山崎ナオコーラと村田沙耶香:身体にまつわる著作と影響を受けた本を紹介 | Numero TOKYO
Culture / Feature

山崎ナオコーラと村田沙耶香:身体にまつわる著作と影響を受けた本を紹介

対談「身体をめぐることば」で肉体やジェンダー、書くことについて語ってくれた山崎ナオコーラと村田沙耶香。これまでの二人の著作の中から身体にまつわる気づきを与えてくれる本と、二人がからだを表現する上で影響を受けた選りすぐりの本を紹介する。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年6月号掲載)

1. 『肉体のジェンダーを笑うな』

山崎ナオコーラ 『肉体のジェンダーを笑うな』(集英社)
山崎ナオコーラ 『肉体のジェンダーを笑うな』(集英社)

進化する身体と、進化しにくい性別観

テクノロジーの進化によって母乳ならぬ「父乳」を出せたり、ウエアラブルロボットで筋力を補助できたりなど、肉体の性差が減った世界を舞台にした短編を収録。想像力あふれる物語は旧来の性別観の根底にある問題点をあぶり出しつつ、未来への希望を感じさせてくれる。

2. 『生命式』

村田沙耶香 『生命式』(河出書房新社)
村田沙耶香 『生命式』(河出書房新社)

「身体」と「心」は切り離せるのか?

死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作や、遺体のパーツが毛皮やレザーのように活用される世界の物語など、価値観を揺さぶる12編を収録した作品集。人間の身体をなぜ特別視してしまうのか、倫理を決めるものは何かなど、身体と心の深いつながりを認識させられる。 村田沙耶香/著(河出書房新社)

3. 『母ではなくて、親になる』

山崎ナオコーラ『母ではなくて、親になる』(河出文庫)
山崎ナオコーラ『母ではなくて、親になる』(河出文庫)

「育児という行為そのものが文学なのだ」

第1子が1歳になるまでの日々について「育児に関係ない生活をしている人も楽しんでくれる」読み物となるように書いたというエッセイ。作中で綴られた多岐にわたる考察は『肉体のジェンダーを笑うな』のモチーフとなったと思われるものもあるので、ぜひ併読を。
山崎ナオコーラ/著(河出文庫)

4. 『金子光晴詩集』

清岡卓行『金子光晴詩集』(岩波文庫)
清岡卓行『金子光晴詩集』(岩波文庫)

生の実感を追い求めたヒューマニズムの詩人

山崎さんが身体を描く上で影響を受けたという金子光晴。「僕は、じぶんのヒフと、どこまでもつづくそのヒフのつながりを(略)觀察したかったまでだ」(『人間の悲劇』序文)と語る彼が五感で捉えた事象を描いた詩は、身体と世界が連関していることを実感させられる。
清岡卓行/編(岩波文庫)

5. 『学問』

山田詠美 『学問』(新潮文庫)
山田詠美 『学問』(新潮文庫)

自分の価値観を手に入れる、身体の「学問」

友情とも恋愛とも違う絆で結ばれた仲間との日々のなかで成長する、秘密の「儀式」を大切に育む主人公の身体と心を描く青春小説。村田さんによる文庫版の解説では、文芸誌でのリレーエッセイと同様に「プライベートな魔法」は他者のためのものではないことが語られている。
山田詠美/著(新潮文庫)

6. 『地球星人』

村田沙耶香 『地球星人』(新潮文庫)
村田沙耶香 『地球星人』(新潮文庫)

社会の「部品」として身体を扱われる違和感

異星からの使者の力で魔法少女になったと信じる主人公が、恋愛と繁殖を強制する「人間工場」の世界を生き延びる姿を描いた長編。「部品」のように身体を機能させることを求める社会と葛藤する物語は『コンビニ人間』を超える衝撃作として海外でも話題を呼んでいる。
村田沙耶香/著(新潮文庫)

7. 『消滅世界』

村田沙耶香 『消滅世界』(河出文庫)
村田沙耶香 『消滅世界』(河出文庫)

誰かにとっての正常は、誰かにとっての異常

村田さんが「生きづらさを感じている人にとってのユートピアを徹底的に見てみたい」と創作した作品の一つ。後半には、大人全員が「おかあさん」として子どもの育成に協力する実験都市が登場する。身体は誰のためにあるのか、「正常」とは何かを考えさせられる長編。
村田沙耶香/著(河出文庫)

8. 『ブスの自信の持ち方』

山崎ナオコーラ 『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)
山崎ナオコーラ 『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)

変えるべきものは「身体」ではなく「社会」

顔の美醜をはじめ、メイクやタトゥーなど容姿にまつわる差別や偏見について、自身の体験も交えながら考察したエッセイ。偏見をなくすことの難しさや、誰もが加害者となる可能性について触れつつ、被差別者が変わるのではなく社会を変えるべきではないかと問いかける。
山崎ナオコーラ/著(誠文堂新光社)

9. 『おあとがよろしいようで』

オカヤイヅミ 『おあとがよろしいようで』(文藝春秋)
オカヤイヅミ 『おあとがよろしいようで』(文藝春秋)

「あきらめる」という言葉への想い

死への恐怖をやわらげたい著者が、15人の作家に理想の「最後の晩餐」を尋ねたコミックエッセイ。山崎さんが登場する回では、対談中に登場した「あきらめる」という言葉についても描かれる。作家の死生観や、創作への姿勢が見えてくる読書好きにはたまらない一冊。
オカヤイヅミ/著(文藝春秋)

山崎ナオコーラと村田沙耶香の対談はこちらから

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Text :Miki Hayashi Edit:Chiho Inoue, Mariko Kimbara

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