【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.29 仙台育英が夏の甲子園で初優勝
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.29 仙台育英が夏の甲子園で東北勢として初優勝
僕はMLB、そして日本のプロ野球も好きですが、高校野球も好きで毎年楽しみにしていて、甲子園が終わると夏の終わりが近づいてきたな、と少し寂しさを感じるのですよね。
今年は宮城県の仙台育英が東北勢としての夏の甲子園初優勝を見事果たしました。試合後の須江監督のインタビューの「青春ってすごく密なので。でもそういうことは全部ダメだ、ダメだと言われて」という言葉に、心を動かされた方も多いと思います。
夏の全国高校野球 仙台育英が優勝 東北勢の優勝は春夏通じ初 https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220822/2000065330.html
仙台育英監督「青春って、すごく密なので」 優勝インタビュー全文
https://t.co/ke4AUBn6YW「宮城のみなさん、東北のみなさん、おめでとうございます! 」
「100年、開かなかった扉が開いたので、多くの人の顔が浮かびました」須江航監督が優勝インタビュー で語った全文です。 pic.twitter.com/NGVL4eb3yO
— 朝日新聞デジタル (@asahicom) August 27, 2022
仙台育英の今までの甲子園の優勝チームになかった特徴として、全試合を継投で勝ち抜いたということがありました。最速145km超えの投手を5名揃え、2回戦の鳥取商業高校との試合では5人で完封リレーという甲子園初の記録も達成しています。どちらかというと大黒柱のエース、驚異的なホームランバッターがチームを引っ張り優勝する、というケースの多い甲子園で総合力で大会を制していったというのが今回の仙台育英のスタイルでした。
須江監督は強豪校との戦い方として「なんなら27アウトを27人のピッチャーでひとり1アウトをとっていく継投をしてみたい」と話しているくらい継投を重視しており、選手層をいかに厚くしてその体制を作っていくかという取り組みも多くのメディアで報じられています。
その育成方法は高校野球の中では個性的といえるものでで、ベンチ入りするためのKPI(Key Performance Indicator)的な基準の数字を、投手の場合、右投手であれば140キロ以上、左投手は135キロ以上の球速を出せること、野手の場合は一塁到達タイムが3.85秒未満で、スイングスピードは140キロ以上といった基準を設定し、まずはそこの数値超えを目指して部員たちはトレーニングしてきたとのこと。ちなみに最高球速140km以上の投手は12人もいたらしく、層の厚さを物語っているエピソードだなと感じました。
ベンチ入りメンバーの基準をはっきりさせることで、部員たちにとってはどの部分を重視してトレーニングすべきかが明確になり、それが全体の底上げにつながり全国制覇までつながっていった須江スタイルは、ビジネスの世界におけるチームマネジメントを考える際にもとても参考になる部分があるなと興味深く、様々な記事をふむふむと拝読しました。
#仙台育英 須江監督単独インタビュー 自身の仕事は“思考の交通整理”、独特の指導法に迫る― スポニチ Sponichi Annex 野球 https://t.co/cJtpJAiGya
— 【公式】スポニチ高校野球2022 (@sponichi_kkbb) August 25, 2022
東北勢がこれまで優勝できなかった理由は、雪国で冬の練習が難しいというハンディがあるといったことも言われてきましたが、この話もデータ的にみると決勝進出回数として少ないわけではなく、どちらかというと確率の問題で不運が続いていたという側面が大きいのかもしれません。この10年で菊池雄星、大谷翔平、そして佐々木朗希という宇宙級のピッチャーがすべて東北から輩出されているというのもまた興味深い話で、超高級ピッチャーの登場で、他校が当時から超高校級の投手であった彼らへの対策を重ねることで、結果的にエリア全体のレベルアップに繋がった部分があるという考察が、日刊スポーツの記事にもあったのも面白かったです。
加えて仙台育英に関しては、決勝の先発メンバー9人のうち4人が2年生だったとのことで、データ重視のレギュラーの選び方をすることで、チーム全体で納得感が持った状態を保ちながら下級生をピックアップできるという部分もあったのだと感じました。
ちなみに今回ベンチ入りしていた5人の投手のうち3人もまだ2年生で、彼らが新チームにそのまま残る仙台育英。もちろんながら、それでも簡単に連覇できるわけではない甲子園。来年もまた今から楽しみです。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue