【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.28 ペロシ下院議長の台湾電撃訪問 | Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.28 ペロシ下院議長の台湾電撃訪問

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

vol.28 ナンシー・ペロシ下院議長が台湾を電撃訪問

Photo:Aflo
Photo:Aflo

8月2日、米国の大統領権限の継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職にあるナンシー・ペロシ下院議長が台湾を電撃訪問しました。下院議長が訪台するのは25年ぶりのことで、大きな話題となりました。

ペロシ氏が台湾到着、下院議長の訪台は25年ぶり…蔡英文総統らと会談へ https://www.yomiuri.co.jp/world/20220802-OYT1T50314/

台湾の民主主義へのアメリカのコミットメントとしての意味の訪台ではありましたが、中国の習近平国家主席の面子が潰された格好になり、中国側は即時抗議声明を出し、過去にない規模の軍事演習を台湾周辺で間を空けずに実施しました。岸田首相も抗議の声明を出しましたが、発射されたミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)に落下しました。

徐々に中国の影響が強くなってきている昨今の香港の状況をみていると、台湾の民主主義が守られるべきものであるという意思表明には個人的にも強く賛同できます。しかしながら、ペロシ下院議長は中国に対して長年強硬姿勢を取っていたことでも知られているとのことですが、82歳を迎え退任も近づいているタイミングでの今回の訪問は個人の実績としてのレガシーづくりの部分もあったのでは、とも言われており、今後の米中関係の落としどころをどこにもっていくかが見えない現状においてはこの訪問が意味のあるものであったのか、疑問符を抱かざるを得ない部分がやはりあります。

バイデン米大統領と習近平国家主席の会談が11月に予定されているとのことですが、そこで何かしらの糸口がみえてくるのかというと、実際のところ難しいのではという気がします。

最新号のモーニングの『社外取締役 島耕作』でもタイムリーに触れられていたトピックですが、1995年の防衛費の年間予算は日本の約4.5兆円に対して、中国は約4兆円とこの時点ではまだ日本の方が予算をかけていました。ところが98年に中国の方が予算が多くなり、2021年でみると中国は約33兆円、日本は5.1兆円とその差は6倍と圧倒的な差がついてしまっています。ちなみに人口が日本の三分の一の韓国の防衛費も2018年には日本よりも多くなっているとのことです。この現況に対して一概に日本の防衛予算を増やすべきかというと、そこにはもちろん議論があります。

今回の訪問は現状は(ギリギリではあるものの)小康状態にあるともいえる中国の台湾に対する姿勢をより攻撃的なものに転換する口実を与えるきっかけになり得るものであり、そうなると台湾にとってもデメリットがあるのはもちろんのこと、これだけの予算差がついている現実を鑑みても、日本への影響も必至です。

ロシア以上に他国のリソースがなくても国家としての影響がある種少ないともいえる中国からすると、最終的には台湾への侵攻というものも可能性としてはゼロではないでしょうし、それ以前に中国の台湾周辺での軍事演習の範囲が広まるだけで海上輸送においても大きな影響を受けます。

一概に日本の防衛費を増額したらどうにかなる問題かというと、そういうわけでももちろんなく、そこにももちろん議論があります。中国だけではなく北朝鮮の脅威も考慮するとさすがにもう少し増やすべきなのではという気もしますし、理想論を掲げると防衛費増額ではないオプションでより平和的に解決につながっていく道を見いだせることがベストなのは分かりつつもこの混迷の状況でなかなかいい選択肢がみえてこないのもまた、これまた悲しい現実ですね。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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