歴史と食を堪能する2泊3日の長崎旅へ | Numero TOKYO
Life / Travel

歴史と食を堪能する2泊3日の長崎旅へ

9月23日に西九州新幹線が開業し、ますますアクセスしやすくなった長崎県長崎市。今回は2泊3日で長崎市内を巡る旅へ。

祈りの町、外海へ

最初に向かったのは長崎市街地から約10km、角力灘(すもうなだ)に面した外海(そとめ)エリア。“隠れキリシタンの里”として知られ、キリスト教文化が色濃く残る街です。遠藤周作の小説『沈黙』の舞台としても知られています。作中にも登場する黒崎の地に建つ黒崎教会は平家と桟瓦葺の屋根、赤煉瓦が印象的な美しい教会です。

1879年に主任司祭として赴任してきたフランス人宣教師マルコ・マリー・ドロ神父が私財を投じて建てた出津教会堂は清楚な佇まいが美しい素朴な外観。そのすぐ近くにはドロ神父が女性の自立を促すために創設した旧出津救助院も。この一帯は「長崎市外海の石積集落景観」として国の重要文化的景観に選定。歩いているだけで歴史を感じられるエリアです。




遠藤周作は独自の歴史と文化を持つ外海をこよなく愛し、“第二の故郷”と語っていたほど。角力灘を見下ろす「道の駅 夕陽が丘そとめ公園」に隣接するのが〈遠藤周作文学館〉。生前の愛用品や生原稿、蔵書などが展示され、遠藤文学好きにはたまらないスポット。ちなみに外海エリアは夕日の名所として有名で、文学館からも角力灘に沈む美しい夕日を望むことができるそうです。

穏やかな時間が流れる茂木町

外海地域を後にして向かったのは茂木町。長崎市内中心部から車で約20分と比較的近いにもかかわらず、美しい山と海に囲まれた自然豊かな港町です。橘湾に面する茂木は魚種豊富な海産物や枇杷の生産地として知られています。かつては、新鮮な魚を振る舞う料亭が立ち並び、“長崎の奥座敷”と呼ばれていたそう。ただ、現在は人口減少が進み、空き家も増加。料亭として営なまれた建物も廃屋に。街の歴史を刻んできた料亭をリノベーションしたのがプレミアムゲストハウス「月と海」です。

全14室ある客室は部屋の広さやレイアウトのバリエーションが豊富で、選ぶ楽しみがあります。宴会場として使われた大広間を回収した客室には、立派な松の絵が今でも残っています。オーシャンビューの客室からは、豊穣な橘湾と幻想的な月明かりを堪能できます。茂木町は沿道の街灯が少なく、そのおかげで海面に映る月の光がひときわくっきりと見ることができるのです。

滞在中の食事は、館内にある地元の食材を提供するレストラン〈波まち食堂mog〉で。茂木で採れた新鮮な魚がメインの朝ご飯がとてもおいしかったです。

客室には茂木の銘菓「一口香(いっこっこう)」がウェルカムスイーツとして置いてあります。一見するとただのお饅頭に見えますが、中が空洞になっている不思議な焼き菓子なんです。パリッとした食べ応えと、水飴とハチミツの甘みを堪能できます。

宿の入り口にかけられた暖簾は茂木の特産品、枇杷の葉を使って染め上げたそう。地元の茅葺職人が製作した茅のフロントデスクの後ろはロビーラウンジになっていて、街の人たちが集まるコミュニケーションの場としても親しまれています。そうそう、館内には看板猫ウニちゃんもいるんですよ。

「月と海」の客室にシャワーやお風呂はありません。館内にある共同のシャワールームを使うか近くにある銭湯を利用します。あえて客室に浴室を設けなかったのには理由があります。イタリアで根付く「アルベルゴ・ディフーゾ(分散したホテル)」いう考え方をベースに、街全体をホテルと見立てて、お風呂は銭湯、朝ご飯は街のパン屋、土産は近くの菓子店や干物専門店を案内し、ホテルの役割を分散させて街ごと活性化させたいというオーナーの大島徹也さんの思いがあるそうです。

天気に恵まれた翌朝は宿の目の前に広がる美しい橘湾でSUPを体験。ボードやパドル、ウエットスーツなど必要な道具はレンタル可能!この日は穏やかな波のおかげで、初心者の私も楽しむことができました。「月と海」では今後地元の事業者と連携し、体験プログラムの充実も図りたいそう。長期滞在向けにぴったりの手頃な価格設定なので今度はワーケーションをしに来たいなと思いました。

生カステラ、一口餃子、ミルクセーキ!

「月と海」を後にして長崎市街へ移動。グラバー園や大浦天主堂、出島など長崎の観光名所を堪能した後は、眼鏡橋のすぐそばにある「長崎菓尞 匠寛堂」へ。

長崎市内にカステラ専門店は数あれど、毎年皇室へカステラを献上しているのは「匠寛堂」だけという由緒あるお店です。創業以来、無添加で良質な素材のみを厳選したカステラ作りを追求。店内にはショップスペースの他に喫茶スペースもあり、ここで焼きたての“生カステラ”を味わうことができます。熟練の職人がその日の気候や湿度に合わせて焼き上げの時間を微妙に変えるというこだわりぶり。できたての生カステラはしっとりとした上品な味わい。この日は東そのぎ産の玉緑茶と合わせて穏やかなティータイムを楽しみました。

ちなみに皇室に献上している「献上五三焼 佳好帝良」や「赤米カステイラ 丹穂乃舞」を含む5つのカステラが味わえるセットメニューも。カステラ好きには見逃せません!

「長崎菓尞 匠寛堂」の次に向かったのは、スペシャリティコーヒーショップ「カリオモンズコーヒー長崎」。造船会社などが入った古いビルの1階に構えた店からは芳ばしい香りが。


ここではオーナー自らニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラスなどのコーヒー農家を訪ね、生産者にきちんと利益が出るよう適正な価格で買付をしているそう。豆の個性に合わせて、焙煎し、抽出したコーヒーの数々がいただけます。


コーヒーと共に提供されるインフォメーションカードには、風味の特徴や農園の情報も記載されていて、コーヒー農家の人々をより深く、より身近に感じることができます。店内ではオリジナルのコーヒー豆の販売も。地元のアーティストが描いたイラストがお土産にも良さそうです。


2日目の夜は長崎名物の「宝雲亭」。一口餃子を味わい、思案橋横丁をぶらぶらしながら、「桃太呂」の豚まんを買い、ホテルへ帰宅。


3日目の朝は長崎港や稲佐山を一望できるベイエリアにある複合商業施設〈出島ワーフ〉へ。この中にはる〈アティックコーヒーセカンド〉は、店内に設置された巨大なロースターで焙煎した香り高いコーヒーが味わえるカフェ・レストランです。

知識豊富なバリスタさんおすすめを聞きながら、ヨットハーバーを横目に極上のハンドドリップコーヒーと食事をいただきました。ちなみにラテは坂本龍馬のアートが描かれています……!今回は朝に伺いましたが、日が沈むと長崎の夜景が楽しめるそう。なんてロマンチック!

朝食を楽しんだ後は出島近くの干物店で長崎県産の干物を買い、日本茶専門店で彼杵茶を買い、地元名物のミルクセーキを食べてフィニッシュ! 長崎の食と名所を堪能し尽くした3日間でした。

月と海
住所/長崎県長崎市茂木町2190
URL/tsuki-to-umi.com/

長崎菓尞 匠寛堂
住所/長崎県長崎市魚の町7-24
URL/www.shokando.jp/

アティックコーヒーセカンド
住所/長崎県長崎市出島町1-1 長崎出島ワーフ1F中央
URL/attic-coffee.com/attic-coffee-second

Photos & Text: Mariko Uramoto

Magazine

MAY 2024 N°176

2024.3.28 発売

Black&White

白と黒

オンライン書店で購入する