【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.32 全国旅行支援とダイナミックプライシング
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.32 全国旅行支援とダイナミックプライシング
10月11日から『全国旅行支援』が始まりました。外国人の入国ハードルも下がり、先週末はさすがにどこもかしこも人が多かったですね。さて、この旅行支援に関して、思ったほどホテルが安くなっていないのでは? という声がさっそくあちらこちらから聞こえてきています。
全国旅行支援「“便乗値上げ”には厳正に対処」斉藤国交相 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221018/k10013862381000.html
斎藤国交相が便乗値上げには厳正に対処するとコメントしたと、NHKも報道しているのですが、楽天トラベルやじゃらんといったいわゆる大手旅行サイトのホテルの値付けにはダイナミックプライシングという需給に応じて価格が変動するシステムが導入されてから久しく、年々そのプライシングの精度は高まり続けています。
ホテルの価格が常に一定の前提だと便乗値上げという概念も成立するものの、<<そもそも需給に応じて価格が変動する>> ≒ <<常に便乗値上げ・値下げをするシステム>>で設定されている状況で、正直厳正に対処のしようがありません。
決して満室にするのが目的ではなく、高めの値段で設定して僅かに空室があるくらいの按配が、一部屋あたりの価格に予約件数を乗じた売上が最大化するタイミングであり、一泊5000円の補助が出るとなったときに、それを自動的に判断するアルゴリズムがつくどう動くかを考えてみましょう。正解はシンプルで、今までの一泊の価格に+5000円した金額の設定が、理論的には今までと同じ稼働率になるのです。
今までの価格が稼働率が下がったとしてもこれ以上は下げられないという最低ラインの設定になっていたホテルに関しては、補助金で実質値下げされる分、稼働率が高まるという事象を優先することも想定されるものの、これまで割安に泊まれていた人気のホテルはこの状況でも一定の稼働率を保っていたところは少なくなく、そういったところは端からみると『便乗値上げ』したように見えてしまうところがどうしてもあります。
全国旅行支援が始まったタイミングが海外からの入国ハードルが大きく下がったタイミングと重なっており、この円安だと外国人にとっては日本はすべて3割引に映るみたいな天国みたいな状態で、もちろんながらそれもダイナミックプライシング的には需要が高まり値上げに寄与する要素です。
かつ国内でもこれだけメディアが旅行支援のことをとりあげたことで高まった旅行ニーズは、結果的に一泊5000円以上の価値換算のホテルの需要増を産んでしまっているケースがままあり、今のような状態になってしまっています。
僕はコロナ禍においても割と国内に関しては積極的に旅していました。どこもホテルが安くてありがたかったですが、随分とそれに慣れてしまった結果、やはり今月からはやはりちょっと高いなぁと感じてしまっています。
国内の旅行産業のことを思うとむしろ需要がある方が当然望ましい状況で、それはそれでいいことだなと思いつつも、だったらそろそろ海外に行きたいなという気分になりつつも、この円安だとなかなか腰が重いのもまた事実で。
いろいろなものが安くて快適なことは消費者的にはありがたいことながら、経済全体ではやはりあまりハッピーなことではなく、ゆくゆくは消費者に返ってくるということは分かりつつも、景気の回復にもまたエネルギーがかかるものだよなぁというのを実感するこの秋になっています。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue