【デニム探訪 vol.3】ファッションを作るクリーンなデニム「SERGE de bleu」
あまたあるデニムの中から卓越した技術や作り手の思いがこもった一本を深堀りするシリーズ「デニム探訪」の第三回は、SERGE de Bleu(サージ)にフィーチャー。
SERGE de bleu(サージ)のデニムを読み解く
デニム生地発祥の地、フランスのモダンで優しいブルーデニムとアメリカンヴィンテージ、デニムの歴史を背景に世界に誇る日本の職人の技を掛け合わせて生まれる「サージ」。デザイナー森光弘が探求するファッションアイテムとしてのデニムのあり方とは。
加工技術と多彩なカラーが生み出すファッション感
ウィンドーやラックに並んだ様子がお菓子のようで見ていて楽しいので、色数はたくさん表現しています。デニムというとインディゴというイメージですが、それ以外にも表現がいろいろあることを伝えたい。定番カラーのヴィンテージブルーは初期からずっと展開していますが、それも決して同じではなく常に微妙に生地や加工を変えています。カラーデニムもインディゴやブラックデニムの色を落としてから染めています。限りなく白に近づけてから別の色を入れることで、今までにない色や独特の風合いと深みが出ます。完全に白く落とすのではなくギリギリで止めて、縁や糸にほんの少し元の色が残るようにしたり。
季節や天候によって微妙な加減を調整する職人技は、パンやお菓子を焼く時にオーブンで最後数秒待つみたいな感覚とどこか似ているような気がします。実際、お菓子作りの動画を見ていると、ホイップする工程と、染料を泡立てる作業が近い気がしてヒントをもらっています。それもあってシリーズ名にも「カカオ」や「マカロン」などを付けているんです。
DRYという加工は、リジッドデニムっぽく見えますが、それだとごわつきすぎるので、他のアイテム同様に最後にオイル加工を施しています。オイルを通すことで、しっとり滑らかになりますが、ノリが強めに残っているためきれいにセンタープレスも生きる。両方のいいとこ取りをしました。
サージの考えるシルエットの黄金バランス
2022SSコレクションより
ウエストやヒップはゆったりはいて、クロップ丈で脚はきれいに見せるというのが、トレンドに関係なく好きなシルエットでずっと作っています。例えば、ベーシックな形の定番「バレル」は、日本人の体型に合うように、ちょっと短めのクロップ丈ですっきり見せています。ただ腰回りはカーブがかかっているので、裾はテーパードだけど、ゆとりがあって独特のニュアンスが出るのが特徴です。ハイウエストでトップをインしてもアウトしても合わせやすい万能タイプ。
リネンコットンの素材感で夏らしさを表現
日本の夏に適した素材感の、麻をブレンドしたリネンコットンの生地でペインターパンツを作りました。夏はデニムだとどうしても暑いので、麻を加えることによって清涼感と軽さを出しつつ、色や雰囲気のヴィンテージ感にはこだわりました。麻の節が独特の表情を出しているのも特徴。昔からあるデザインですが、ちょっとゆったりめのハイライズで今っぽい気分を表現しています。
トレンドを意識したスペシャルな加工
SPECIAL REMAKE CACAO VINTAGE BLUE ¥29,480
ベーシックなラインナップにプラスαで、スペシャルなデザインのモデルを作っています。2022SSはデッドストックの70年代のヴィンテージデニムからアレンジして、センターで色や素材を左右切り替えて、裾もカットオフを施し、いわゆるリメイク風なデザインをきれいに仕上げました。70年代のファッションは、フラワーチルドレンやヒッピー風がトレンドだったので、2022AWでは、草木染め風に仕上げたら面白いと思い、その風合いをオリジナルの織り地で表現しています。
コットンのようなヴィンテージ感を叶えるストレッチデニム
女性らしくきれいなデニムというテーマで、2021SSシーズンからストレッチのシリーズ「ファイバー」を作りました。コットンとポリウレタンですが、従来のストレッチ素材とは違いキックバックが強く、コットンと変わらない本格的な雰囲気のある加工が再現できるファイバーストレッチという素材を開発できたので、ストレッチデニムを作ることに。体のラインを拾わず、はくとフィット感が柔らかい。これまではナチュラルでオーセンティックをベースにオーガニックコットン100%にこだわっていましたが、納得の素材によって幅を広げられました。
【インタビュー】
「モードと職人技を融合した物作りの答えがデニムだった」
──自分のブランドをデニムに特化し、しかもウィメンズにフォーカスしたのはなぜ?
「長くメンズのブランドで働いてきて、メンズのファッションのこだわりが、ウィメンズに浸透してなかったり、ありそうでないものが多いと感じていました。特にデニムは、ヘリテージな男臭いものか、セクシーなシルエットのものかが極端だったので、その間のクリーンでモダンなスペシャルなデニムを作りたかった。そんな自分のやりたい方向が、より女性にフィットすると思い絞っていきました」
──サージならではの特徴は?
「ベースはナチュラルでいいものを使っていきたいという思いがあるので、メインの素材は、オーガニックコットンにこだわっています。また、製品を天然のフラワーオイルでトリートメント加工を施しています。これによって、13.9オンスの重くて厚い生地もごわつかず、見た目はメンズライクなのに、はくと柔らかく肌なじみがよくなるんです」
──ナチュラルにこだわる理由は?
「やはり原料から大切に育てた素材の持つ、優しい風合いや加工した時の色味が自分には響きました。もともと山奥の田舎育ちなので、ナチュラルなものが好きなんです。実家は代々、刀のさやを作る職人の家系ということもあり、家の周りは木がいっぱいで、山林の自然が常に身近にあったので、ファッションをやればやるほど、ナチュラルなものへのこだわりが強くなっています。自分がブランドを立ち上げるなら、糸からこだわったデニムを伝えたい。サスティナブルという観点もありますが、それ以前に海外の大量生産品があふれる中で僕が極めるのはそこだと思っています」
──サージが考えるクリーンなデニムとは?
「例えば、立ち上げ当初からハンドメイドなヴィンテージ感があるヴィンテージブルーを作っていますが、繊細な色落ちは職人さんがスポンジのような布で一つ一つ丁寧に擦っていくという地道な作業で表現しています。日本の職人さんの技術と細やかな仕事は、いわゆるマシンメイドとは比較にならないほど、さりげない味、柔らかさがあって、すごく素敵に仕上がります。以前の仕事では王道のヴィンテージを掘り下げてきましたが、自分の好みはフレンチテイストのさりげないモードなデニムなので、大げさでわざとらしいヒゲやダメージ加工には興味がありません」
──どのようにさりげない味を表現するのでしょう?
「ボタンフライはゴツくなるのでファスナー仕様にして、なおかつ少しピンクがかったものを使っています。いわゆるデッドストックのデニムのファスナーは劣化で色が抜けているのですが、その色がきれいなので、これはあえてデザインとして取り入れています。ちょっと女性らしさというか、ヴィンテージとモダンさのちょうどいいバランスを探りながら作っています」
──もともとはどんなファッションにハマっていたんですか?
「学生時代、マルタン・マルジェラやヘルムート・ラングに刺激を受けました。20代でヨーロッパブランドを扱う会社で企画・生産に携わり、クラフトマンシップの奥深さを知り、モードと職人技の融合的な物作りに惹かれ、30代でデニム作りの技術に触れ、掘り下げていくうちに、デニムで自分のブランドをやりたいと思うようになりました。デニムは海外の人がわざわざ日本で仕入れるほど世界に誇るクオリティのファブリックなので、極めるならこれしかありませんでした」
2022SSコレクションより
──デニムで表現することに限界を感じることはないですか?
「小さくて狭いジャンルですが、やることも、面白いことも、まだ世に出てないものもいっぱいあります。デニムってこうだよねという、スタンダードの枠に囚われたくないので、トレンドも意識しながら、常に何か新しいものを提案して、デニムの中でファッションを作りたい。あくまでもファッションアイテムの一つとして考えています」
──具体的には、ファッション感をどう表現しているのでしょう。2022SSのフレンチヴィンテージに続いて、AWシーズンは70sがコレクションテーマになっています。
「フレンチヴィンテージもそうですが60年代後半から70年代のファッションは、まさにデニムが一番面白い時代でした。当時のファッション誌を買ったり、読んだり、過去のファッションからすごく影響を受けます。ヴィンテージや古着、リメイクのものなどが好きなので、家に山のようにあります」
2022AWコレクションより
──確かに若者のファッションを象徴するアイテムとして台頭してきましたね。
「僕は赤耳や戦時体制モデルのようなものには全然興味がなく、時代背景を反映するような、謎のパッチワークが施されていたり、独特の加工みたいなものに惹かれます。例えば、AWで展開するフレアパンツの元ネタは昔のLeeのデッドストックですが、斜めのポケットやバックにギャザーが入っていたり、そんなデザインはなかなかありません。デニムジャケットでも、独自にデコラティブなボタンに付け替えていたり懐かしくて新鮮です。そういう遊びをデザインとして取り入れ、素材やシルエットは今っぽく再解釈しています」
──古着やファッション誌など、いわゆるファッションのアーカイブ以外に、お菓子作りの動画のように、インスピレーションを受けたりするものはありますか?
「デニム作りでは、特に瀬戸内や岡山に行くことが多く、釣りが趣味なので、海に流れている漂流物の色には目がいきます。また、ジョージ・ナカシマという家具デザイナーが好きで、その木のテクスチャー、木目や節といった自然が生んだ元々の素材感にも影響を受けているかもしれません。そういう自然の要素と、東京の街のファッションから受ける刺激と、両方のバランスなんだと思います」
──デニムだけでなく他のアイテムも作ろうかなという浮気心は芽生えないですか?
「実はそれはいつもあって。でもデニム以外と自分が作れるスペシャリティを比べると、すごいと思えるものは、日本の岡山でしか作れない。職人さんと協働で素材開発を探求しながら、デニムを極め、他にはできない新しいことをやっていきたい。技術とデザインが合わさって奥深いものになっていくのが作っていて楽しいんです」
Photo:Kouki Hayashi(Item, Portrait) Interview & Text:Masumi Sasaki Edit:Chiho Inoue