グラフィックデザイナーが語ったロゴの秘密 | vol.4 森本千絵 | Numero TOKYO
Culture / Feature

グラフィックデザイナーが語ったロゴの秘密 | vol.4 森本千絵

店の看板やポスター、商品、パッケージ......ちょっと見渡せばあちこちにロゴがあふれている。 ロゴは私たちにとってどんな存在なのだろう。どうやって作られているだろう。 日本を代表するグラフィックデザイナー 5人にロゴの裏側と制作秘話について話を聞いた。 vol.4 は企業広告やドラマのタイトルワーク、空間ディレクションなどを手掛ける森本千絵。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年10月号掲載)

シティホールプラザ「アオーレ 長岡」2019

人の気が集まる縁起がいいものを

企業広告やドラマのタイトルワーク、空間ディレクションなど多岐にわたる活動を行う森本千絵。デザイン性だけを追求するのではなく、人に愛されるロゴはどうできるのか。

──ロゴをデザインする上で大切にすることは何ですか。
「企業やブランドのロゴ、映画などのタイトルロゴではそれぞれ役割が全く違うので、大切にすることも変わってきます。タイトルロゴだったら、作品の世界観を伝える『扉』のようなものを意識しますが、あくまでも主役は中身なので、ロゴで全部を説明しすぎないようにします。企業ロゴであれば、理念や目指す姿など、会社の魂のようなものがそこに宿っていないといけない。また、どういう会社なのかを伝える役目もある。例えば『森本』でロゴを作るとしたら、柔らかい雰囲気にするのか、かっちりとしたものにするのか、ロゴ一つで相手に与える印象は変わりますよね。特に企業のロゴというのは、会社のオリジナリティを明確にしていないと、似たようなことをしている企業のロゴと近しくなってしまう恐れがある。だから、デザイナーは膨大な時間をかけて何案もデザインを考えます。今はSNSなどでアイコンを設定するのが当たり前ですが、ロゴはそのアイコンのようなもので、しかもそれがほぼ一生変わらない(変えられない)という前提で作ります。だから、子どもの名前を付けるぐらい責任がある仕事です」

──森本さんがすごいと思うロゴはありますか。
「ナイキのスウッシュはいいですよね。シンプルで潔く、足で地面を蹴った瞬間の勢いを感じる。アップルはまるでアダムがかじったリンゴをイメージでき、知識の始まりを想像させます。でもそういう良い印象を持てるのは彼らが良い商品を作り続けているからであって、例えばアップルが不良品ばかり出していたら『かじられたリンゴは欠損品だからか』と思いますよね(笑)。また、ロゴ一つで語りすぎない、イメージを断定しない隙間があるものもいい」

(左)空飛ぶクルマを開発する「SKYDRIVE」2020
(右)ソニア・パークのプロデュースによるショップ「TOKYO in PROCESS」2021

──ロゴを作るとき「シンプル」は意識しますか。
「空を走る車を開発している『SKYDRIVE』のロゴはそうですね。車体に付けるエンブレムでもあるので、トヨタやメルセデスのように一目でわかるようにシンプルで強いものを意識しています。空を飛ぶのではなく、走る空間へ変えようとする革命的なブランドですが、スマートさだけでなく、多くの人に愛される存在になってほしいと願い、愛嬌のあるペンギンのアイコンも作りました。物語性を重視したのは、ソニア・パークさんが東京の新進のクリエイターをサポートするショップ『TOKYO in PROCESS』のロゴですね。タンポポの綿毛のように見えるロゴは東京23区を線でつないだものなんです」

「goen°」2007

──自身の会社のgoen°のロゴはどうやって生まれたのでしょうか。
「goen°のロゴは当初、日本地図や太陽、人柄、衣食住など私たちが大切にしたい概念をつないだ一重円だったんですね。それが会社を始めていくと大事にしたいことも増えその要素を加えていった結果、当初のロゴから派生した曼荼羅のような形に発展しました。このマンダラグラフィックは一つの形にとどまらない、育てていくロゴです。もともとgoen°のロゴは、自分がどうなりたいかを想像しながら作ったもので、それを実現するために会社を立ち上げた側面もあります。迷ったりブレそうなとき、このロゴを見ると初心に帰ることができます。もしこれからどういう人になろうかと迷っている人がいたら、ロゴを作ってみるといいかもしれません」

婚礼施設を運営する「Escrit」2018

──自分のなりたい姿を確認できる役割もある、と。
「言霊になぞらえて、絵霊(えだま)を信じています。絵にしたもの、デザインしたものが未来を作っていくことがあるんです。クライアントのロゴを作らせていただく場合も「こっちのほうが良い方向へと向かうだろう」という勘も大切にしています。良縁、御利益のある縁起の良いデザインを贈りたいです」

──今後、手がけてみたいロゴはありますか。
「『ワクチン接種済み』のマークとか。車のステッカーなどに貼って一目でわかるように。店によっては『ワクチン接種+マスク必須』とか『ワクチン接種済みならマスクは不要』とか入店条件が変わってくるとは思いますが……。目に見てわからないときだからこそロゴデザインの出番もあるかもしれませんね」

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Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Saki Shibata Sayaka Ito

Profile

森本千絵Chie Morimoto 武蔵野美術大学卒業。博報堂入社後、2007年「出会いを発見する。夢をカタチにし、人をつなげる」をモットーに株式会社goen°を設立。サイン計画を手がけた「アオーレ長岡」で日本建築学会賞を受賞するなど多数の受賞歴がある。今年、オリジナルデザインをはじめ、“ご縁”のある作家とのコラボ商品などを販売するECサイト「mono goen°」をスタート。

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