アートと暮らす達人たちのインテリア術 vol.2 丸井元子
生活の中で当たり前のようにアートを楽しむ人はどのような家に住んでいるのだろう。今すぐ真似したくなるインテリアのアイデアは、人生を豊かにするためのアイデアでもあった。アートを愛する達人たちの暮らし拝見!Vol.2はアートディレクター丸井元子のご自宅をご紹介。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年6月号掲載)
家族が増えて広がるアートの輪
家族の好みが調和する空間
家族4人で暮らす一軒家は、80年代後期に建てられた二階建て。海外の住宅のようなデザインと開放感のある広々とした造りが特徴だ。「夫がコンセプトショップ『YOU ARE WELCOME』を営んでいるので、コロナ前は家族で海外へ買い付けに行っていました。室内にはそれぞれが気に入って買った作品が混在しています。2年前に引っ越してきたばかりですが、天井が高く広さもあるので、大きい絵やオブジェ、色が鮮やかなものを飾っても室内に圧迫感がなく気に入っています」
夫婦が所有するのは国内外から収集した大胆で表情豊かな絵やオブジェ、それらと共鳴する家具など。「色の組み合わせやシュールさに惹かれることが多いですが、夫は渋いテイストが好み。どちらも好きなムードがポストモダンだったので、家の中はその時代や雰囲気にマッチする作品が、最近は増えているんだと思います」
ガウディとイサム・ノグチのランプに照らされ、Vatne社のファルコンチェアに腰掛ける彼女の頭上には、バウハウスモビールが揺れる。「モビールは、子育て中に目に留まりました。構造や色使いに子どもが公園で遊ぶ遊具と共通点があると思い購入し、リビングの天井から吊るしています。遊具にはポストモダンを感じさせるデザインが多く興味を持ったので、昨年に開催した個展のテーマにも選んで作品制作もしたんですよ」
モビールと相性がいい壁面のドローイングも存在感たっぷり。「フレームが気に入って購入し、後から夫がステンシルとスプレーを使って上から描き直したものです」
ほかにもYOSHIROTTEN作のプレートなど、完璧に調和し合う作品はどれも、背景に家族の存在を感じるストーリーがある。
クリエイティビティを刺激するもの
リビングルームには、アーティストのイマジネーションを豊かにし、創作欲を高めてくれる作品が多数。「一目惚れしたら必ず手に入れたくなる性分で、アーティスト名よりいかに引きつけられたかが重要。その逆で、好きなアーティストについてはよく作品を調べてから買うようにしています」
リビングルームにあるモノクロの絵はEi Kaneko作、その下左は松下沙花の作品。「色鉛筆で描かれた抽象画は作者がわからないのですが、圧倒的な存在感と面白さに負けて買いました」。資料として収集中の鉱石や沖縄の久米島で拾った貝と。
一番のお気に入りは、国内のマーケットで偶然出合った作者不明の抽象画。柔らかな色彩と怪しいモチーフが自分の好みにぴったりはまった。上から写真を貼り付けて、絵をフレーム代わりにして壁に飾ったこともあったという。オークションで競り落としたジャスパー・モリソンの椅子もインスピレーションを与えてくれる存在。レアな作品で、眺めていても飽きない。「購入の決め手になったのは、金属製で流れるような美しい曲線とフリーハンドで書き込まれたデザイン。こんなにも自由な発想の椅子は、これまでに見たことがなくて。独特な色もラグの色に映えるので、上に置いています」
<左>中央は彫刻家の友人によるオブジェ。備え付けの本棚には梅川義満の写真や自身が手がけた作品、東京・羽根木のショップ「out of museum」で手に入れたオブジェが。書籍の間に恐竜や妖怪のフィギュア、NANZUKAで購入した大平龍一によるソフビも混在。 <右>元永正安のリトグラフとジャスパー・モリソンの椅子。彫刻作品も。
最後に、欠かせないのは友人や恩師の作品の存在だ。展覧会がある度に訪れて、いいと思ったものを購入し、身近に置くようにしている。置く場所は流動的だが、定期的に入れ替えることも忘れない。周囲の人と想いを共有し、彼らの存在を感じるには、作品が大いに役立っているのだという。
Photos:Tomohiro Mazawa Edit & Text:Aika Kawada