“水”の連想が導くアート体験: ロニ・ホーン展@ポーラ美術館レポート
神奈川県・箱根の大自然の中に位置するポーラ美術館。大きく取られたガラス面から差し込む光が印象的なこの場所で、アメリカの女性アーティスト、ロニ・ホーンの展覧会がスタートした。代表作のガラス彫刻をはじめ、詩的な余韻を放つ作品群を紹介する、日本の美術館では初の個展。その見どころをレポートする。
ロニ・ホーンの軌跡に迫る、日本の美術館初の個展
アメリカの現代美術を代表する女性アーティスト、ロニ・ホーン(1955年生まれ)。写真、彫刻、ドローイング、本などの多様なメディアでコンセプチュアルな作品を制作し、これまでにロンドンのテート・モダンやニューヨークのホイットニー美術館で個展を開催するなど、世界的な注目を集めるアーティストだ。今回の展覧会「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」は、1980年代から現在まで約40年にわたる代表的な作品群を紹介する、日本の美術館で初めてとなる個展。モネ、ルノワール、ゴッホ、ピカソなど西洋絵画のコレクションで知られるポーラ美術館としても、意欲的な試みになるという。緑と光あふれる空間で、自然と呼応する作品群を味わう
彼女にとって最も身近な表現手段というドローイングは、82年から今日まで「日々呼吸するように」継続されてきた唯一の技法。画面を分断し、シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』の台詞や慣用句をコラージュした『犬のコーラス—地球の果てまで滑り出せ』や、高さ約3メートルの大型作品のシリーズは、細部に目を凝らすと、ドローイングが一度切断され、ばらばらになったものが手作業で再び組み合わされていることがわかる。そこには手書きの記号や数字が書き込まれ、創作の息遣いが感じられるようだ。
展示風景より。左:『犬のコーラスー地球の果てまで滑り出せ』(部分)2016年 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth Photo: Koroda Takeru © Roni Horn
右:『または 7』2013/2015年 グレンストーン美術館(ポトマック、アメリカ) Photo: Koroda Takeru © Roni Horn
写真は、彼女が10代の頃に父親からペトリのカメラを譲り受けて以来、重要なメディアの一つだ。今回の展覧会では、多数のプリントから構成される写真作品が展示されている。
『円周率』は、アイスランド北部で野生の鴨の巣跡から手作業で羽毛を集めることを生業とするビョルンソン夫妻を中心に、7年の時間をかけて彼らの家や、風景、鴨の巣跡、彼らが見るアメリカのメロドラマの画像などを撮影した45点からなる作品だ。
『静かな水(テムズ川、例として)』は、ロンドンの中心部を流れるテムズ川の水面を写した15点。表情を変える水面に、細かな数字が配置され、“脚注”のように添えられた文章と結びつく。
『あなたは天気 パート2』は、アイスランドの温泉で、6週間にわたり一人の女性の表情を記録し続けた作品だ。一見どれも同じようでいて、一つとして同じ表情ではない100枚のポートレイト。まっすぐに投げかけられた視線に、見る者の心が揺り動かされる。
このほか、美術館屋外の「森の遊歩道」にも、大きなガラス彫刻作品を展示している。日本の伝統や工芸など、日本文化にも深く影響されたというロニ・ホーンの作品が、箱根の自然と出合い共鳴した本展は、ポーラ美術館にとっても同時代の作家を単独で取り上げる初の大型企画となる。
自然の豊かなこの場所で作品に向かい、自分の中に何を感じたのか。自分を見つめる貴重なひとときとなるはずだ。
※掲載情報は10月8日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」
会期/2021年9月18日(土)〜2022年3月30日(水)
会場/ポーラ美術館 展示室1、2、森の遊歩道
住所/神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開館時間/09:00〜17:00 ※入館は16:30まで
休館日/無休
TEL/0460-84-2111
URL/www.polamuseum.or.jp/sp/roni-horn/
Text : Miho Matsuda Edit : Keita Fukasawa