1950sから2020sまで、カルチャーアイコンにみるデニムスタイルの変遷
デニムを見れば時代がわかる? カルチャーにも造詣が深いスタイリストの谷崎彩とともに、アーティストやセレブが愛用したモデルやエポックメイキングとなった着こなし、デザインの変遷を振り返る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年4月号掲載)
1950s
マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーンらが映画でジーンズを着用。ジッパーフライの「リーバイス® 501ZXX」(現在の505™の原型)が登場し、ワークウェアだったデニムは1960年代前半にかけて、若者に人気のカジュアルウェアに。
1950年代のデニムアイコンマリリン・モンロー
モンローといえば映画『七年目の浮気』のドレス姿が有名だが、『熱い夜の疼き』(52年)、『帰らざる河』(54年)、『荒馬と女』(61年)などたくさんの作品の中で、キュートなジーンズ姿を披露している。
1960s
スキニータイプの「ミス・ストレッチ・リーバイス®」が登場。1965年頃からのベトナム反戦運動やヒッピー文化の中で、ジーンズは若者のステータス・シンボルに。
ブリジット・バルドーのザ・フレンチスタイル!
「パリジェンヌのスタイリスト、ヤスミン・エスラミともよく話をしているんですが、実は『デニム』はフランス語の『Serge de Nimes(ニーム地方の綾織物)』が語源。それでフランス人にも馴染みがあるのか、女優たちもデニムを愛用していました。1960年代に細身のシルエットの流行に合わせて、リーバイス®️から5ポケットの『ミス・ストレッチ・リーバイス®』が登場していますが、ブリジット・バルドーもストレッチの効いたデニムに、ぴったりしたトップスやエスパドリーユを合わせるスタイルを好んでいました」(谷崎)。バルドーは映画だけでなく、私生活でもデニムを愛用。彼女のキャラクターが現れた潔いデニムスタイルは永遠の憧れ。
60〜70年代若者のシンボル、ベルボトム
「デニムがユースカルチャーのシンボルになった1960年代は『ビッグベル』などのベルボトムが特徴的です。ただし、意外とファッションアイコンを探しても少ない。レッド・ツェッペリンのロバート・プラントはよくジーンズを愛用していましたが、ジーンズのイメージがあるジャニス・ジョプリンやジェファーソン・エアプレインもステージでは衣装を着ている。そういう時代だったんです。キャロル・キングの『つづれおり』のジャケットは貴重なジーンズ姿です。一方で、ウッドストックやグラストンベリーに集まる若者、1969年のザ・ローリング・ストーンズの『STONES IN THE PARK』の警備員などはベルボトムをはいています」(谷崎)
1970s
ブルーデニムだけでなく、ベルボトム、オーバーオール、サスペンダーパンツ、ストーンウォッシュなどバラエティが増え、ペイントや刺繍、パッチワークなどのカスタマイズも広がる。70年代後半からは、シルエットはブーツカットへ移行。
70年代ロードムービーでアイコニックガールを再発見
「1960〜70年代のデニムアイコンを探しているときに再発見したのが、モンテ・ヘルマン監督のロードムービー『断絶』でヒッチハイカーの少女を演じたローリー・バード。彼女は写真家でもあり、恋人だったアート・ガーファンクルのレコードジャケットも撮影しています。残念ながら若くしてこの世を去ったのですが、17歳の時に出演したこの作品では、タイトなTシャツにベルボトム、大きなふさふさのバッグを持ったヒッピースタイルですごく可愛い! モンテ・ヘルマンはクエンティン・タランティーノ『レザボア・ドッグス』で製作総指揮を務め、映画好きにとっては神様のような存在。ぜひこの映画もチェックしてみてください!」(谷崎)
1980s
カルバン・クラインがアンダーウェアのラインをスタート。シルエットは脚が長く見えるバギーやテーパード、ケミカルウォッシュ、ストーンウォッシュなどのダメージ加工が流行する。80年代前半から、メタリカなどのスラッシュメタルの影響でスリムジーンズが広まる。90年代にかけて「カルバン・クライン」や「マリテ+フランソワ・ジルボー」などのデザイナーズ・ジーンズが人気に。
80年代ファッションは『フラッシュダンス』で復習!
「1980年代ファッションで重要な映画は『フラッシュダンス』。この作品がエポックメイキングなのは、それまでの美しくたおやかな女性像から、貧乏だけど夢を追いかける、気が強くてボーイッシュな女性を描いたこと。ファッションもTシャツやデニムをブロークンにしたり、アーミージャケットにバギーパンツとワークブーツを合わせたり。裾がテーパードしたスリムジーンズにオーバーサイズのニットやモッズコート、ブーツカットにマイケル・ジャクソンのようなスタジャンとコンバースなど、スタイリストが敏腕! ソックスのはき方、倉庫に犬と住むライフスタイルにもみんなが憧れたけど、今見直しても素敵。ファッション好きなら見る価値アリです」(谷崎)
Fフォーセットのレトロスタイル
女性が活躍するドラマの先駆けといえば77〜82年放映の元祖『チャーリーズ・エンジェル』。ファラ・フォーセットの真っ赤なトップスにブルージーンズとナイキのコルテッツの組み合わせは、今すぐ真似したいレトロスタイル。
創意工夫が可愛い初期マドンナ
「82年にデビューしたマドンナ。当時、ブロークンデニムの中にレースのレギンスを合わせたり、アクセサリーを重ね付けて工夫したり創意工夫が可愛い。『パパ・ドント・プリーチ』のバルドーへのオマージュも必見です」(谷崎)
親子でファッションアイコン、ジェーンとシャルロット
「日本でも有名なファッションアイコンといえば、ジェーン・バーキンです。1960年代は女優がデニムをはくだけでメッセージ性があった時代ですが、彼女はプライベートでもデニムを愛用しました。はいていたのは、リーバイス®501をリメイクしたものではないかと言われています」(谷崎)。
のちに娘のシャルロット・ゲンスブールも『なまいきシャルロット』(85年フランス。日本公開は89年)のボーダーカットソーとスニーカーのデニムスタイルが羨望の的に。
1990s
ケイト・モスが広告に登場したカルバン・クラインのジーンズとアンダーウェアを合わせたスタイルが流行。また、ヴィンテージデニム熱も高まり古着に人気が集まる。細身のピカデリーやシマロンもカジュアルコーデの定番に。「SOMETHINGは、女の子のジーンズです」のキャッチコピーと、フレンチポップス「T’en va pas」を起用したエドウィンのCMも話題となる。
各年代のトレンドを体現する、ケイト・モスのロックスタイル
77年にいち早くデザイナーズ・ジーンズを手がけたカルバン・クラインの広告に、92年にマーク・ウォルバーグとともに登場したのがケイト・モス。ブランドのミューズとして、ジーンズ、CK oneなどの数々のキャンペーンに起用された90年代前半はヒップホップムーブメントとともに、メンズのバギーを腰ばきしてアンダーウェアを見せるスタイルが流行。カルバン・クラインのアンダーウェアとジーンズを重ねばきした広告キャンペーンも旋風を巻き起こした。
プライベートでは、スキニージーンズに愛用のロンドンソールやピンヒール、ブーツを合わせるなど、いつでもトレンドセッターらしい最新のデニムスタイルを見せている。
ソニック・ユースがキー。90〜00年代のアイコンたち
「マルジェラが94年にデニムを裂いて編んだコレクションピースを発表したり、90年代はモードとストリートが混在した時代でした。カルチャーではソニック・ユースがキーパーソン。
キム・ゴードンのスタイルアイコンだったのは、ロイヤル・トラックスのジェニファー・ヘレマでした。ソニック・ユースのMVにも登場したビキニ・キルのキャスリーン・ハンナは、ニルヴァーナのカート・コバーンのグランジファションにも影響を与えました。『シュガー・ケイン』というMVでデビューしたのはクロエ・セヴィニー。彼らのスタイルは今も時代を象徴しています」(谷崎)
2000s
ブリトニー・スピアーズやパリス・ヒルトンなどのセレブファッションの影響から、LA初のデニムブランドのAG、シチズン・オブ・ヒューマニティが注目される。ピンヒールやムートンブーツとのコーディネートが流行。
女の子が主導権を握ったローライズファッション
「デスティニーズ・チャイルドが『サヴァイヴァー』のジャケットでローライズをはいた2001年、彼女たちが主題歌を務めたリメイク版『チャーリーズ・エンジェル』が公開され、2003年『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』も強い女の子たちが主人公でした。
ファッションもローライズなジーンズと、タイトなトップスで、女の子たちがファッションの主導権を握っていた時代です。00年代後半には『スキニー』という表記が登場し、ローライズとともに2010年代半ばまでブームが続きました。メンズでは2001年にエディ・スリマンがディオール オムのデザイナーに就任。彼が愛用するリーバイス®606も話題になりました」(谷崎)
超ローライズの女王 Y2Kのパリス・ヒルトン
ブリトニー・スピアーズやニコール・リッチーとともに、00年代セレブブームを巻き起こしたパリス・ヒルトンは、腰骨の下ではく超ローライズとピンヒールが定番。
2010s
デニム生地のストレッチが定番化し、スキニーからボーイフレンドデニムまでさまざまなジーンズスタイルが登場する。また、2017年頃から、ミュウミュウ、ヴァレンティノ、ヴェトモン、オフホワイトなどのブランドがリーバイス®と組んだコラボアイテムが登場。一方で、サステナブルに配慮し、製造過程で環境負荷を軽減したり、リユース・リサイクル・リメイクなども活発に。
サステナブルも自由に楽しむ2020年代!
「2010年頃からストレッチがマストになり、その揺り戻しで50年代のモンローのようなハイウエストがリバイバルし、リーバイス®701も再び人気に。ボーイフレンドデニムとも呼ばれていました。それから、クロップトで脚を長く見せるシルエットも流行。Levi’s® x Miu Miu、A.P.C. INTERACTIONでsacaiというコラボも。今はアップサイクルやリサイクルの概念が定着。シルエットはストレートで足元でワンクッションが増えています。
リリー=ローズ・デップなどのミレニアルズも、デニムを自由に取り込んで楽しんでいるので、ローライズやスキニーのリバイバルもありつつ、流行にとらわれずに好きなスタイルを自由に楽しむ時代かもしれません」(谷崎)
Photos:Aflo, Getty Images Text:Miho Matsuda Edit:Chiho Inoue