Art / Feature
小さき視点のアートたち【1】マウリツィオ・カテラン
見慣れた眺めのはずなのに、目を凝らしてみた途端、自分を取り巻く景色が一変する。身近なものの形や影、思わぬ隙間や裏側まで。いつもの世界の見え方が鮮やかに変わる。それこそアートの得意技! 小さな視点から広がる奥行きを、じっくり覗いて感じてみよう。Vol.1はマウリツィオ・カテラン。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年7・8月合併号掲載)
Maurizio Cattelan|マウリツィオ・カテラン
『Untitled』
Maurizio Cattelan, Untitled, 2011, presented at Perrotin Paris in 2011. Photo: Attilio Maranzano. Courtesy of Maurizio Cattelan’s Archive and Perrotin Taguchi Art Collection蔵
「チン!」と音がして足元を覗くと、そこにあるのはミニチュアサイズのエレベーター。極小ながら実物と遜色ないほど精巧に作られているのがなんとも不思議でコミカルだ。エレベーターは日常生活で見慣れたもののはずなのに、小さなサイズで現れた途端、“日用品”から“アート作品”へと認識が変わるのだから。マウリツィオ・カテランは、独特ないたずら心で作品を作り、見る者を惹きつけてきた。その無邪気さは、おもちゃの虫を手のひらに乗せて大人を驚かそうと企てる、少年のようだ。
Text : Akane Naniwa Edit : Keita Fukasawa
Profile
マウリツィオ・カテランMaurizio Cattelan
1960年、イタリア・パドヴァ生まれ。18金で制作した黄金のトイレに『AMERICA』と名付けた彫刻作品や、本物のバナナを壁に貼り付けた『Comedian』をアートフェアに出品するなど、スキャンダラスな作品を手がける。生きたロバ、剥製や標本といった挑発的ともいえる素材、アドルフ・ヒトラーや教皇ヨハネ・パウロ二世など政治的な文脈を用いながらも遊び心あふれる作品で、現代アートシーンにおいて常に注目を集めている。アート雑誌『TOILETPAPER Magazine』の共同発行人も務める。