ピンクで巡る世界の建築
「○○な建築」とかけまして「最も話題を呼ぶ色は?」と解きます。答えはピンク。鮮やかさ、キャラ立ち、写真映え……縁起物としても◎。「こんな建物、見てみたい」。ピンクな建築を巡る世界の旅へ、いざご案内!(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』10月号掲載)
Architecture 01
Casa Luis Barragán
ルイス・バラガン邸(メキシコ・メキシコシティ)
メキシカンピンクのモダニズム名作建築
メキシコを代表する建築家、ルイス・バラガン。メキシコの強い日差しに映える色彩を好み、なかでもブーゲンビリアのような鮮やかなピンクは作品に多く登場した。代表作の一つである自邸は、彼が1988年に亡くなるまで自宅・アトリエとして使用され、2004年にユネスコの世界遺産に登録された。エントランスを抜けた「ピンクの間」は、自然光と色彩の対比が緻密に計算された空間。名実ともに“ピンクのモダニズム建築”の代表格だ。設計:ルイス・バラガン 竣工:1948年 住所:Gral. Francisco Ramírez 12, Ampliación Daniel Garza, Amp Daniel Garza, Miguel Hidalgo, 11840 Ciudad de México
メキシコを代表する建築家が後半生を過ごした3階建ての自邸。隣接する仕事場とともに世界文化遺産に登録された。外壁は主に灰色で、内部との対比が際立っている。
Architecture 02
Paul Smith Melrose Avenue Shop
ポール・スミス メルローズ・アヴェニュー ショップ
(アメリカ・ロサンゼルス)
LAの青空に映える“ピンクのシューボックス”
ポール・スミスがLAに出店を決めたとき、南カリフォルニアの青空から想起したのは、敬愛するルイス・バラガンの建築作品だった。そこからインスパイアされ、「大きなピンクのシューボックス」と呼ばれたピンクウォールのショップは、今や街で最もアイコニックなスポットに。今年5月には、ピンク色の外壁を剥がした下からシグネチャーストライプが現れたかのようなトロンプルイユの壁画が公開され、さらに注目を集めている。
建設者:ポール・スミス リミテッド 竣工:2005年 住所:8221 Melrose Avenue, Los Angeles, 90046
目が覚めるようなホットピンクのカラーリングは、まさに唯一無二。5月には、外壁の一部が剥がれてブランドのシグネチャーストライプが覗いているように見える壁画を施した「Melrose, Unwrapped」キャンペーンを実施した。
Architecture 03
Hawa Mahal
ハワー・マハル(インド・ジャイプール)
マハラジャと女たちの物語が息づく風の宮殿
インド北部・ラジャスタン州のジャイプールは、王宮や城壁など、ピンク色の建物が多く「ピンクシティ」とも呼ばれている。その象徴である「ハワー・マハル(風の宮殿)」は、ピンク色の砂岩を用いた外観と、953もの小窓が特徴的。18世紀のマハラジャ、サワーイー・プラタープ・シングによって、人の目に触れてはいけなかった当時の宮廷の女性たちが街の景色を楽しめるように建設された。繊細な装飾も魅力的な、人気の旅のスポットだ。
建設者:サワーイー・プラタープ・シング 竣工:1799年 住所:Hawa Mahal Rd, Badi Choupad, J.D.A. Market, Pink City, Jaipur, Rajasthan 302002
小窓には風(ハワー)が循環する機能があり、命名の由来になっている。
Architecture 04
Tân Định church
タンディン教会(ベトナム・ホーチミン)
SNS時代の到来によって“再発見”された歴史ある教会
フランス統治下の1876年に建設されたタンディン教会は、ホーチミン市では二番目に大きなキリスト教会で歴史も古く、長い間、市民に親しまれていた。それがインスタグラムで「ピンクの教会」として話題になり、今やベトナム屈指のフォトスポットに。ゴシック様式の建築とバロック様式の細やかな装飾に加え、ステンドグラスも美しく、旅行誌 『Condé Nast Traveler』で「世界で最も美しいピンクの場所」の一つに選出されている。
竣工:1876年 住所:289 Hai Bà Trưng, Phường 8, Quận 3, Hồ Chí Minh
ピンクの外壁に白く縁取られた窓がアクセントを添える。外観とは対照的に、聖堂内の壁や柱は純白に塗られている。
Architecture 05
The Green Citadel of Magdeburg
グリーン・シタデル・オブ・マクデブルク
(ドイツ・マクデブルク)
奇抜な作風を貫いた芸術家による複合施設
日本では大阪市環境局舞洲工場などを手がけたオーストリアの画家・建築家、フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー。自然との共生をテーマに掲げていた彼が2000年に亡くなる直前まで取り組んだのが、複合施設「緑の砦」。死後の05年に完成した建物は、ピンクの外壁とカラフルなオブジェ、草で覆われた屋上や樹木が共存。画家でもあった彼の色使いは、社会主義時代の無骨な建造物が残る街に、温かな彩りをもたらしている。
設計:フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー 竣工:2005年 住所:Breiter Weg 9, 39104 Magdeburg
施設内には飲食店やショップ、オフィスや公共住宅に加え、ホテル「artHOTEL Magdeburg」も入居。
Architecture 06
The Podium
ザ・ポディウム(オランダ・ロッテルダム)
屋上空間を引き立てるピンク色のルーフトップ
表参道の複合ビルGYREを手がけたオランダの建築家集団MVRDVが、本拠地のロッテルダムで設計した「ザ・ポディウム」。オランダ建築協会ヘット・ニュー・インスティテュートの建物に固定された、143段の階段と600平方メートルの屋上空間からなる仮設スペースだ。足場構造とリサイクル可能な床材で構成され、8月17日までさまざまなイベントが催される。都市の屋上を活用する提案が、ピンクの彩色によって強く印象づけられている。
設計:MVRDV 竣工:2022年 住所:Museumpark 25, 3015 CB Rotterdam
ロッテルダム建築月間の催事を目的として、ヨー・クーネン設計の建物に屋上と階段を追加。合理性と奇抜さで知られるMVRDVの最新作。
Architecture 07
Putra Mosque
プトラ・モスク(マレーシア・プトラジャヤ)
花崗岩で砂漠の色を表現した通称「ピンク・モスク」
首都クアラルンプール近郊の行政都市プトラジャヤのランドマークは、バラ色の花崗岩を使用し、砂漠のピンクをイメージしたプトラ・モスク。1999年に完成し、マレーシアの初代首相にちなんで名付けられた。湖に面した立地にメインドームと小さな8つのドーム、高さ116メートルの尖塔を備え、礼拝者1万5千人を収容できる内部空間もピンクに統一。ローズピンクのイスラムモザイクと、ドアや窓に施された木の彫刻が美しい。
竣工:1999年 住所:Persiaran Persekutuan, Presint 1, 62502 Putrajaya, Wilayah Persekutuan Putrajaya
「プトラ」はマレー語で「王子」の意味。王族出身の“マレーシア建国の父”トゥンク・アブドゥル・ラーマンにちなむ。
Text : Miho Matsuda Edit : Keita Fukasawa