【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.3 アディダスとトム ブラウンの訴訟
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.3 アディダスとトム ブラウンの訴訟
第3回の今回は、加熱するブランドの商標への権利意識について、書いています。アディダス、スリーストライプスを巡りトム ブラウンを提訴
https://news.yahoo.co.jp/articles/b31fa1e125ea1490c583f0c4fea9bb844a69730d 先月末にアディダスがトレードマークの3本ラインの商標を巡って、トム ブラウンを提訴した、というニュースが報道されていました。このニュースが興味深いのは、2010年頃まではトム ブラウンのトレードマークは今の4本のものとは違って3本だったところを、10年以上前アディダスからのクレームを受けて一本増やして今のスタイルになっている、という経緯がまずあったところです。トム ブラウン側としては当時の(おそらく少し不本意であった)変更をもって問題は解決していたとの認識だったものの、このタイミングで新たな訴訟になっている、というところが注目されるべきポイントといえます。ちなみに僕は3本ラインのデザインの方が好きで、今も当時のカーディガンを持っています。アディダスは2002年にローンチしたY-3をはじめとしてファッションとのコラボレーションに長年力をいれてきていますが、特にこの10年でスポーツブランドととファッションの距離はさらに縮まり、ステラ マッカートニー、ラフ・シモンズ、リック・オウエンス、アレキサンダーワンなど、アディダスが手掛けるファッションブランドとのコラボレーションだけでもゆうに両手では収まらない数になっています。
また、トム ブラウンの方も2018年からFCバルセロナのピッチ外のユニフォームのオフィシャルサプライヤーにもなっており、ファッションブランドとスポーツの関係もまた密接になってきているのです。実際に、リオネル・メッシが移動中にはトム ブラウンのスーツを着用しているのですから。
そういった2カテゴリの境界が昨今急激にファジーになってきている背景から、これくらいは看過してもいいのではと思えるような類似性を伴うモチーフにも、ビジネス上のスタンスとしては訴訟を含めてしっかりと対応する必要性が高まっているのではと思われます。
FCバルセロナのゲームシャツのサプライヤーがナイキであることも影響したのかどうかは分からないですが、仮にユニフォームがアディダスのスポンサードであれば、スーツはアディダスとトムブラウンのコラボレーションで3本線のものを復活させる、といった泥沼の訴訟とは真逆とも言える双方のブランドのファンにとっても魅力的な企画が紙一重に実現していたかも、しれません。
ちなみに先月には、ルイ・ヴィトンが、市松模様の数珠入れを作っている京都の会社をダミエ柄の商標法違反でで訴訟し棄却されるといった報道もありました。ダミエのモチーフが日本の市松柄であったというのは有名なエピソードですが、そういった背景を差し置いても自社ブランドの権利をグローバルかつ多岐に渡る側面から過剰と言えるほどまで保護していく必要性が高まっているということを表すひとつの事象なのかもしれません。
ルイ・ヴィトンのダミエには緑と黒の市松柄の製品も存在していて『鬼滅の刃』人気もあって完売状態のようなのですが、(現時点ではたまたまルイ・ヴィトンの製品にも存在していたカラーリングと思われるものの)鬼滅〜の発行元である集英社が緑と黒の市松模様の商標は1年ほど前に出願しているとのこと。
『ジョジョの奇妙な冒険』とグッチ、『約束のネバーランド』の原作者・白井カイウと作画家・出水ぽすかとシャネルのコラボレーションなどマンガとラグジュアリブランドの取り組み事例を鑑みるともルイ・ヴィトンと鬼滅〜が今後オフィシャルなコラボレーションに進展していく可能性もゼロではないのかもしれないですし、となればもちろん何の問題にもならないでしょう。
ただ、ジャンル同士の距離が近づいていくことでちょっとしたボタンの掛け違いから権利を巡るトラブルになってしまう可能性もゼロではないのかもしれません。
グローバルに、ジャンルレスにブランディングに注力することになった結果、権利に対するスタンスもより強固になるのも分かりますが、同時にトラブルにならないようなWin-Winの立ち位置を戦略的に取りに行くことも大事な時代になっているのかもしれません。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue