人気SF小説家に空想アンケート! 【2】柞刈湯葉 | Numero TOKYO
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人気SF小説家に空想アンケート! 【2】柞刈湯葉

SFのスタートは壮大な空想である。未来はどうなる? 宇宙へ行きたい? そしてSFとは? 人気SF作家の頭の中を覗いてみると、私たちの世界もまるで無限に広がっていくようだ。第二回は柞刈湯葉。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年1・2月合併号掲載)

現代ではファッションアイテムと思われていない道具がファッションとして定着している可能性も

──100年後の未来、人間の肉体はどのように変化/進化/退化していると思いますか?

「肉体の自然な変化はほとんど起きないと思われます。100年前と比べると日本人の平均身長は10cmほど伸びていますが、これは戦後の食生活の欧米化にともなうもので、平成に入ってからはほぼ一定ですし」

──肉体の変化にともない、100年後の衣服やファッションはどうなっていると思いますか?

「肉体よりも思想の影響が大きいと考えます。まず動物愛護や環境保護に伴う規制が現代よりも厳しくなり、動物由来の素材や、マイクロプラスチックを発生させる化学繊維が徐々に使われなくなるでしょう。次に、ジェンダー観の変化にともないファッションにかける費用の男女差が減少すると思われます。男性のフォーマル衣装がスーツ・ネクタイの一択という状況は100年後には変わっているでしょう。あとは、現代ではファッションアイテムと思われていない道具がファッションとして定着している可能性がありますね。眼鏡などはもともと医療器具ですし。スマートフォンに似せた何の機能もない板がいずれ『レトロ風のファッションアイテム』となりそうです」

──もし24時間だけ未来か宇宙に自由に行けるなら、どちらに行ってみたいですか? その理由は?

「24時間だけなら未来です。宇宙って慣れるまでが大変そうじゃないですか。24時間行くと疲れるだけで終わっちゃいそうな気がするんですよ。それに肉眼で見るだけなら写真を見るのとそんなに違わないでしょうし。きちんとした訓練を経て、ちゃんとした機器を持ち込んで、長期的な観測や実験をさせてもらえるならいいのですが。それに比べて未来の地球であれば、そのへんを散歩して人に話を聞くだけでも大きな価値のある体験ができると思います。言語がどのくらい通じるのか、そもそも社会が残っているのか、という不安はありますが」

──SFというジャンルが誕生して久しいですが、なぜ作家やクリエイターは遠い未来や宇宙など「ここではないどこか」に思いを馳せると考えますか?

「SFに限らないフィクションの役割として『こうでなかった自分』を考える、というものがあります。人生では就職先、結婚相手などのさまざまな選択を経て可能性を切り落としていくわけですが、落とした枝の先がどうなってるかを知りたい、という欲求がフィクションに向けられます。それを『個人の人生』ではなく『社会全体』に敷衍(ふえん)させたものがSFといえます」

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Realization:Miki Hayashi

Profile

柞刈湯葉Yuba Isukari 2016年に小説投稿サイト「カクヨム」に投稿した『横浜駅SF』が第1回カクヨムWeb小説コンテストSF部門の大賞を受賞、単行本化されて書籍デビュー。同作は第38回日本SF大賞の最終候補となる。他の著作に『人間たちの話』『まず牛を球とします。』などがある。

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