時を味方に。小倉ヒラクの発酵のすゝめ
食材は時間がたてば腐敗してゆくもの。ところが時間をかけることで、おいしく、健康に役立つようになった食品がある。それはみそやキムチなどの発酵食品。“発酵デザイナー”の小倉ヒラクが語る、その魅力と効能とは。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年7・8月合併号より抜粋)
体に役立つ、発酵食の魅力
「ステイホーム」を経て、今後の生活に思いをはせることが増えた。食事もその一つ。時短や効率性に特化したレシピには今まで何度も助けられたけど、それらがすべてとなるのは心地良くない。そこで浮かび上がる選択肢が発酵食。「微生物の働きにより、おいしく、人間に役立つものになった食品を僕は“発酵食”と呼んでいます」と発酵デザイナーの小倉ヒラクさん。発酵食から感じられる時間軸とは。「微生物によってさまざまです。ヨーグルトや納豆のように短時間で集中的に発酵させるものもあれば、味噌やワインのように、発酵が終わった後の熟成期間を経ることでおいしくなるものも。作り手の視点でいえば、発酵食を作ることは調理するというより、生き物を育てている感覚がある。他の料理にはあまりない、発酵食独自の文化だと思います」
この春、東京・下北沢に開店した「発酵デパートメント」には、発酵食の手作りキットを買い求めるお客さんが多く来店するそう。「完成された発酵食を食卓に取り入れるのも気づきがたくさん。特に長期熟成の食品やユニークな微生物の食品はアートみたいです。今まで自分が“おいしい”と感じていた味覚の土台や美意識の枠組みに揺さぶりをかけられる。人間の感覚を覆すのが人間でなく微生物という点も面白い! あと僕は体が弱いのですが、発酵食を常食するようになってから体調が崩れにくくなり…食卓にないと落ち着かない(笑)。みそ汁や漬物など毎日食べても飽きないどころか、ホッとする。そこが何よりの魅力だと思います」
内側からキレイに! 毎日食べたい発酵食品
1.良質な生乳を原料にした、濃厚で柔らかなチーズ
白カビタイプのソフトチーズ。熟成とともに塩味のあっさりした風味が深まっていく。生乳のフレッシュな乳酸菌が豊富。「消化促進を促す作用も期待できます。お肉料理などと一緒に」。ワインとのペアリングも堪能して。
木次カマンベールチーズ・イズモ(120g)¥1,030/木次乳業
2.半年以上じっくり熟成。山梨・甲府が誇る地みそ
「日々食べるみそにこだわり健康体に」。米麹と麦麹をブレンドさせて醸造。70年近く仕込みに使用している木桶に住み着いた菌により発酵。さっぱりとした米みそをベースに、麦みそ特有の甘味が加わりまろやかな風味。
甲州やまごみそ(1kg)¥833/五味醤油
3.植物性乳酸菌たっぷり! 100%ピュアなキムチ
「日本人の体質に合う植物由来の乳酸菌を摂取できます」。黒酢を隠し味にした化学調味料不使用の干し大根のキムチ。干し大根には胃腸の働きを助ける酵素のほか、食物繊維や鉄、カルシウムなども豊富。コリコリとした食感がたまらない。
生きてるキムチ 干し大根(80g)¥390/10% I am
4.“飲む点滴”甘酒の素。菌が生きた半生麹
「麹の生きた甘酒を飲むには手作りがいちばん。65℃の湯に浸け、5~6時間ほど炊飯器で保温すれば完成」。味噌屋自慢の米麹は旨味の素となるプロテアーゼに加え、甘味を生み出すアミラーゼも豊富。砂糖を使わずとも大満足の味に。
米こうじ(400g)¥700/五味醤油
5.腸を健やかに保つ、珍しい完全発酵茶
近世に東南アジアの山間部から中国・雲南省を経て四国に伝わった、酸味のある完全発酵茶、碁石茶(ごいしちゃ)。「天候や気温を見ながら植物性乳酸菌で発酵させた、高知・大豊町の伝統です」。お湯を注ぐだけのティーパックならお手軽。
碁石茶®ティーパック(6袋入り)¥500/大豊町碁石茶協同組合
6.複数の乳酸菌で発酵。木曽で受け継がれる伝統食
すんきは信州の伝統野菜である赤かぶの葉を乳酸菌で発酵させた、長野・木曽に江戸時代から伝わる漬物。整腸作用が期待できるうえ、無塩なので減塩食品としても重宝。「みそ汁の具としていただくのがおすすめ」。温かいそばに添えても。
すんき(250g)¥550/アルプス物産
※すべて発酵デパートメントでの販売価格です。
発酵デパートメント
国境を越えたユニークな発酵食が勢揃いするショップ。国内外の発酵調味料や漬物、発酵茶、アルコールなどが購入できるほか、伝統的な発酵食をモダンにアップデートした食事も
楽しめる。今後は発酵をテーマにイベントも開催予定。一部商品を公式ホームページでも販売。
住所/東京都世田谷区北沢2-36-15 BONUS TRACK内
URL/hakko-department.com
Instagram:@hakko.department
※営業時間など、最新情報はインスタグラムをご確認ください。
Interview & Text:Nao Kadokami Photos:Shuichi Yamakawa (cutout) Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara