軽やかなドラマティックを楽しむ秋。長澤まさみ ツイードのレガシー
シャネルの2022/23秋冬 プレタコレクションは、メゾンの永遠のコードとなる“ツイード”を現代女性のために再解釈。ツイードの原点へと立ち返り、発祥の地であるイングランドとスコットランドの境界線に流れる“ツイード川”をトリビュート。ツイード川に沿って、ガブリエル・シャネルの足跡をたどったコレクションに。フレッシュなカラーパレットに加えたモダンなツイスト、ラグジュアリーなユーモア……シャネルらしい遊び心を効かせたスタイルを、女優・長澤まさみが着こなす。喜びと幸せに満たされる、ツイードが奏でる無限大のレガシーを現代に受け継いで。( 『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2022年10月号掲載)
楽しい毎日を送りたいのであれば、誰かや何かに頼るのではなく、自分で自分を楽しくしてあげる
10代から女優として第一線を駆け抜けてきた。数えきれないほどの話題作に出演し、ヒット作を世に送り出し、ここ数年は特に幅広い役を演じる機会が増えた。狂気的な母親、お茶目な詐欺師、真面目なホテルマン……作品ごとにくるくると表情を変え、どんな役柄も乗りこなしてしまう。30代の彼女はより生き生きと楽しげにカメラの前に立っている。そんな長澤まさみさんが新たに挑んだ作品が映画『百花』だ。
「記憶を失っていく母と、母に女手ひとつで育てられた息子、今作はそんな親子の心の交流を描いた物語です。私が演じた香織は、息子の妻として二人の間に立つ存在。本当の親子ではなく一人だけ他人でありながら、家族というものをつなげていかなければいけない、とても難しい役どころだったので。実は最初、この役を私が引き受けていいものなのか……とても迷ったんですよ」
そんな長澤さんの心を動かしたのが、監督である川村元気さんからの一通の手紙だった。
「そこには、今の私なら演じることができると、気持ちを後押ししてくれるような言葉が綴られていました。私はその言葉に背中を押されて……。映画プロデューサーとしても活躍されている川村さんには今まで何度もお世話になっているんですけど。ズルいんですよ、川村さんは(笑)。そうやってすぐに人の心を動かしてしまう。人をやる気にさせるのが本当に上手なんです」
“友達の友達はみんな友達” 広がる友情ネットワーク
話題作への出演がひっきりなしに続く長澤さんだが、今回のインタビューが行われたのは新たな作品に入る直前。「今はちょこちょこお休みがあって。毎日のように友達との約束を詰め込んでリフレッシュしています」とほほ笑む。友達とどんな時間を過ごしているのか尋ねると、久々に外食を楽しんだ話、1泊2日でライブを見に行った話、次々と楽しげなエピソードが飛び出した。
「この間は、友達と東京のデザインホテルに宿泊したんです。お昼くらいにカフェで待ち合わせをして、銀座や日本橋をぶらぶらして、デパ地下でおいしそうな食品を物色。ホテルの近くのワインショップでワインを買って。友達が持ってきてくれたプロジェクターで『スター・トレック』シリーズを鑑賞しながら、夜通し話し続けました。最近は仲の良い料理家さんたちのお宅にお邪魔することにもハマっているんです。そこで、料理家さんが作るおいしい食事をいただきながら料理を学んだりして」
そして「もうひとつハマっていることがあるんです」と某地方にあるアトラクションについて楽しそうに語ったと思いきや、「あ、でも名前を出したら人気が出ちゃうかも‼ やっぱり、これは内緒にしといてください」と笑う。長澤さんはとてもチャーミングな女性だ。彼女が愛されるのは仕事だけでなくプライベートもまた同じ。その証拠に、とにかく友達が多い。様々な業種、幅広い年齢層、多種多様な人たちが彼女の周りには集まってくる。
「仕事現場で仲良くなることもあれば、友達の紹介で仲良くなることも。出会いはさまざまなのですが、基本、私の友情は“友達の友達はみんな友達だ”システムなので。例えば、忙しくて日数が限られていたらガッチャンコ、みんな一気に同じ場所に集めちゃうんです(笑)。そこで、友達同士が仲良くなったら楽しいし、一緒に遊びに行った話を聞けば嬉しくなる、好きな人達がつながっていくのは私の喜びでもあって。私自身も“ガッチャンコ”されるのは大歓迎です。『知らない人に会うのを躊躇したりしないか?』を聞かれますが、滅多にしないですね。誘われたら臆せずにとりあえず参加してみる。フットワーク軽くいたいです」
幼い頃から彼女の素顔は“ひょうきん”な女の子
「世界にはいろんな人がいて、いろんな意見が存在する。自分以外の人と話すことは意見交換にもなりますし、友達を通して自分の知らない世界を知ることだってできる。それは、私にたくさんの気づきや成長を届けてくれます。また、自由に生きるのは素敵なことだけど、たまには“気を使うこと”も経験したほうがいい。人間関係はやっぱり面倒臭いこともあるけれど、その面倒臭さが人生には大切だったりするんですよね」
楽しい時間だけでなく、学びや成長も届けてくれる。長澤さんの周りにいる友達はどんな人たちなのか、それもまた気になるところだ。
「私は “面白い人”が好きなんです。おしゃべりが上手な人も、人間的な面白さを持っている人も、ユーモア溢れている人も大好きで。一緒にいる時間を楽しく過ごせる、たくさん笑い合える、そんな友達が多いんです」
友達は自分を映し出す鏡。長澤さんもまた、友達の目には“面白い人”として写っているのかもしれない──。
「もしかしたら、そうなのかもしれませんね。今、思い出したんですけど。私、16〜18歳の頃、オーディションで怒られたことがあるんですよ。“笑わせようとしなくていいから”って(笑)。会場のシーンとした空気が耐えられなくて、私としてはちょっと和ませてみようかなくらいの気持ちで、ふざけたことを言ってみたんですけど。逆に怒られてしまったという(笑)」
この日、長澤さんがスタジオに入ると空気が明るく和やかに。メイクルームからは笑い声が漏れ聞こえ、撮影中も彼女のお茶目な言動に何度もスタッフから笑い声があがった。
「ふふふ、やっていることが10代の頃と変わってないっていう(笑)。ついつい、ふざけたことをしてしまうんですよね。私ね、こう見えてわりと“ひょうきん”なんですよ。子どもの頃から今もずっと(笑)」
現状維持を意識したことは一度もない。理由は「カッコ悪いから」
友達との楽しい時間は嵐の前のご褒美タイム。「残念なことに、このヌメロが発売される頃には、多忙な毎日がスタートしていると思います」と笑う。作品に入ると現場と家の行き来だけの毎日に。自分の時間をとることもままならなくなってしまう。そんな忙しい毎日を長澤さんはいつもどう乗り越えているのだろうか。
「楽しもうと思えば、どんな大変な瞬間であれ楽しい時間になる。すべては考え方次第だと思うんです。人生は学びの連続。だからこそ、その学びを“面倒臭い”ではなく面白がる。それができれば、楽しいことがどんどん増えると思いますし。そのほうが、自分の人生を無駄なく使える気がするんですよね。とはいえ、疲れているときは体も心もスッキリしなくて、うまく考え方を切り替えることができないときもあります。そういうときは好きなものを食べたり、マッサージに行ったり、凝り固まった体や心を柔らかくしてあげるよう心がけています」
そして「食べ物でも、音楽でも、趣味でもいい、何が自分をほぐしてくれるのか、知っておくのも大事なこと」と言葉を続ける。
「楽しい毎日を送りたいのであれば、誰かや何かに頼るのではなく、自分で自分を楽しくしてあげる。私の周りにいる素敵な大人たちはみんなそうしている気がします。そして、そのためにも、自分は何に興味があり、何が好きで、何にワクワクするのか、素敵な大人はちゃんと自分のことも知っているんですよね」
人生も人間関係も仕事も上手に楽しむことができる人。そんな長澤さんでも落ち込んだり、悩んだり、足を止めてしまいそうになったりすることはあるのだろうか。
「あります、あります。人間なので普通にあります(笑)。ずっと同じことでグジグジ悩むことだってありますしね。ただ、現状維持のままでいたいと思ったことはないかな。その理由は……かっこ悪いから。過去にとらわれてしまう自分も、足を止めてしまう自分も、私は好きじゃないから」
女優として高く評価されている現状も彼女はこんな視点で眺めている。
「それはとても嬉しいことです。でも、私の中の目標は日々どんどん変わっていく。そして、その目標に向かって私は進んでいるので。正直、周りの景色はあまり目に入らないんです。価値観や考え方は人それぞれだからこそ、他人は他人、自分は自分。そこもやっぱり自分自身と向き合うことが大切なのかなって……。でも、それはあくまでも“今”の私の考え方。インタビューではその時々の自分の気持ちを正直に伝えよう思っているので、今は思っていることを話していますが、自分の中に“こうじゃなきゃだめ”というルールはなるべく作らないようにしているんです。それは自分を苦しめてしまうこともあるし、自分の成長を止めてしまうこともあるので」
「最近、やっと“結婚”に興味が湧いてきました」
大事なのは、しなやかに、柔軟に、進化していくこと。10代よりも20代、20代よりも30代、彼女はどんどん魅力的に輝きを増していく。経験と時間を積み重ねるにつれ自分のことを好きになっていく、長澤さん自身のなかにもそんな感覚はあるのだろうか。
「うーん、どうなんですかね。私は基本的に可愛い人が好きだし、カッコいい人も好き、みなさんと同じように他人を見て“素敵だな”と思う感情を持っている人間なので。どちらかといえば、自分より外の世界への興味が強い気がするんです。実は最近も、ヘイリー・ビーバーのネイルが可愛くて、こっそり真似して喜んだばかり(笑)。自分の外側にある何かにキュンとする気持ちは刺激にもなるし、常に大切にしているのですが、自分自身に対してキュンとすることは滅多にないかな。自分のことをすごく好きと思ったこともないですし……。ただ、“好きな自分でありたいな”とはいつも思っています。自分がイヤだなと思う人間にはなりたくない、好きだと思える人間でいたい、いつだってそのために努力できる自分でありたいなって」
どんなに高い評価を得ても、決して浮き足立つことなく地に足をつけて、昨日ではなく明日の自分に向かい歩き続ける。最後に「長澤まさみはこの先、どんな場所にたどり着きたいと思っているのか」尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「結婚したり子どもを産んだり、家庭を持つ友達が増えてきて、現実味を増してきたからなのかな。周りからだいぶ遅れて、最近やっと結婚に興味が湧いてきたんですよ(笑)。いつぐらいに、どんな相手と、どのような結婚生活を送りたいか──それはもう縁とタイミングですから、想像したところで思い通りにならないと思うので、回答は控えさせていただきます(笑)。いつだって未来は不確定だけどその不確定さも面白がりながら、女優のお仕事も新たに生まれたこの好奇心も大切に、この先も自分の人生を楽しんで行けたらいいなと思っています」
Photos: Takay Styling : Shinichi Miter Hair : Asashi Makeup:Juri Yamanaka Set Design : Enzo Interview & Text : Miwa Ishii Edit & Text : Hisako Yamazaki