ピカソ、マティスなど巨匠画家を魅了した、ムルロ工房のヴィンテージ・ポスターが欲しい!
11月12日からわずか8日間という限られた期間、かつてパリにあった伝説の「ムルロ工房」が制作したリトグラフのヴィンテージ・ポスター展が開催されます。一体それはどんなに美しいものなのか? ムルロ工房の歴史と共に紹介します。
そもそもムルロ工房は、1852年パリに小さな商業版画や壁紙を扱う個人商店として開業しました。ちょうどペリーの黒船が最初に日本へやってきた頃です。そんな小さな店が大きくなるのは2代目ジュール・ムルロの時代。挿画本の制作や商業ラベルのプロデュースなどで事業をどんどん拡大していきました。
そして注目すべき3代目フェルナン・ムルロ(1895~1988)が登場します。彼こそが20世紀の巨匠芸術家とこの工房を結び付けたキーパーソンです。彼は2代目である父ジュールが販路を広げた版画事業を、1930年パリ・ルーヴル美術館「ドラクロワ展」のポスターを制作したことを転機に、リトグラフ制作に一本化します。いわゆる選択と集中です。ここに芸術的リトグラフ工房「ムルロ工房」が誕生しました。
アンリ・マティスのアートワークによる、美術文芸誌「ヴェルヴ」創刊号表紙 1937(左) 「ヴェルヴ」23号表紙(右) 1949 Courtesy of Mourlot Editions
特筆すべきは、世界で最も美しいと言われたフランスの芸術文芸誌「ヴェルヴ」(1937~1960)とのコラボレーションです。このコラボにより、マティス、シャガール、ミロなどが工房に脚を運びました。フェルナンは当時注目されていた彼ら芸術家たちの目の前で、リトグラフ制作の職人技や印刷過程を披露するなどして、積極的に工房の技術を売り込みました。画家たちはムルロ工房で制作されるリトグラフの質の高さに驚嘆し、一気に魅了されたといいます。画家たちは工房に通い、「製版」や「刷り」を担当する職人と相談しながらリトグラフ制作に没頭しました。こうした偉大な芸術家(アーティスト)と職人(アルチザン)の協働により、たくさんの芸術的なポスターが制作されていったのです。
残念ながら工房は、4代目のジャック・ムルロが1997年に引退したことで、その歴史に幕を閉じました。しかし現在でもムルロ家5代目エリック・ムルロによりムルロ・エディションズ(ニューヨーク)を通じ理念は継承され、20世紀巨匠の作品を世に紹介し続けています。今回の日本でのヴィンテージ・ポスター展に関して彼は以下のように言葉を寄せています。
「私たちムルロ家と日本の関係は深く、それは藤田嗣治画伯がいくつかのプロジェクトで私たちと仕事を始めた1950年代まで遡ります。我々のリトグラフ制作にかける情熱を、版画制作の長い歴史を持つ日本と共有できることはとても名誉なことです」(エリック・ムルロ/ムルロ・エディションズ代表)
日本では2015年、画家マーク・ロスコの大作所蔵で知られる<DIC川村記念美術館>や、神奈川県立近代美術館葉山などで「ムルロ工房と20世紀の巨匠たち:パリが愛したリトグラフ」という展覧会が開催されています。また、アメリカをはじめとした海外の美術館ではムルロ工房が制作したリトグラフのヴィンテージ・ポスターを収集する動きが加速しています。
見て、知って、作品自体が買える展覧会。一度、その素晴らしいヴィンテージ・ポスターの数々を自らの目で見て確かめて欲しいと思います。
「20世紀の巨匠とムルロ工房 ムルロ・コレクション:ヴィンテージ・ポスター展」
会期/2020年11月12日(木)~11月20日(金)
会場/ギャラリー・ラ・ルューシュ
住所/東京都港区麻布十番2-13-2 2階
開館時間/12:00~18:30(会期中無休)
入場料/無料
問い合わせ先/ギャラリー・ラ・リューシュ
Tel/03-3452-0800
NYのムルロ・エディションズの公式展覧会。ムルロ工房のヴィンテージポスターを工房の歴史紹介と共に20点ほど展示、販売も行う。販売されるヴィンテージポスターにはムルロ・エディションズの証明書が付く。
Text:Minami Nakawada Special Thanks:Mourlot Editions, HIBIKINOZU