編集長・田中杏子より『Numéro TOKYO EXTRA 神崎恵』に寄せて
美容家・神崎恵を丸ごと一冊フィーチャーした 『Numéro TOKYO EXTRA 神崎恵』が10月3日に発売される。ビューティ界で圧倒的な支持を誇る神崎が、モードと出合ったら? この一冊を作るに至った、編集長・田中杏子の思いを先出しします!
女も惚れる女性、神崎恵
彼女のことを書こうと思い考えるほど、そのつかみどころのない素晴らしさに気が遠くなる。つかみどころがない、というのは同時に、非の打ちどころがない、という意味でもあるからだ。
初めて彼女に会ったのは、昨年11月末、本誌「Numéro TOKYO」2022年3月号の撮影の日。最初の印象は「笑顔が素敵な物腰のやわらかい女性」。その次にお会いしたのが、プロの手さばきを目の当たりにした「パルファン・クリスチャン・ディオール」でご一緒したインスタライブ。耳に残るフェミニンなダブルトーンのミックスボイスで視聴者からのコメントを一切無駄にせず、優雅に、完璧に進行役も務めてしまう。やわらかい第一印象の裏には“隠れ頭脳明晰女子”という側面があるのだと気付かされた日だった。この日の終わり、準備していた“お疲れさまシャンパン”を勧めてみると、「お酒も大好きですよ~!」とディオールの最新バッグとシャンパングラスを片手に、終わりまで一緒に過ごしてくれたのだ。時が経つとまた会いたい、と“恵”欲に駆られるのが彼女なのだ。
会うたびに、ある時は「これ、ポリポリ食べるのがおいしい食べ方です」とオーガニックのグラノーラを、ある時は「どんなお肉もさっと焼いてつけるだけで絶品になります」と生黒胡椒を、「ネーミングが面白いんですけど、うちのサラダはこれです」と新玉ドレッシングのお裾分けをいただき、そのすべてが本当に絶品で、物を知り尽くした人のセレクションであることに気付かされる。同時に「美容家・神崎恵」を形成する完璧なイメージを、いい意味で軽く裏切ってくる人間味にもやられてしまう。彼女にはかなわない。ずっと“ウォッチャー”としてそばにいたいと思わせてくれる特別な人だ。いい物に出合った時「あの人の分も買っておこう!」と思いつくのだろうか。そして、その「あの人」が一体何人いるのだろう……。
「 『Numéro TOKYO EXTRA』で丸ごと一冊、神崎恵本を作りたい!」とタイミングを見て告白しようと決めていた私と担当編集・佐々木奈歩は、多忙な彼女にアポをとりアトリエ近くのレストランで再び会う機会を得た。シャネルのジャケットを羽織り、たっぷりの笑顔で現れた彼女は、この時もお気に入りの「手指消毒用のサニタイザージェル」と「愛用のヘアスプレー」を私たちに持参してその良さを説明してくれたのだ。こちらはといえば、お礼の花束、という平凡なアイデアにもかかわらず、「このお花、素敵」と目を輝かせ喜んでくれた。そして「働く女性の現状」や「子育て」「人生観」など共通の話題で大いに盛り上がった。女友達の理想的な関係は、話したい内容は包み隠さず話すけど最後には干渉しない、という方程式。それを瞬時に感じ合えた気がした。レストランを出ると心地よい霧雨が降り、その中を「ごちそうさまでした! ご一緒できることを楽しみにしています」と手を振りながら、花束を自転車のかごに乗せてシャネルのジャケットで走り去っていく神崎恵は、どこまでも男前だった。
このときの後日談がある。濡れたサドルを拭いてもらうために私のハンカチ(プラダのレセプションでいただいたバンダナのようなもの)をお渡ししたのだが、後日洗濯して返してくださる際、「新しいのをと思ってプラダのブティックに駆け込んだら、このハンカチは販売していないと言われたんです。ほかのハンカチもなく、ならばグッチ、ならばセリーヌとお店に駆け込んだのですが、どの店もハンカチは売っていないんですね……」と残念そうに謝る彼女を見て、どこまでも愛情たっぷりの気遣いに気が遠くなりそうになった。この人には誰もが惚れる理由がある。惚れる箇所が多面的で深いから、厄介⁉ なのだ。
「恵さんに会うたびに、私ももっときちんとしなきゃ、って律する気持ちが芽生えます」と本人に伝えると、「杏子さんは感覚の人だからそのままでいいんです。私はすべて“研究発表”なんです。いろんな人から得たたくさんの“素敵ディテール”が脳内クラウドに蓄積されていて、そのピースを取り出して組み合わせるんです」と答えが返ってきた。そんな超人のようなことをあのテンションでやり続ける彼女には、やっぱりどこまでいってもかなわない。そして、ずっとそばにいたいと思わせてくれる人。そんな神崎恵を丸ごとギュギュッと特集しました。ぜひご堪能ください。
Numéro TOKYO編集長 田中杏子
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