天才ファッションフォトグラファー、ヘルムート・ニュートンが表現したもの | Numero TOKYO
Culture / Feature

天才ファッションフォトグラファー、ヘルムート・ニュートンが表現したもの

女性を撮り続けたファッションフォトグラファーの巨匠、ヘルムート・ニュートン。2020年に生誕100年を迎えたことを記念して制作されたドキュメンタリー映画『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』が2020年12月11日(金)より全国順次公開予定だ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年1・2月合併号掲載)

Crocodile, H.Newton, Pina Bauch Ballet, Wuppertal 1983 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
Crocodile, H.Newton, Pina Bauch Ballet, Wuppertal 1983 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

ニュートンの作品世界をどう捉えるか

1950年代半ばからファッション誌にユニークかつ衝撃的な作品を次々と発表したヘルムート・ニュートン。70年代に入るとアート界でも大きな注目を浴び、ギャラリーや展覧会でも大規模な展覧会が開催された。

しかし一方で「ポルノまがい」「女性嫌悪主義」と議論も巻き起こしている。映画に登場する“12人の女たち”の一人、批評家のスーザン・ソンタグは本人を目の前にしてこう語る。「あなたの写真は女性蔑視もいいとこよ。女性として不快だわ」

Grace Jones and Dolph Lundgren, Los Angeles 1985 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
Grace Jones and Dolph Lundgren, Los Angeles 1985 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

監督のゲロ・フォン・ベームはこの映画を作った目的の一つは、人々にあらためて考えてほしかったからだという。本作にはシャーロット・ランプリングらニュートンにインスピレーションを与えた女性たちのインタビューを収録。彼女たちの現在の視点から写真家、ヘルムート・ニュートンを捉え直すことで私たちに問いを投げかけている。彼がその後のファッションフォトに大きな影響を与えたことは言うまでもないだろう。

Chicken, French Vogue, Paris 1994 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
Chicken, French Vogue, Paris 1994 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

「私は悪趣味を愛している」

ニュートンのファッション写真は力強く挑発的で、常に人々を魅了した。それまでの着せ替え人形のようなモードを見慣れていた読者に強烈なインパクトを与えたという。本人いわく「私は悪趣味を愛している。趣味が良いということは所詮、標準的なものの見方しかできないということだ」

Rue Aubriot, Yves Saint Laurent, Paris 1975 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
Rue Aubriot, Yves Saint Laurent, Paris 1975 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

12人の女性たちが語るニュートン

この映画の特徴は、被写体という、言葉を発することのなかった女性たちがその声を届けていること。彼女らの発言から、ニュートンとその写真世界の新しい視点が見えてくるはず。

© Alexander Hein, Lupa Film
© Alexander Hein, Lupa Film

ナジャ・アウアマン/モデル
「性差別的で女性蔑視だと責めることもできるし、社会にあふれている現実を反映してるともいえる」

© Sven Jakob-Engelmann, Lupa Film
© Sven Jakob-Engelmann, Lupa Film

クラウディア・シファー/モデル
「すごい人よ、目がキラキラ輝いて、人当たりが良くて控えめでウィットに富んでた」

© Pierre Nativel, Lupa Film
© Pierre Nativel, Lupa Film

シャーロット・ランプリング/俳優
「彼の写真は想像の自由がある。それがアートの力よ。見る人が自由に想像できるの」

© Pierre Nativel, Lupa Film
© Pierre Nativel, Lupa Film

マリアンヌ・フェイスフル/歌手、俳優
「彼はワイマール時代の芸術家。芸術運動が栄えたドイツ表現主義の時代と繋がってる」

David Lynch and Isabella Rossellini, Los Angeles, 1988 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
David Lynch and Isabella Rossellini, Los Angeles, 1988 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

●「私はフェミニストだけど、男性優位を主張する作品については1つの文化の表現だと思う」イザベラ・ロッセリーニ/俳優

●「彼の写真はエロティックでありながら示唆に富み、深みがあって、写真の中に物語が流れてる」グレイス・ジョーンズ/歌手

●「ファッションは移り変わり、新しいデザイナーが台頭。でも彼は才能豊かで知的で力強い視点を持ち、ウィットにあふれ写真は少しもブレなかった」アナ・ウィンター/米『VOGUE』編集長

●「彼が気力を保てたのは、小さなカメラのおかげよ。カメラはお守りなの」ジューン・ニュートン/写真家(ニュートンの妻)

Arena, New York Times, Miami 1978 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
Arena, New York Times, Miami 1978 © Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

映画『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
URL/helmutnewton.ayapro.ne.jp/
12月11日よりBunkamuraル・シネマ、新宿ピカデリーほかにて全国順次公開

Profile

ヘルムート・ニュートンHelmut Newton 1920年、ドイツのベルリンで裕福なユダヤ人家庭に生まれる。36年より女流写真家イヴァ(エルゼ・ジーモン)のもとで修行を始める。38年、ナチスの手を逃れるためドイツを出国、シンガポールに滞在。新聞社の写真部員になるが2週間で解雇される。40年にオーストラリアへ移住、47年に女優のジューン・ブラウン(アリス・スプリング名義で写真家として活躍)と結婚。ロンドン、後にパリへ移住。『VOGUE』などのファッション誌で活躍。75年にパリで初個展。81年モンテカルロへ移住。2004年ハリウッドで自動車事故にて死亡。享年83歳。 Helmut at home, Alice Springs, Monte Carlo 1987 © Foto Alice Springs, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation

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