【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.7 NIGO®️が「ケンゾー」のアーティスティック・ディレクターに就任
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
今回はケンゾーのアーティスティック・ディレクターにNIGO®が就任する、というニュースについて書きます。
vol.7 ラグジュアリーブランドが取り込むストリートの才能
NIGO®が「ケンゾー」のデザイナーに就任
https://www.wwdjapan.com/articles/1258872
ヴァージル・アブローがルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクターに就任したのは2018年の春でしたが、今やごく当たり前のようにラグジュアリーブランドのコレクションがストリートのテイストを帯びるようになっています。2020年9月にはそのヴァージルが手掛けるルイ・ヴィトンのプレフォールコレクションとして、NIGO®とのコラボレーションも展開していましたが、そこでの手応えも踏まえて同じLVMHグループのケンゾーでの起用に繋がったのかもしれません。
そもそも2020年代のストリートのブーム、藤原ヒロシ、NIGO®のア・ベイシング・エイプ(以下Bape)、高橋盾のアンダーカバーといった裏原宿のブランドのカルチャー、コンテクストが現在のシーンに多分に影響を与えており、ヴァージルやディオール、フェンディを手掛けるキム・ジョーンズらもその影響を公言しています。藤原ヒロシもNIGO®も、アンダーカバーもヴァレンティノとなど、それぞれラグジュアリーブランドのコラボレーションはこれまでも手掛けてきましたが、今回NIGO®がアーティスティック・ディレクターとして起用されたのは、ある意味ようやくともいえる満を持してのタイミングだったと思えます。
ブランドの創業者である高田賢三の逝去からまもなく1年というこのタイミングでデザイナーのポジションが日本人の手に戻ってくるのもまた感慨深いことです。オープニング・セレモニーの二人が手掛けていた時代のケンゾーもストリート的な雰囲気のものでしたが、今回はウィメンズも含めてNIGO®が全ラインを手掛けるとのこと。NIGO®的スタンスとしては高田賢三時代のアーカイブも掘っていくでしょうし、高級素材を使ったコレクションがどのようなものになるのか楽しみです。
ちなみに僕はまだ『GQ』の編集者時代の2008年に香港、LA、パリのコレットなどグローバルに立て続けに出店したBapeの世界への快進撃をNIGO®さんに密着取材させてもらっていて、当時も随分凄いなと感銘を受けていました。2011年BapeをI.Tに売却し、個人としての活動に軸足を移されたあとは、自身のブランドのHUMAN MADE、ほかにUT、adidas Originalsなどのディレクションも手掛けられていましたが、ここにきてこのポジションまで上り詰める様は流石としか言いようがなく、山というのは登り続けるものなのだなと思い知らされます。
1990年代から2000年代、原宿のストリートブランドにクリエイションと同じくらいの天才的なビジネスのバックグラウンドがあったとしたら、15年前の時点でモードのコンテクストを引っ繰り返してしまい、今のLVMHと張れるくらいのストリートブランドのコングロマリット企業が日本から出てこられていた可能性もあったかもしれないなと、少し悔しながらに思うところはあります。結果的に歳月をかけて、世界中の才能を配下に従えてその帝国のパワーを強化し続けているのは、LVMHをみても、ケリングをみてもヨーロッパの歴史の強みだなと改めて感じる事象でもあります。
その視点でも少し興味深いのが、NIGO®が代表取締役を務めるHUMAN MADEとCurry Upを運営するオツモ株式会社のコーポレートサイトが先日公開されていたのをみると、CSO(最高戦略責任者)に三菱商事、ハーバードMBAを経てサンリオ常務他を務めていた鳩山玲人氏、COO(最高執行責任者)に元ユニクロのマーケティング統括部長の松沼礼氏との記載が会社概要にあり、これは相当攻めた経営陣が参画しているなと驚きました。Bapeに関しては経営面ではやりきれなかったと思われている部分もあるでしょうから、HUMAN MADEに関してはビジネス面においても着実に戦略的に拡大していこうとされているのが役員のキャスティングから垣間見られます。個人の活動とあわせて、こちらも今後注目しておくと面白いかもしれません。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue