【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.16 お家騒動はなぜ起こる? 映画『ハウス・オブ・グッチ』を解説 | Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.16 お家騒動はなぜ起こる? 映画『ハウス・オブ・グッチ』を解説

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

先月中旬に公開され、各所で話題になっている映画『ハウス・オブ・グッチ』。Numeroの読者のみなさまはご覧になられた方も多いのではないでしょうか? 僕もさっそく観てきたところで、フィレンツェの老舗のエンタメ化されたお家騒動劇を愉しみました。今回はファミリービジネスに必ずと言ってもいいほどついてまわるお家騒動がビジネスの観点からみたときにどういう経緯で起こっていたのか、映画のストーリーをなぞりながら考察していければと思います。

vol.16 お家騒動はなぜ起こる?
経営者視点で観た、映画『ハウス・オブ・グッチ』

トム・フォード、「ハウス・オブ・グッチ」を酷評 「これは茶番なのか」
https://eiga.com/news/20211201/9/

映画の中でも触れられていますが、グッチはグッチオ・グッチの手によって1921年にフィレンチェで創業されたブランドです。グッチオには5人の息子がいたそうですが、アル・パチーノ演じる三男アルド、ジェレミー・アイアンズが演じた五男ロドルフォの2人がメインの跡継ぎになり、グッチオの死後50%ずつ株を引き継ぎます。さらにロドルフォの死後、アダム・ドライバーが演じたロドルフォの一人息子のマウリツィオが50%の株を引き継ぎ、そのタイミングではアルドの持ち株は40%で、ジャレット・レトが演じたパオロを含むアルドの3人の息子が3.3%ずつ保有していて会社の実権はアルドが握っていたようです。

そこでレディ・ガガ演じるマウリツィオの妻パトリツィアのそそのかしもあって、マウリツィオとパオロが結託し過半数の株式の権利をもって、マウリツィオにとっては叔父、パオロにとっては父のアルドから会社の実権を奪い、マウリツィオが三代目の社長に就任しパトリツィアはグッチ社長夫人の座を手に入れる、とうのが映画の中にみる前半から中盤のストーリーです。

このようにオーナー企業の株式というのは往々にして相続のたびに分散されていくもので、相続した兄弟の間で経営に対する考えが合わないと騒動の火種になるという構造がまずベースとして存在しています。そりゃあ、孫の代まで入ってくるとますます足並みが揃わないことが多いですよね。

グッチの場合はマウリツィオが社長になったあとに、株主だった他の親族は中東の資本に株式を売却してしまいます。この時点ではまだマウリツィオにオーナーシップはあったものの、映画の中でも会社の経費を使った浪費を株主に批判されるシーンがありましたが、ビジネスマネーが投入された時点で会社を私物化するような振る舞いは当然許容されるものではなくなってしまい、ファミリーだけでブランドを運営していたときには当たり前だったであろう自分のやりたいようにやる経営スタイルが通用しなくなってしまいます。

外部の株主も含めて納得をしてもらうには、必然的によりビジネス的に確度が高い戦略を選び続けないといけないという状況になり、その圧力を窮屈に感じたマウリツィオも最終的には株を手放してしまいます。ここでグッチは完全にグッチ家のものではなくなり、クリエイティブ・ディレクターとして君臨したトム・フォードと経営の舵取りをしたドメニコ・デ・ソーレの時代が本格到来します。そして社長から退任したマウリツィオは元妻のパトリツィアの雇ったマフィアに射殺されてしまう、というのが映画のストーリーでした。

このあとラグジュアリーブランドとしての存在感を世界で増していったグッチにはLVMHが出資し主要株主となるのですが、LVMHからの取締役が派遣されることを避けようとしたドメニコの画策もあり、PPR(現ケリング)のフランソワ・ピノーが新たな出資元として登場し、最終的にLVMHはグッチから撤退。お家騒動の次には映画では描かれていなかった、それはそれで壮絶なブランドの奪い合いの物語がありました。

PPRの傘下になってからはグッチはグループの主要ブランドとして安定的な成長を遂げ、昨年ブランド創設100周年を迎えたことは記憶にも新しいです。トム・フォードはグッチを離れたあと2005年に周知の通り自身のブランドを立ち上げ、ちなみにその会長は今もドメニコが務めています。トムはまだ60歳なので当面デザイナーとしても活躍し続けるでしょうが、昨年逝去したパートナーのリチャード・バックリーとの間に養子がひとりいます。

そもそも拡大フェーズで様々な資本が入ってくることがほとんどの今の時代には、ブランドが家族にそのまま引き継がれていくケースというのはもうあまり起こらないのかもしれません。外野からすると、それはそれでなんだか少し寂しい気もしてしまいますね。

『ハウス・オブ・グッチ』

監督/リドリー・スコット 
出演/レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエック
配給/東宝東和
2022年1月14日(金)より全国公開
ⓒ 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://house-of-gucci.jp/

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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