【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.34 世界最大級の仮想通貨の交換業者FTXが経営破綻
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.34 暗号資産の世界最大級の交換業者FTXが経営破綻
先週末、世界最大級の仮想通貨の交換所であったFTXが経営破綻し、世界中にそのニュースが駆け巡りました。
暗号資産の交換業者FTX、業界最大級の経営破綻…債権者10万人・負債数兆円か
MITを卒業したサム・フリードマンが2019年に創業した同社ですが、またたく間に世界に名を轟かせて、大坂なおみや大谷翔平をアンバサダーに起用し、日本においても事業を拡大している最中の破綻劇になりました。
今回の破綻はFTX社が顧客から預かっていた資産を違法に流用していたことがトリガーとなり起こっており、仮想通貨のボラティリティが高いからといって起こったことではありません。証券会社や銀行でも理論上では起こり得る話です。
ただ、銀行や証券会社は歴史が長い分、顧客の資産保護のための法整備が整っている度合いが高くなっています。また日本市場は仮想通貨の分野においても、法律がしっかり定められていて、逆にそこが普及のハードルになっている側面もありながら、今回のケースにおいては日本法人においては資産の保全がしっかりとなされていたという報道もされています。
実は僕は仮想通貨を買ったことがなくて、そのフットワークの重さに関しては、それはそれで褒められたものではないなと思いながら、なぜ今まで買っていなかったかというところには理由があります。
利益を生み出すシステムとして会社を捉え、それを金銭的価値に置き換えたものが企業の時価総額です。その置き換えのプロセスで株価という価値が決定され取引されるのが株式です。企業の売上や利益に応じていくらくらいの株価が妥当であるという水準が細かく共通認識として持たれています。
金の場合は、採掘量が限られているという世間の共通認識が前提の背景としてあり、その輝きを手にしたいという人が一定数存在している前提で相場が設定されています。
アートに関しても少し似ていて、この値段であればほしいという人が一定数以上いれば値上がりしていきますし、人気の期間が長ければ長いほどその価値は安定的なものとして評価されます。アーティストの死後は、作品の供給数が増えないという状況が強制的に発生し、その価値はさらに高まっていくケースも多いです。
仮想通貨に近い存在ともいえる法定通貨に関しては、それ自体にはモノとしての価値があまりなくても、自国においてはその通貨を決済のための価値交換媒体として定義することで、その媒体としての存在価値が生まれます。
では、仮想通貨はどうなのかを考えてみると、供給量が人為的ではないかたちでコントロールされている前提で、多くの人々が値上がりをするであろうからという理由でそれをほしいと言っている、というところが価値の源泉になっているケースがほとんどです。
最も知られている仮想通貨であるビットコインやイーサリウムは一部では流通貨幣としてもその立ち位置をもっているものの、これらが決済手段で使えなくなったときのインパクトはまだ僅少といえる範囲で、インフラとして確固たるポジションを確立しているというにはまだ尚早な印象があります。その部分に対する今後の期待を含めて投資するというスタンスなのであれば、スタートアップへのエンジェル投資的な観点では面白い投資といえる側面もあるかもしれません。
ただ、こういった現状なので仮想通貨に投資すべきではないということが今回のコラムで言いたいわけではなく、それでもやってみることで理解できることもたくさんあるのは当然なので、冒頭にも書きましたがこの領域における自分の腰の重さについては反省している側面が多分にあります。
そのもの自体に宿っている価値が現状あまりなく、価値がどうつくかのパラメーターは世の中におけるその通貨の人気度に依存している度合いが高い投資商品ということを理解した上で、ギャンブル性がそれなりに高い投資商品だという前提で保有してみるのは面白いチャレンジなのだと思います。
世界全体でみると金余りの側面も多分にある昨今。熱狂的なギャンブルってやっぱり人気があるのだなと思うのと、法整備とかが追いついていないところも今回の破綻の要因のひとつだったと思うと、ギャンブル的な投資がスピーディに白熱ししすぎた結果だった部分もあるのだろうなとも同時に、やはり思います。みんな、ギャンブルも好きなんですよね、やっぱり。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue