながら唯一無二の存在感を放つ人を探す旅を始めました。ISSEY MIYAKEのPLEATS PLEASEや、ひびのこずえのコスチューム作品をお借りして、世界中を巡り、ポートレートを撮影しました。余計な作り笑いなどせず、まさに「I am here 私はここにいる」という、民族の人たちの姿は本当に美しくてカッコよかった。でも、目的がスーパーモデル探しだったので、そのときは彼ら自身の服の姿は撮っていなかったんです」

──その経験があったからこそ、民族衣装のプロジェクトにつながった?

「あるとき友人に、世界中で消えつつある民族衣装を記録できるのは君しかいないんだから、早く撮影すべきだと言われたんです。その消えていくスピードは思った以上に速くて、1998年に「THREADS OF BEAUTY」というプロジェクトを急いで始動しました」

(左)Iran, 2007 @Yuriko Takagi (右)India, 2004@Yuriko Takagi

──どんな民族衣装に魅力を感じますか?

「必ず理由があってその衣服を着ているから、どの国・地域の民族衣装もみなカッコいいんですよ。ただ、私は個人的にノマドの人々がすごく好きなんです。なぜかというと、彼らは移動で持ち運べるものが全財産だから、好きなものしか持たないし、身に着けない。衣服は何着も持てないんだけど、移動するときにはそれをいくつも重ね着して、ジュエリーもたくさん着けているんだけど、それが本当に素敵なんです」

──個展で二つの世界を見せるのは大変な試みですね。

「世界遺産である二条城の台所だった建物が会場になるので、課題の多い仕事になります。でも、シノグラフィーをお願いした建築家の田根剛さんは私の作品を理解されているので、素晴らしい挑戦になると確信しています」

India, 2004@Yuriko Takagi
India, 2004@Yuriko Takagi

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2023
京都で開催中の国際的な写真祭 「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2023」。国内外作家の貴重な写真作品や写真コレクションを京都市内各所の歴史的建造物や近現代建築の空間に展示。第11回目のテーマは「BORDER」。
会期/2023年4月15日(土)〜5月14日(日)
場所/京都市内各所
www.kyotographie.jp

PARALLEL WORLD Presented by DIOR
写真家・高木由利子による個展「PARALLEL WORLD」Presented by DIORが、 KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023のメインプログラムとして世界遺産である二条城・二の丸御殿台所で開催。独自の視点から衣服や人体を通して「人の存在」を撮り続けてきた高木の、40年間にわたるキャリアを網羅した初の試みには、最初期の貴重な作品から、「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展(東京都現代美術館 〜5/28)のために撮影した最新作までが出品される。

会場/二条城 二の丸御殿 台所

Interview & Text : Akiko Tomita Edit : Michie Mito

Profile

高木由利子Yuriko Takagi 東京都生まれ。武蔵野美術大学にてグラフィックデザイン、イギリスのTrent Polytechnic にてファッションデザインを学んだ後、写真家として独自の視点から衣服や人体を通して 「人の存在」を撮り続ける。近年は自然現象の不可思議にも深い興味を持ち、 「chaoscosmos」というプロジェクトにて映像を含め新たなアプローチに挑戦し続けている。

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