注目ブランドがブラックドレスに宿すアイデンティティ
定番のブラックドレスは特別な日だけではなくデイリーにも楽しみたい。国内発信の注目ブランドが自身のアイデンティを込めたブラックドレスなら、今の気分に寄り添ってくれるはず。ぜひお気に入りの一枚を見つけて。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年5月号掲載)
Fetico|フェティコ
自分のために、センシュアルに
フェティコのインスピレーションは⼥性の造形美を強調する古典的なスタイルにある。デザイナーの⾈⼭瑛美がその美意識や⾝体観を独⾃の視点で再構築し、相反する要素を重ね合わせながらユニークで新しい⼥性の姿をデザイン。「⾊彩が削ぎ落とされる分、着⽤する⼈のパーソナリティを際⽴たせる」のが、ブランドにとっても舟山個人にとってもマスターピースだというブラックドレス。「通常ランジェリーで使われるような、シアーなトリコット素材を主役に作った」今回のドレスは、サイドからの新鮮な肌見せが特徴だ。2023春夏コレクションのコンセプトは“Admire Your Own Body”。「⾃分⾃⾝を魅⼒的に感じられる装いは、他の誰でもなく⾃分のためにあること。美しくあろうとする意識を持つ⼈はそれだけで美しい。⾃⼰愛を持って、⾃由に装いを楽しんでほしい」
コレクションブランドなどでデザイナーの経験を積んだ舟山瑛美が2020年に⽴ち上げ。ブランドコンセプトは「The Figure:Feminine(その姿、⼥性的)」。⼥性の造形美を強調する古典的なスタイルがインスピレーション源。22 年には「JFWネクスト ブランド アワード2023」などを受賞。
Photocopieu|フォトコピュー
日常に馴染む、現代女性のためのドレス
強く複雑に生きる現代の女性への共感から、体のラインを意識したソフトなボディコンシャス、強い佇まいの女性像を提案し続けているフォトコピュー。なかでもドレスにはこだわりがある。「いちばん見どころの詰まった構造物がドレス。ワークウェアなど実用的なものからのインスピレーションを、自分の美しいと思えるフォルムに仕立てていきたいと思っています。きれいなものを作りたいという欲望というより、俗物的なもの、ありきたりなシーンに作品性を持たせて昇華させたいんです」と語るデザイナーの竹内美彩。シースルーニットジャカードを使用した長袖マキシ丈のドレスも、シンプルに見えて、実は独特なバランス感で成り立っている。
※こちらのドレスはオンラインストア「Numero CLOSET」にて購入できます。
2019年秋冬よりコレクションをスタート。イザベル マランやヴェロニク ルロワでデザインの経験を積んだ竹内美彩が手がける。シルクなどの素材で作られていながらワークのディテールを取り入れた、デイリーにも活躍するドレスがメインピースとなっている。
Voltage Control Filter|ヴォルテージ コントロール フィルター
相反するイメージを一枚に昇華する
ミックスカルチャーの視点を軸にカテゴリーにとらわれず、ストリート&モード、ハードコア&ミニマルなど相反する要素をクロスオーバーさせ、ニュートラルなクリエイションを目指すヴォルテージ コントロール フィルター。透け感のあるモヘアのニットドレスは「パンクやハードコアのアイコニックなディテールや素材感を直接的ではなく抽象的に取り入れている」という既存イメージの再解釈が新しい。「ドレスのようにエレガンスに着ることも、組み合わせでカジュアルにスタイリングすることもできる一枚。できるだけ一つのスタイリングに限定されない服作りを心がけているので、手にしてくれた人に自由にスタイリングしてもらえるとうれしいです」
2021年、エムエム6 メゾン マルジェラやパリのアートコレクティヴAndrea Crewsなどで経験を積んだデザイナーが設立、22年秋冬からコレクションを発表。ブランド名はアナログシンセサイザーのVCF(音色を調整するフィルター)から。
Lautashi|ラウタシー
日常をときめかせてくれるドレス
「ブラックドレスは赤リップと同じくらい、スイッチを入れてくれるアイコニックなアイテム。毎シーズン必ず作っています」と語るのはラウタシーのデザイナー鈴木えみ。カーディガンやトップにも変形する前開きのドレスは、過去のコレクションで人気だったデザインをラウタシーのこだわりでもあるオリジナル生地で復刻したもの。スネークスキンのように見えるテクスチャーで、シーズンテーマである「光と陰」を表現している。ただそれも“特別な服”ではない。「ドレスに限らず大切にしているのは日常に寄り添った服であること。クローゼットにしまい込むことなく、ちゃんと出番があって、でも日用品のように馴染みすぎず……ときめくものが理想です」
2017年秋冬にスタート。ファッションアイコンとして人気を博す鈴木えみが手がける。コンセプトは「求めるものは奥行きのある佇まいと存在感、芸術品ではなく実用品の立ち位置でありながら、外見だけでなく内面までが前を向く、しなやかな鎧となってくれるように」。
Love It Once More|ラヴィットワンスモア
アップサイクルニットをモードに
ブランド名のとおり「もう一度愛する」をテーマに、リサイクル糸や余剰糸を積極的に使用してアイテムを展開するラヴィットワンスモア。リサイクルウール100%の糸を使用したオールハンドメイドのニットスカーフがシグネチャーアイテムだ。「ニットはカジュアルなアイテムとして位置付けされていますが、ディテールやバランスにこだわり、モードなニットドレスを完成させました。ブラックという色が持つ強さには力があると感じています。特にドレスは纏うと精神が統一されるような気持ちに」とデザイナーのマロ・クロタニ。パフスリーブが印象的なシルエットはトイプードルをイメージしたそう。ネックラインには切り込みがあり、アシンメトリーな肌見せがかっこいい。
大阪文化服装学院ニットコースを終了後、企業のニットデザイナーを経て独立したMARO KUROTANI(マロ・クロタニ)が2019年に立ち上げたアップサイクルブランド。世の中にすでに存在するものの活用を目指し、リサイクル糸や余剰糸を積極的に使用したニットアイテムなどを展開する。
Haengnae|ヘンネ
愛と強さを感じられるドレスが自信をくれる
「愛でる」哲学を大切に、知性や勇気を持ちながらたくましく生きる「強きロマンチスト」のためのブランド、ヘンネ。デザイナーのアンナ・チョイは「ほとんどの日をブラックドレスで過ごします。時には優雅に華やかに、時には厳かに背筋を整えてくれる、そんな存在です」と語る。だからこそこだわりも大きい。「タックギャザーで構築されたコクーンシルエットが特徴的なドレスは、裾を膝まで上げることでミニドレスにも変形可能。デイリーに着るドレスは年代も体形も問わず、自宅でもお手入れがしやすいものにしたいため、高級感のあるシルエットとは対照的に、シワになりにくい家庭で洗濯可能なマットサテン素材を使用しています。非日常な特別感と現実的な機能性を兼ね備えることで、日常を彩り、自信につながる一着になることを願っています」
※こちらのドレスはオンラインストア「Numero CLOSET」にて購入できます。
韓国国籍を持つ日本育ちのデザイナー、アンナ・チョイによって2021年にスタート。ニューヨークの自由な表現力、日本の職人技術、ヨーロッパのオートクチュール技法、そして自身のアイデンティティを融合させ、唯一無二の洋服を展開する。
Chika Kisada|チカ キサダ
ドレスで表現する現代のエレガンス
バレエのエレガンス、パンクの生命力。その儚さと強さ、相反するイメージの融合から生まれる「強いエレガンス」をコンセプトにスタートしたチカ キサダ。デザイナーの幾左田千佳にとって、ブラックドレスは「強いエレガンスの象徴、ロマンチックなアイテム」だという。今季のテーマは「Ornaments(装飾)」。「ダンスによる動きとその残像のインスピレーション、詩的であり都会生活における布と肉体の関係性」から生まれたコレクションで目を引いたのが、さまざまなレイヤードスタイルを楽しめるドレス。「ストレッチ性の高いメッシュ素材に刺繍を施したオリジナル素材を使用しています。アクセサリー感覚でスタイリングの幅を広げられる一枚」。着る人の魅力をより引き出してくれる「完成されたスタイリングにプラスワンするスタイリング」を提案している。
2014年、幾左田千佳がバレリーナとしてのバックグラウンドを着想源に設立。「強いエレガンス」をコンセプトに、仕草や動きにともなって漂う人間の美しさの移ろいと存在感を追求したシグネチャーライン。都市で生き、動き続ける、新しい上質さを求める女性たちのための服。
Tanakadaisuke|タナカ ダイスケ
新しい自分に出会うためのドレス
自分の中にいるまだ見ぬ自分と出会ってほしいという願いから、ロマンティックで幻想的な世界観を打ち出すタナカ ダイスケ。今シーズンは、好きなものが日替わりで変化していくような10代の頃の感情を再編集したコレクション。なかでも、デザイナーの田中大資が「永遠の憧れ」というセーラーカラーを刺繍やビジューであしらったスーツドレスは「セーラーカラーを日常に取り入れられたら」との思いが詰まった一点。「付け襟やフィンガーアーマーなど装飾的なアイテムを毎シーズン作っているので、シーズンを超えてあなたにしかできないスタイリングをぜひ。タナカ ダイスケを着ることで、ドラマティックな日を自分から迎えにいってもらえたらうれしいです」
ドメスティックコレクションブランドを経て独立後、衣装制作や刺繍作家として活動していたデザイナーの田中大資が2021年秋冬よりスタート。「おまじないをかけたようなお洋服で、自分の中にいるまだ見ぬ自分と出会えますように」をコンセプトに独自の世界観を展開している。
Photos:Jun Yasui Hair:Shingo Shibata Makeup:Yuko Model:Huiwon Kim at Bravo Fashion Editor:Nozomi Urushibara Edit:Sayaka Ito