対談:山口はるみ × iScream 令和発“ガールズコラボ”の新地平
パルコの広告をはじめ、世界がリスペクトするイラストレーターの山口はるみ(※1)と、LDHの新鋭ガールズユニットiScream。時代を超えて輝く女性像「はるみギャルズ」のイメージが、実力派高校生3人のポテンシャルと融合し、新たな扉が開かれた! そのコラボレーション秘話をはじめ、今後の可能性をひもとく対話の様子を、Numero.jpよりお届けする。
「はるみギャルズ」× 新鋭ガールズユニット、コラボの裏側
エネルギッシュかつセクシーに、色褪せない魅力を放つ女性たちの姿ーー。アートディレクターの石岡瑛子(※2)、コピーライターの小池一子とともに手がけたパルコの広告シリーズをはじめ、一貫して“媚びない女性”のイメージを描き続けてきた山口はるみ。彼女が手がける女性のイメージは「はるみギャルズ(Harumi Gals)」と呼ばれ、現代のファッションやカルチャー関係者からも絶大な支持を集めている。まさに、時代を超えて輝くイットガールの肖像といえるだろう。 このたび、そのアートな女性像と意外な共演を果たしたのは、LDH発の新鋭ガールズユニットiScream。今年6月のメジャーデビューと同時に、山口によるアーティストイメージやジャケットアートを展開し、大きな話題となっている。世界的アーティスト×女子高校生3人組ユニットという異色のコラボレーションを巡るさまざまな思いや憧れの女性像、そこから広がる可能性とは? コロナ禍で交わされたメールインタビュー形式のやりとりを、対談風の構成で見ていこう。 (※1)参考記事:永井博、山口はるみ「イラストレーションの中に息づくプールの風景」 (※2)参考記事:「石岡瑛子:美と情熱のデザイナー」──まずはiScreamの3人から、自己紹介をお願いします。
RUI「私たちの特徴は、容姿や性格の異なる3人が一体となって、マイクを持って歌って踊るパフォーマンスをすることかなと思います。そのなかで私RUIは、センターに立たせていただくことが多いので、そのぶんプレッシャーを感じたり、『こうでなければ!』と考えたりすることもあります。ですが、パフォーマンス面でも人柄でも心強いYUNA、HINATAが隣にいてくれるので、『自分らしくがんばろう!』と自信を持ってパフォーマンスさせていただいています」
YUNA「私たちは、3人の歌唱力とダンスを武器とするユニットです。そのなかで私YUNAは、表現力が強みです。よく言動がユニークと言われたり、普段はふわっとしているように見られたりすることが多いですが、『パフォーマンスとなるとまた違うYUNAが出てくる』とか、『表現の幅が広いね』と言われることがとてもうれしいです」
HINATA「3人ともが現役高校生であることも、私たちのポイントだと思います! そのなかで私HINATAはいわば末っ子ですが、一番冷静だとよく言われます。iScreamにとって、ムードメーカーになっているのかな? と思います」
──ありがとうございます。一方で山口はるみさんといえば、エネルギッシュでセクシーな大人の女性像を描いた作品が印象的です。iScreamについて、どんな印象を持たれましたか?
山口はるみ「私が描いた作品を、これから活躍するフレッシュな彼女らに起用いただいて、一緒に世の中に発信できることをうれしく思いました。エネルギーあふれる彼女らの力で、日本をもっと元気にしてもらいたいですね」
YUNA「ありがとうございます! 自分たちのイメージをアートで表現してくださると聞いた時は、『どんな感じになるんだろう?』と最初は想像がつきませんでした。でも、デビュー作『Maybe…YES EP』のジャケットを目にした時、楽曲や私たちの世界観が存分に詰め込まれていて、ドキドキワクワクしたのを覚えています。私自身、イラストを見たり描いたりするのが好きなのですが、繊細な色味や筆の流れに圧倒されて、細かい部分まで見れば見るほど、本当に心奪われてしまいました」
HINATA「このアートワークを初めて見た時は、『なんて楽曲にピッタリなんだろう!』と思いました。高校生の私たちらしい部分もあり、初々しい初恋を歌った楽曲の世界観を思わせる色合いもあって、デビュー曲にふさわしいキャッチーでキュートなジャケットだなと…! 世界的に活躍しているはるみさんが、私たちiScreamにアートを届けてくださることが素直にうれしかったですし、音楽とアートのコラボレーションというテーマがとても素敵だなと思いました」
RUI「私は最初、iScreamのアートワークを一貫して一人の方が担当してくださるとは思っていなかったので、まずはそこから驚きました。しかも、パルコのポスターをはじめ、たくさん有名な作品を出されているはるみさんが、まだデビュー前の私たちiScreamのアートワークを引き受けてくださったことに感謝の気持ちでいっぱいになりました!
そして、2ndシングル『himawari』のアートワークにも衝撃を受けました。花自体は描かれていないのに、バックの黄色はヒマワリの花のイメージそのもので、女性が仰向けになって目をつぶっている様子は、楽曲のとおり夏の思い出を振り返っているように見えました。リリース当時、音楽配信サイトのランキングを眺めていて、有名なアーティストの曲が並ぶ中にこのジャケットを見つけた時は、とてもうれしい気持ちになりました」
iScreamのアーティストイメージが意味するもの
──山口さんがエアブラシで描いてきた女性像は、「はるみギャルズ」と呼ばれて世界的な評価を集めていますが、このアーティストイメージをはじめ、何か共通する表現テーマがあるのでしょうか?
山口「この作品もそうですが、これまで女性の持つ多面性のなかでもアクティブな面を描くことが多かったですね。生き生きとしている彼女らのイメージには、私自身が異常にスポーツ好きということも反映されていると思います」
YUNA「このアートワークを初めて見た時は、躍動感や自然に踊り出してこのポージングをしてしまったというような、自由な自分らしさを纏った女性という印象を受けました! 凛とした表情にも、光を浴びながら、希望や自分の意思の強さを表しているような、強く艶やかなものを感じます」
RUI「私は、iScreamの結成当初、初めてお客さんの前でパフォーマンスした時のことを思い出しました。E-girlsさんのラストライブツアーのオープニングアクトステージで、シルバーと白の衣装だったので、自分たちと照らし合わせて感じられて、一目で好きになりました!」
HINATA「そうだよね! デビュー前から衣装としてシルバーや白を着用することが多かったので、iScreamの雰囲気がシルバーのジャケットを見ただけで伝わってくるように感じました。あと思い浮かんだのは、私たちiScreamの『世界で活躍したい』という大きな夢のこと。このイメージには腕の肘より先が描かれていないことから、『夢はまだまだたくさんある』『どんなに遠くにある夢でも、必ずつかむ』というメッセージ性があるように見えてきて、『私たち3人の今の気持ちを、アートで表現されているんだ』と感じました」
山口はるみ作品に描かれた、“自由な女性”の秘密を探る
──山口さんには、これまでの作品の中から10〜20代の女性をイメージした作品3点を選んでいただきました。一つずつ、ご説明をお願いできますでしょうか?
山口「この作品は、1977年にアートディレクターの長谷川好男さんと初めてタッグを組んで描いたものです。ちょうどこの作品の制作が決まる1カ月前にハワイへロケに行っており、プールサイドで気だるそうに服を脱ぐ女性たちを見ました。彼女らがプールやビーチサイドにとても似合っていて、その時の印象が深く残っていました。プールサイドには『気だるさ』こそが似合っているなと。画面のレイアウトにも、こだわったのを覚えています。女性を中央に描くこともできましたが、あえてカットして表現することにより、このポスターは成功したんじゃないかと思っています」
HINATA「描かれている二人とも、誰かと戯れようとせず一人でいるところに、強い女性の雰囲気が感じられてカッコいいなと思いました。私もそんな風に、自分の好きなように自由に生きる媚びない女性になりたいです!」
山口「イラストレーションにおけるエアブラシ・テクニックは本来、物体をリアルに描くことに適したものでしたが、この作品は少し不思議な印象を持たせたくて、女性の二面性をイメージして描きました。ただ美しいものを描くだけではない要素を、広告にも盛ることができればいいなと思ったんです。逆に、写真だと必ず何らかの説明的要素が入ってしまうので、このように遊びを加えることができるのも、絵を描くことの魅力の一つですね」
RUI「私自身、この絵を見た時に『なんだか不思議だなあ』と感じていたので、『不思議な印象を持たせたくて……』というはるみさんの言葉と重なって驚きました! 個人的には、基本的な色味は原色なのに、女性のトップスはパステルカラーなのが面白い組み合わせで、とても好きな部分です。iScreamのジャケットも含めて、はるみさんのアートはどれも“女性の強さ”があり、『自信を持っていいんだぞ!』と思わせてくれて、私にも強い気持ちを与えてくれています」
山口「私は常に、作品にユーモアを加えることを心がけています。この作品では、女性が立派な男性を足元に従え、可愛らしい男性を脇に抱えている姿を描くことで、女性優位の社会をカリカチュアライズしてみました。エアブラシのテクニックを駆使して、革の質感にもこだわって描き込みました」
YUNA「いい意味で周りに影響を受けすぎないような、強い女性らしい目つきが魅力的だなと感じました。男性だけでなく自分自身も引っ張っていくような、でもちゃんと愛する人を想う気持ちを持っているような……そんなイメージ。手に持った拳銃には、「女性には女性の権利があるんだ!」というメッセージを感じました。私自身も、ありのままの私として意見や自分をしっかり持ち、周りの人をいい意味で巻き込むような魅力がある、そんな女性になりたいです」
──山口さんにとって、こうした女性のイメージがiScreamをはじめ、いま10〜20代の女の子たちから見ても新鮮に映る理由は何だと思いますか?
山口「たとえ“一瞬”は新鮮に感じられたとしても、あっという間に古びてしまうものです。だからこそ、生き続けることは奇跡です。『新鮮だ』という感覚も、あっというまに消え去ってしまいますから。だからこそ『あの頃がこうで、でも今はこうだ』という話ではないと思います。以前は『これがAルックで、こちらがBルック』というように、世界中へ一つの流行が広がっていった時代がありましたが、そんな流れに逆らう女性たちは、昔もいまも変わらず存在し続けていると思います」
iScreamが憧れる、理想の女性アーティストは?
──ちなみに、iScreamの3人にとって憧れの存在だと思う女性ミュージシャンは誰ですか?
RUI「私は、安室奈美恵さんです。『アーティストになりたい!』と思ったきっかけが、安室さんのライブを見に行った時に、キラキラしたドレスを着て輝いている姿を見たことでした。活動を通じて、たくさんの流行を作り出したり、女の子みんなが虜(とりこ)になるアーティストさんだったので、私もそういった存在になりたいと、いまでも強く憧れを持っています」
YUNA「私は、BLACKPINKです! 女性らしい部分や女性の強みを楽曲やパフォーマンスで表現していて、特にメンバーそれぞれの個性や魅せ方がすごく魅力的だと思います。ダンスや歌声はもちろんなのですが、パフォーマンスする時の魅せ方がもう、吸い込まれるような表現力なんです! さらに、メンバーそれぞれのカラーが違うにもかかわらず、4人それぞれが輝きながらも一体に見える。お姫様が集まったかのような最強な感じが私の憧れでもあり、女の子の憧れでもあると思います。私が『グローバルに活躍したい』という夢を持ったきっかけも、多国語を話してグローバルに活躍しているBLACKPINKの姿を見たことがきっかけでした」
HINATA「私は、同じ事務所の先輩でもあるHappinessの藤井夏恋さんに憧れています! ダンスや歌はもちろん、ファッションブランドの展開やモデルのお仕事、最近では女優のお仕事もされていて、多彩に活躍する姿にとても憧れますし、品のある強い女性な部分も尊敬しています。私も夏恋さんのように、幅広いシーンで活躍するアーティストになりたいです」
──ミュージシャンには、振る舞いや生き方をとおして多くの人に影響を与える力がある。あらためて考えると、これはすごいことだと思います。その上で、山口さんにとって理想的なミュージシャンとのコラボレーションのあり方や、思い浮かぶ作品があれば、教えてください。
山口「音楽には特別なものを感じます。私、ミュージシャンにはやみくもに落ちてしまう。一方で、ヴィジュアルアートには厳しい眼を向けてしまう。なので音楽とヴィジュアルということだと、なかなか最高のマッチングだと感じる作品と出合うのは難しいですね」
YUNA「個人的には、『つつみ込むように…』のジャケットは、まさに楽曲とのマッチングがピッタリで感激しました。主人公の若い女性が、少しずつ大人になっていく上で感じる感情や恋について歌っている楽曲の世界観を、光に美しく照らし出された女性の姿で表現してくださったと感じています」
可能性は無限大! “ガールズコラボ”の成長のゆくえ
──山口さんが描く「はるみギャルズ」な女性像とiScreamの世界観が融合して、新たな地平を切り開いていくイメージですね! そんなiScreamの今後の目標、いま一番がんばっていることについて教えてください。
RUI「私がいま一番意識していることは、パフォーマンスをする時の魅せ方かなと思います。少しずつ、有観客で直接パフォーマンスを見ていただける機会が増えてきて、私自身も他のアーティストさんのライブに行ったりDリーグを観に行ったりして、一人の身体よりも何百倍も大きい会場中に届けられるエネルギーや、全身全霊でパフォーマンスに打ち込む姿にとても刺激を受けています。iScreamのステージも、初めから最後まで気持ちが途切れないように、自分たちが想像しているよりも何倍ものエネルギーを込めてパフォーマンスをしよう、楽しんでもらおう、届けよう! と3人で意識を高めています。『私たちのパフォーマンスや歌を、どうすれば私たちのことを知らない方や、初めて観てくださる方に届けることができるだろう?』と、リハーサルの時などにたくさん話し合っています」
HINATA「私も、iScreamの楽曲をたくさんの方に届けられるように、レコーディングの前には必ず3人で曲の雰囲気をはじめ、主人公の気持ちや心の動き、シチュエーションはどんな場所でどんな天気なのかなど、細かく話し合ってから臨むようにしています。その上で、ちょっとした英語の発音や音質などにもこだわるなど、隅々まで意識してレコーディングをするように心がけています」
YUNA「私は、いま一番意識しているのは自分自身、そしてグループとしてレベルアップし続けることです。デビューさせていただいてから、ありがたいことに周りの環境に恵まれて、たくさん素敵な言葉をかけていただくことも増えました。でも「これでいいんだ」と満足するだけでは成長しないと思いますし、ただ日々を過ごすだけでは何の意味もありません。なので、こだわりを持って自己プロデュースを意識したり、大きな夢を常に思い出しながら、高いパフォーマンス力を求めて練習や撮影に励みたいと思っています。これからも、何に対しても中途半端な向き合い方にならないように意識して、楽しみながら努力する姿勢を自分の基盤にしていきます!」
山口「まさにiScreamは、3人それぞれの個性が織りなすグループだと思います。コーラスグループは、どんなハーモニーを奏でるのかが楽しみです。美しい声がさまざまな高低で重なり合い、変化していくのを追っているのは至福の時間です。カッコいい女性コーラスが流れてくると、女の子たちのもつれ合う姿が脳裏に浮かびあがったりします。その意味でも、iScream のコーラスは聴き応えがいっぱい! きっと、みんなを楽しくしてくれるでしょう」
YUNA「ありがとうございます、すごくうれしいです! はるみさんの作品と自分たちの楽曲のコラボレーションによって、多くの人に楽曲の世界観をお届けできることを光栄に思っています。いつも「次はどんなアートを提案していただけるんだろう?」とワクワクドキドキしますし、どの作品にも女性のキラキラ感が詰まっていて大好きです。これからも、作品と楽曲のミックスでより大きな魅力をお届けできるようにがんばります!」
RUI「私も、はるみさんとご一緒させていただくことができて、とてもうれしいです。自分たちの楽曲を発信して広めていきたいという気持ちに加えて、はるみさんのアートを私たちと同世代の方々にも届けられるようにがんばろうと思っています。一つ一つの作品が本当に素敵なので、1枚ずつコレクションするような楽しさも感じてもらえたらうれしいです!」
HINATA「はるみさんが描いてくださる作品と共に、私たちiScreamの音楽をたくさんの人に届けられることがすごく幸せです。いままでにない音楽とアートのコラボレーションをみなさんに楽しんでいただきたいですし、はるみさんのアートをとおしてさらに多くの方にiScreamの存在を知っていただけたらと、心から思っています。これからもぜひ、どうぞよろしくお願い致します!」
Edit & Text : Keita Fukasawa