編集長・田中杏子からのエディターズレター「女性たちの多彩な『私のいきる道』」 | Numero TOKYO
Fashion / Post

女性たちの多彩な「私のいきる道」

2022年8月26日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2022年10月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。

(左)ローラが表紙の特別版 ¥880(中)通常版 ¥880(右)川村壱馬&吉野北人が表紙&別冊付録付きの特装版 ¥980
(左)ローラが表紙の特別版 ¥880(中)通常版 ¥880(右)川村壱馬&吉野北人が表紙&別冊付録付きの特装版 ¥980

皆さんは、「私の道」をいきていますか。今号のテーマは「これが私のいきる道(Puffyへのオマージュも込めて)」です。多くの多様な女性たちの、それぞれの素敵ないき方やスタイルを取材しました。ご登場いただいた女性たちはみな「私の道」を私らしく、気負わず自由に謳歌している人ばかり。それって簡単なようで案外難しいことのように思えませんか。まず何より自分の道を見つけることってそんなに容易ではないですよね。しかも肩の力を抜きつつ…。実際に取材をしてわかったことは、気楽に好きなことを楽しく続けていたら、いつの間にかそこにたどり着いていたという流れのようです。もちろん要所要所で悩みや苦労もあっただろうと思います。そりゃ、人生ですから。ただ、なんというか、自然体でいい感じのところにいるのです。

特集「気になるあの人の東京カルチャーライフ」(本誌p.110〜)にご登場いただいた人たちは一様に「やりたいことをやっていたらここに来た」という、脱力系です。それでいて発信力があるという今っぽさ。「偶然の産物を大事にしている」「やりたいことがあればやるし、やりたくなかったらやめる」という力まず決め込まないスタンスのようで、目標を掲げ日々努力を積み重ねてきた根性論の私たち世代(とくくってしまいますが)とは異なります。若い世代がゆるっと日々をいきているのを見て、もっとしっかり将来設計をしたほうがいいのでは? 目標があるならもっと頑張ったら〜などと、つい温度感や熱量を自分の時代のものと比べてしまい、いらぬ老婆心をムクムクと育ててしまいがちですが、間違いなくお門違いだと実感。彼女たちのハツラツかつユルッとした姿勢は、しっかりとした芯のある考えをベースに実際に何かをなし得ている(形になっている)、そのいき方の現在形なのです。大反省と大感銘です。

11月10日まで、DIESEL ART GALLERYで開催中のErin D. Garcia(エリン・ディー・ガルシア)の「Super Silhouette(スーパーシルエット)」展。鮮やかな色彩の油絵具で力強く描かれた植物や花たちは、抽象と具体の曖昧さが脱力系で心地よいです。ぜひ会場に足を運んでみてくださいね。もう一つの私にとっての脱力系は愛猫のベニ!

この「好きなこと、やりたいことをやりたいようにやってきた」という脱力感は、返して言えば、“社会に何も期待をしていない”の表れなのではないでしょうか。頑張った分だけ形になった世代とは異なり、頑張りだけでは報われないという喪失感の時代に育ってきたからかもしれません。ある意味、社会への諦めの境地が“自分たちのやりたいようにいきる”という選択につながり、やりたいようにいきるからにはファン=楽しいことじゃないと意味もないし続けられないというスタンス。そしてそこにファンが湧くというシンプルな方程式。私もやりたいようにいきたかった〜などと感傷に浸っている場合ではありません。これこそ、疲弊した社会が生みだした“副産物的素敵ないき方”なのではないでしょうか。「これから就きたい仕事があるのに給料が低い」というポッドキャストのリスナーの質問に対しての答えが、「やりたい仕事でお金を稼げないなら、その仕事以外にお金になることもやればいいんじゃない?」という意見。ごもっともです。

ステレオタイプは消滅に向かっている多様性の時代。あらゆる意味で可能性に満ちあふれた時代をいきる人に、経験だけでモノをいうのはやめなきゃな、と実感した今号でした。

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Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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