温泉、美食、そして“泊まれるアート”。「すみや亀峰菴」が誘う京の山里の異空間 | Numero TOKYO
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温泉、美食、そして“泊まれるアート”。「すみや亀峰菴」が誘う京の山里の異空間

“京の奥座敷”と呼ばれる亀岡。市街地から西へ嵐山を通りすぎ、保津川を越えると、かつて明智光秀公が治めた歴史ある土地が姿を現します。古くより武将たちの刀傷を癒してきたといわれる湯の花温泉に佇む老舗旅館が、「すみや亀峰菴」。四季折々の自然に囲まれた素朴な山峡の雅なお宿に、エキセントリックなアートルームが誕生したと聞いて、宿泊してきました。


最寄駅からは予約制の送迎シャトルかタクシーで約20分ほど。京都美山の職人による素朴な味わいのある茅葺きの門が迎えてくれます。創業一族が今を去ること600年前よりこの地に住むようになり、先々代まで木炭商であったことから“すみや”の名がつけられたのだそう。


エントランスを入ると、さっそくアートたちがお出迎え。このお宿では、今回宿泊するアートルーム「呼風(こふう)」のディレクションを手がけた柳幸典氏による数々の現代アートや、陶芸家である石井直人氏の作品が数多く収蔵されています。

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内装においても、京都府の指定無形文化財である黒谷和紙の職人、ハタノワタル氏が仕上げた和紙張りのカウンターに、“カリスマ左官”と呼ばれる久住章(くすみあきら)氏の手による土壁など、京都丹波エリアにゆかりを持つクラフトマンたちとのコラボレーションがそこかしこに。


ひときわアイコニックな存在といえるのが、戦艦長門を錆びた鉄の鋳物で忠実に再現した、柳幸典氏の作品。実はこれ長門の縮尺模型、つまりプラモデルのパーツ一つひとつを70倍に拡大して錆をつけ制作されたんだとか。一連の作品は過去から現在までの時の流れやそれらが形づくってきた時代、ひいては歴史にまで思いを馳せたくなる、奥深い思考に満ちたものばかり。ロビーにはギャラリーマップや作品解説の記載された用紙なども用意されていて、本格的なミュージアムの様相を成しています。


ロビーのウェイティングスペースでは、久住章氏が千利休の茶室を再現してつくりあげた味わいのある壁に、アンディー・ウォーホルへオマージュを捧げた柳幸典氏のアートが飾られています。このように各分野のアーティストたちのコラボレーションを鑑賞できるのも、このお宿ならでは。


こちらは石井直人氏の破れ壺。作品が置いてあるスペースは、同氏が作品制作時に使っていた棚板を床材に。時が刻んだなんとも風情のある表情と、典雅な作品の佇まいが絶妙にマッチ。

空間そのものがアート! 非日常感満載のスイートルーム


さて、チェックインを済ませたらいよいよ待望のアートルーム、「呼風」へ。ロビーの通路とデザインがリンクしている鉄製の重厚な扉を開けると、左右へ隧道が伸びています。そう、これ、もうお部屋の中なんです。

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ふたつの隧道、すなわち廊下に入ると、鏡を使って演出されたふたつの対照的な光景が目に入り、まるで異空間に迷いこんだかのような感覚に。このアートルームではギリシャ神話に出てくるイカロスの伝承をモチーフに、“天と地”や“生と死”といった対立する概念を表しているのだそう。昨今ちらほら見かける「部屋にアートが飾ってある宿泊施設」というよりも、部屋の空間そのものこそが計算されつくしたアートなのが新鮮です。三島由紀夫の詩「イカロス」から引用された写真内のメッセージとは廊下を通るたびに対峙することとなり、そのたびにちょっと立ち止まって“自分の存在の根本”といったような深いテーマを考えさせられてしまうはず。滞在を終える頃には、哲学的な気分が最高潮に高まっているかも。

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部屋は140平米ととても広く、大きく分けて3つの滞在空間が。リビングスペースにはお布団を敷けるので、ベッドルームと合わせて二家族での宿泊も可能。ここには追って、京都の帯匠である山口源兵衛氏による菊花の織物が配置される予定なのだとか。


客室にはプライベートの露天風呂がふたつもあり、こちらは和室から繋がっている石造りの“地”の温泉。ガラスを隔てたところにある石井直人氏の陶芸作品を入浴しながら鑑賞できるうえ、張られた陶板も彼の手によるものなのだそう。窓から見える自然豊かな景色を反射するかのような緑が、目に心地よい。

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ダイニングスペースも広々! こちらはロビーにもあった久住章氏作の土壁が、まるで絵画のように壁面を彩っています。

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ベッドルームの壁には、菊の花びらが散っているようなモチーフと「すき」、「きらい」という柔らかなひらがなの文字が躍り、花占いを想起させるロマンティックな仕掛けに。こちらのお部屋からは、もうひとつの露天風呂へアクセス可能。


“天”をイメージしてつくられたという透明なアクリル立方体の浴槽は、非常にフューチャリスティック! 水面が光を反射することで壁に映し出される虹のゆらめくさまが、なんとも美しいんです。


夜になると、こんなに幻想的な光景に。朝と夜で表情がガラリと変化するから、滞在中は入浴だけで忙しくなること請けあい。体が空に溶けてつながっていくような感覚で、いつまでも浸かっていられそう。

さて、夕食まで館内にてお散歩を。宿のそこかしこにアート作品が展示されているので、散策もはかどります。こちらはアートルーム「呼風」のプロジェクトを方向づけた、柳幸典氏のコンセプトスケッチ。“天地”、“生死”という対概念のワードが書きこまれ、背景にはイカロスの神話の風景が描かれています。

ゆったりとくつろいだり、仕事をしたりして過ごせるライブラリースペースも。京都の歴史やアートに関連する本が納められており、ついつい長居してしまいそう。

立派な茶室は、眺めているだけで心が穏やかに整います。

旬の味覚が詰まった京懐石を目と舌で味わう!

館内をひととおり見てまわりお腹が空いてきたら、いよいよ夕食。「呼風」に滞在すると、ダイニングルームに板前が来て、地元の食材を生かした京懐石をサーブしてくれるんです。亀岡は“京の台所”とも呼ばれ、山々の湧き水がおいしい京野菜や米を育むことで知られるエリア。またブランドの亀岡牛や猪肉などのジビエも、名物のひとつとして人気なんだとか。そんな逸品揃いの食材たちと、旬を大切にする京都らしい繊細な調理法やプレゼンテーションが掛け合わさって、洗練された食体験を約束してくれます。

ここで、ワイン好きに朗報が。実はこちらの旅館、日本ではまだめずらしいオーストリアワインを日本で最も多く提供しているお宿なのだそう。気品のある酸と豊かなミネラルが調和し、和食との相性は最高。レストランにはワインボトルが所狭しと並ぶセラーがあり、オーストリアワイン大使でもあるソムリエがお好みに合わせてベストな一本をおすすめしてくれます。

目に美しく舌においしい料理の数々には、感嘆すること間違いなし。ひと皿ごとに京都らしさと旬を見事に落としこんであり、忙しい生活で忘れてしまっていた季節の機微に触れる豊かさを、久しぶりに堪能できるはず。

こちらは京筍とノドグロの塩釜焼き。そこにウニをたっぷりのせ、仕上げにワサビと木の芽を……。料理がのっているのは、館内にも多数作品が展示されている、石井直人氏の陶板。なんとアートルームのお風呂の壁に使われていたのと同じもの! さっきまで鑑賞していたものへ実際に触れてみることで、その趣に対する感銘もひとしお。五感がどんどん研ぎ澄まされていくのを感じて。


最後に大浴場のレポートも。ゆったりとした風情のある露天風呂では、柔らかいお湯が体を温め、包みこんでくれます。右手にあるのは、樹齢千年の桜の大樹を匠がくり抜いてつくられたという湯槽。こちらは女湯のみの意匠で、男湯にはまた違ったあしらいが。そばには桜の木があり、季節が合えば花見風呂が楽しめます。

滞在全体を通してアートに没入しつつ、上質な美食と温泉に癒される。都会の喧騒を離れてちょっと自分をアップデートしたい休日に、ぜひ訪れてみてはいかが?

すみや亀峰菴
住所/京都府亀岡市ひえ田野町湯の花温泉
TEL/0771-22-7722
URL/www.sumiya.ne.jp

Photos & Text: Misaki Yamashita

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