グラフィックデザイナーが語ったロゴの秘密 | vol.2 服部一成 | Numero TOKYO
Culture / Feature

グラフィックデザイナーが語ったロゴの秘密 | vol.2 服部一成

店の看板やポスター、商品、パッケージ......ちょっと見渡せばあちこちにロゴがあふれている。 ロゴは私たちにとってどんな存在なのだろう。どうやって作られているだろう。 日本を代表するグラフィックデザイナー 5人にロゴの裏側と制作秘話について話を聞いた。 vol.2 は広告から書籍、雑誌まで様々な分野で活躍する服部一成。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年10月号掲載)

「三菱一号館美術館」2008

活動が決めていくロゴデザイン

広告から書籍や雑誌までさまざまなデザインを通じて、新しいイメージを作り出してきた服部一成。単体としても複合体としても人の目に触れるロゴを、彼はどうデザインしているのだろう。 ──普段どんなことを考えながらデザインをしていますか? 「もちろんその企業や施設の活動の性格を考えますが、どんな場面で、どんな風に人がロゴと接するかを想像しますね。企業のロゴはあらゆるサイズで見られるだろうし、展覧会のロゴは短期間だからキャッチーじゃないと、とか。例えば『三菱一号館美術館』と『弘前れんが倉庫美術館』のロゴは、対照的な考え方で作っていて。三菱一号館美術館は明治期に建った煉瓦造りのオフィスビル『三菱一号館』を最新技術で復元し美術館にしたんですが、とにかく一号館復元への熱意がすごい。当時と同じ手法で煉瓦を製造する工場を探し海外で煉瓦を作らせたり、日本中から煉瓦積み職人を集めたり。展覧会も建造当時の19世紀末の美術を扱う。最初は名前が長いなと感じたけど、むしろこの名前が大事だと分かり、館名そのものをシンボルにしたロゴを作りました。クラシックな印象は建物を意識しています。弘前れんが倉庫美術館は、市民に親しまれた歴史ある煉瓦倉庫を改築した美術館ですが、現代美術館として同時代の美術作家の作品を展示する場所です。ロゴは重厚な建物の雰囲気には寄せず、文字列の長さに合わせて変化するロゴデザインという方法論の新しさで、現代美術館の活動にふさわしいものにできないかと考えました。どちらも煉瓦造りの美術館だけど、ロゴの方向性は全然違いますね」

「弘前れんが倉庫美術館」2019

──雑誌のロゴの場合は?
「『三田文学』は文芸誌で発行部数も決して多くはないですが、『しっかり存在を主張しよう』と考えて、4文字を2行に組んで大きく入れるデザインにしました。『流行通信』は、雑誌そのものの活動を活性化させるためにロゴもリニューアルした部分があって。1970〜80年代には唯一無二の存在だった『流行通信』が、僕がアートディレクターを頼まれた2002年当時は雑誌として普通の存在になっていると感じました。以前のロゴは田中一光さんというグラフィック界の巨匠が作ったロゴの名作で。業界内で『これを変えるなんて、とんでもない!』みたいな空気があったからこそ、リニューアルすること自体にもインパクトがあったんです。最初は『読めないよね、これ『とか言われたけど、雑誌のロゴって繰り返し見るから慣れるものでね。誌面が評判になってくると、ロゴもいいねって言われるようになった」

──雑誌全てのアートディレクションを服部さんがされたから良かったけど、そうでなかったら「なぜこんな使い勝手の難しいロゴに!?」とスタッフに恨まれたのでは……。
「でも四方八方の使い勝手だの、どういう意見が出るだのを考えすぎると、強さが出にくかったりもする。切り捨てる部分は切り捨てて『これで!』としたほうが、ロゴの生命力みたいなものが出ると思います」

アートブックショップ「bananafish」(中国・上海)2021

(左)「三田文学」146号 2021(右「流行通信」471号 2002年9月)

──しかしロゴから与えられるイメージは、本当にさまざまですね。
「ロゴによってブランドや会社が良く見えたり、悪く見えたりすると思いがちだけど、実は逆なんじゃないかと思ったりもします。イケてるブランドはロゴもカッコよく見えるし、ブランドの勢いがなくなるとロゴも色あせて見える。例えばプラダみたいな歴史あるブランドのロゴは、もはやロゴ単独で見てデザインが良いか悪いかではなく、ブランドの活動によってロゴの印象も変わる。ブランドイメージを良くしようとデザイナーは作るものの、実際そうなるかどうかはロゴが完成したあとにブランドや企業がどう活動していくかによってくる。デザイナーはそこまではコントロールできないし、『ロゴは作ったので、このロゴで頑張ってください』としか言いようがない。デザイナーの仕事って、そういうものかなって思います」

──でもロゴが視覚的に伝えるメッセージって強いなって、話していてあらためて感じました。
「ロゴは何かを表現するものだけど、メッセージを読み取ろうと考えすぎても……というのもありますよ。シンプルなものだから、決して全部を語れるわけでもないですし。意味を細かく説明されてかえってガッカリすることもよくあるでしょ?今はデザインにも説明やストーリーをすごく求められる時代だけど、でき上がったロゴを説明なしで見たときに、『あ、なんかわかるような気がする!』って思ってくれれば、一番良いのかなって思いますけどね」

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Interview & Text:Miki Hayashi Edit:Saki Shibata Sayaka Ito

Profile

服部一成Kazunari Hattori 1964年、東京都生まれ。ライトパブリシティを経て、2001年フリーランスのアートディレクター、デザイナーに。主な仕事に「キューピーハーフ」などの広告、雑誌『here and there』『真夜中』のアートディレクション、旺文社『プチロワイヤル仏和辞典』のブックデザイン、ロックバンド「くるり」のアートワーク、など。

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