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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.37 少子化対策における小池都知事の表明

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

vol.37 少子化対策における小池都知事の表明

あけましておめでとうございます。2023年が始まりました。弊社も1月4日が仕事はじめでしたが、さっそく社会が動き出した印象もあり、この日、小池都知事は東京都の子供に対して一人月5,000円を給付する方向と表明しました。しかも所得制限なし、です。

小池都知事“18歳までの子どもに月5,000円程度の給付検討”表明 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230104/k10013940911000.html

同日、岸田首相も念頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦し、大胆に検討を進める」と表明しました。あくまで“検討”となっているのがこの方らしいところなのかもしれませんし、異次元でなくていいのでまずは普通の対策をしっかりやってほしいという印象を持ったりもしましたが、取り組むこと自体は正しい方向だと強く思いました。

小池都知事の表明において特筆して正しい方向だなと思ったのは所得制限なし、の部分です。感情論としては収入の少ない家庭にこういった給付においても税金を分配という観点からは優先すべきといった声があがる傾向が強い印象がありますが、貧困対策ではなく少子化対策という観点でみると、そこそこ収入があっても月5,000円支給されることで子供を産もうという意欲は高まるでしょうし、そういったセグメントに関しては施策の対象にするのが明らかに是です。

少子化対策と貧困対策を混同するとろくな成果を産まないのは目に見えていて、世帯収入1,000万円というのは今の日本においてはそれなりに裕福な世帯というセグメントという分類をされ、その程度の収入があればこういった給付の対象からは外されるケースも少なくないですが、そういった世帯の生活が楽かというとそこまで楽ではないケースがこれまた少なくないはずです。ただ相対的に裕福だからという理由で、給付がインセンティブとしてワークするユーザー層を外してしまうと、本来得るべき成果になかなか辿り着けないのは当然の成り行きです。

弊社で展開するサマリーポケットのようなオンラインでのユーザー獲得がメインのサービスにおいてはCPA(Cost per Acquisition)という1ユーザー獲得あたりにいくらコストがかかったかというのを厳密に精査し、そのコストが1ユーザーあたりの利益を下回る範囲においては獲得を拡大していくといった戦略がベースになるケースが多いのですが、少子化対策も原則はこの概念と同じなのではと思います。

人口が1人増えると国としていくらのメリットがあるのか、GDPがどの程度増えるのか、みたいな試算から逆算して、少子化対策として人口増加1人あたりにいくらまでなら投資できるのかを検証し、そこのユニットエコノミクスが成立して原資が担保されるなら、ターゲットの(相対的な)裕福さは一旦無視して、広範をターゲットにどんどん予算をかけていくべしょう。原資としては国債に頼らざるを得ない部分もあるのでしょうが、それくらい前のめりに取り組まないと、内需依存の高い国家としてはなおのこと、ますますやせ細っていくばかりです。

先日、国家の軍事費についても書きましたが、日本は教育費も中国及び先進諸国と比べても(総額でも一人あたりでも)相当な低予算となっているとのこと。将来の国力という観点から考えると、個人的には軍事費が少ないこと以上に危機的なコンディションなのではこのトピックに関しても認識していて、自信をもって子供を育てるのに適した環境に国家としてなっているとはなかなか言い切れない現実があります。

僕は今のところ一度も結婚もしておらず子供もいないので、子供の給付の対象ではないですが、少子化対策のターゲットにはおそらくなるでしょう。いつか子供がほしいなとは思ってはいます。国策でそのモチベーションがあがるか、と言われるとなかなか難しいところで、そうやって御託を並べてたらたらしている単身者にはさっさと増税でもしてもらって、少しでも対策の原資を増やしてもらうのがいいのかもしれません。今年はいい出会いがありますように。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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