ライゾマティクス インタビュー「人間の身体 × テクノロジーの行方」
領域を超えて人間とテクノロジーの関係を探求し、ビョークやPerfume、野村萬斎らの身体表現や各分野の研究者とのコラボレーションなど、クリエイティブの最先端領域を切り開いてきたライゾマティクス。彼らの美術館初となる大規模個展が、東京都現代美術館で開幕。設立より活動を牽引してきた真鍋大度(まなべだいと)と石橋素(いしばしもとい)に、人間の身体×テクノロジーで織りなす表現が意味するもの、その先に広がる展望を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年6月号掲載)
ライゾマの過去と現在を複合的(マルティプレックス)に体感する展覧会
──設立15周年にして美術館での初個展。どんな意図を込めましたか。
真鍋大度(以下、M)「これまでの総括だけでなく、現在進行形の作品を提示したいと考えました。もし過去の作品を再現するとしても、実装し直す手間を考えれば、新しい試みを見せたほうがいいと思ったのです」
石橋素(以下、I)「同じ労力をかけるなら、新作を展示したほうがライゾマティクスらしい。そう考え、新作を大きく見せたいと申し出ました」
M「例えば、演出振付家のMIKIKO率いるダンスカンパニーのELEVENPLAYとは2010年から一緒に作品を制作してきましたが、最近は配信による作品展開が増えてきました。そこでダンサーの動きをデータ化し、映像や移動体キューブの動きとともに提示することで、ヴァーチャルと現実空間のそれぞれで作品を見ることの意味を考えてもらえるよう構成しました。また、物質を伴わないアートとして大きな注目を集めている、NFT(代替不可能な暗号資産)によって価値を保証されたデ
ジタルアート作品(クリプトアート)についても、ネット上における作り手と受け手のやり取りを可視化する作品を制作。刻一刻と変化する状況を映し出す試みとなっています」
I「美術館の中庭では人工衛星からGPSの信号を取得して自動走行するロボティクスを展示していますが、他にも脳活動を解読して新たなイメージやダンスの動きを作り出す作品など、この展示コーナー一帯がR&D(リサーチ&ディベロップメント)のエリアになっています」
──常に最新技術とアートとの境界領域を探求してきたわけですが、技術をアートとして成立させるために必要なことは何でしょう?
M「そこは、本展のキュレーターの長谷川祐子さん(東京藝術大学教授)にバックアップしていただきました。一般的に〝完成した価値〞が求められる現代アートの文脈に対して、僕らが手がける実験的なプロジェクトにはエンジニアリング的にも時代との関連的にも、プロトタイピングとアップデートが付き物です。例えば、ビットコインの自動取引の様子を可視化した作品のように、データヴィジュアライゼーション(データの可視化)をアートと呼べるのか、はたまたデザインなのか。ただ僕らとしては、アートになり得るかもしれない新しいフォーマットを提示することに面白さを感じている。長谷川さんも『それこそが新しいアーティストの姿だ』と背中を押してくれました」
I「展覧会についてさまざまな意見を目にしますが、むしろ人によって捉え方の幅があるのが僕らの作品の特徴かもしれない。アートなのか、それともエンジニアリングなのか、評価は受け手の考え方次第でいいと思うんです。その上で、進行形の作品については開幕後もアップデートを重ねており、NFTのインスタレーションなどは制作段階と比べても、まったく違う表現になりました」
M「進行中といっても未完成ではなく、そのときに考えられるいちばん面白いものを提示する感覚ですね。例えば、螺旋状のレールを転がるボールにレーザーを照射して明滅させる作品『particles 2021』では、開幕直前に体感した印象で、長時間かけて制作してきた音響を全部やり直しました。テクノロジーを駆使していても、作品を鑑賞するのはあくまで人間。最後は自分の体で得た感覚を信じるしかないと思っています」
物理的(フィジカル)な体験から立ち上がる人間×技術の未来ヴィジョン
──初期の例でいえばPerfumeのダンスとドローンを組み合わせたステージなど、身体性を重視してきたスタンスにも通じる話ですね。
I「10年前にさかのぼりますが、インタラクティブな観客参加型の仕掛けを手がけるなかで、人間にせよ機械にせよ、いちばん面白い動きの組み合わせを提示したいと考えたのです。そこから、ダンサーの研ぎ澄まされた動きとさまざまな仕掛けを組み合わせるようになりました」
M「ドローンを編隊飛行させるなどマシンだけのショーと比べ、人間の動きが加わることで見る側もそれを“自分事”として感じられるようになる。ただ、ドローンやキューブ型のロボティクスをダンサーの延長として扱うのは、日本人特有の感覚かもしれない。海外のお客さんからは、日本人ならではの感覚を感じるとよく言われますね」
I「確かに、日本人のお客さんからは、動き回るキューブが可愛く見えるという声をよく聞きます(笑)」
──展覧会タイトルの「マルティプレックス(複合的)」は、近年話題の「XR」技術など、バーチャルとリアルの融合領域を連想させます。
M「僕らとしては、いわゆるVR(仮想現実)やデジタルツイン(仮想上に再現されたもう一つの物理空間)といった、アナログの世界をそのままデジタル化する取り組みはあまりやっていません。キューブとダンサーの表現にしても、いっそのことキューブをCG化してAR(拡張現実)で重ねたほうが労力的に楽なんですが、あえて手間をかけてアナログで存在を表現するからこそ、新たな体験が生まれるはずだと考えています」
I「あとは、仕組みの面白さを感じられること。今回の展示はオンライン会場も開設していますが、美術館の空間をただ3Dモデルで再現したわけではなく、美術館内の観客やロボティクスなどの位置情報を反映することで、オンライン会場だけのMR(複合現実)体験を構成しています。こうした表現については、リオデジャネイロ五輪閉会式の東京2020大会フラッグハンドオーバーセレモニーにおいて、現場とテレビ中継で異なる演出を成立させた経験が一つの転機になったように思います」
──最後に、展覧会の見どころについて教えてください。
M「現在進行形の作品に加えて、アーカイブエリアでは15年間に及ぶ実験や制作過程も展示しています。ライゾマティクスがどう進化を遂げ、どこへ向かおうとしているのか、ぜひ目撃してもらいたいですね」
I「個人的に注目してほしいのは、試行錯誤の様子を公開した展示「トライアル&エラー」のキャプションです。僕がいちばん好きな大度くんの言葉で、僕らの姿勢が的確に表現されている。その思いとともに、成功も失敗も合わせて「面白い」と思っていただけたら、うれしいですね」
「ライゾマティクス_マルティプレックス」
技術と表現の新たな可能性を追求してきたライゾマティクスの、美術館における初の大規模個展。オンライン会場との同時開催で、アーカイブから進行形の新作まで、15年間の試みを複合的(multiplex)に提示する。
会期/~6月22日(火)(会期延長)
会場/東京都現代美術館
住所/東京都江東区三好4-1-1
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/www.mot-art-museum.jp/
※予約優先チケットおよび最新情報は上記サイト参照。
オンライン会場/https://mot.rhizomatiks.com/
Portrait : Shuichi Yamakawa Edit & Text : Keita Fukasawa