唯一無二のヘアデザイナー、加茂克也の世界【クリエイション&名言編】
稀代のヘアメイクアップアーティスト・加茂克也の逝去を受け、『Numero TOKYO』最新号では全8Pにわたる追悼記事を掲載。誌面で紹介しきれなかったビジュアルやコメントも加えて、世界を魅了したアーティストの偉業を振り返る。(『Numero TOKYO 』2020年6月号掲載)
2020年2月末、ファッションウィークの真っただ中に届いた、ヘアメイクアップアーティスト加茂克也の訃報。SNS上では世界中から彼の偉業に敬意を表し、その早すぎる死を悼む声が聞こえてきた。彼がファッションシーンに残した功績はあまりにも大きい。ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン、アンダーカバーに始まり、シャネル、フェンディといったブランドのショーやキャンペーンから各国のモード誌まで、グローバルに活躍する、まさに名実ともに日本を代表するアーティストだった。斬新な発想、独特の美意識、時に抜群のユーモアから生み出されるヘアスタイル、ヘッドピースは、世界中のトップクリエイターに影響を与え、魅了してきた。これまでNuméro TOKYOで手がけたヴィジュアルやインタビュー記事、仲間からのメッセージとともに、この稀有な天才的クリエイター加茂克也を振り返る。たくさんのありがとうを込めて。
ヘアメイクアップアーティストへの道のり
「最初は洋服のデザインがやりたくて、ファッションの世界に近づくには、美容業界から始めるのが早いのではという理由からこの道に入った。でもいざ美容の勉強を始めてみたら、やめられなくなって。引き返すのが嫌いなんです(笑)」
「パリでギイ・ブルダンやヘルムート・ニュートンなどと仕事をしてた田村哲也さんに、モッズ・ヘアに入社してすぐアシスタントにつきましたが、そこでは技術は一切教わらなかった。だけどどう考えてヘアを作るのか、どう表現して人に伝えていくか、ということを学びました。あのときの経験が今の自分につながっている」
表現とは──“超個人的”であることが一番重要。
個人的に「これがいい」と感じるものをどう形にしていくか。
自己解決を実現すること。それが表現なのだと思います。
クリエイションのスタイル
「頭の中でデザインを考えて、そのままそれを形にしていく。デザインと制作が同時進行なんです。スケッチを描いたことは今までほとんどない。チームのスタッフには頭に思い描いたことを見本で作って見せたり、口頭で伝えて作ってもらうので、彼らは大変かもしれない(笑)。でも紙にデザインを起こすより、手を動かして作っていくほうがずっと早い」
「実はそんなに手先は器用じゃない。雑なんだけど大まかに構成していくタイプみたいで、職人肌ではないと思う。ショーや撮影で作るヘッドピースにしても何十年も残すことが目的ではないので、クオリティに気を取られすぎてしまうと“モノ”自体の力が弱まってしまうんじゃないかと。なので、一気に作ってしまうようにしている」
モノにまつわるバックグラウンドに興味がある。
作り手や、アンティークならかつての持ち主の
ストーリーが感じられるものが好きですね。
なぜなら、そのものの存在に必然性があるから。
若い世代に思うこと
「近頃はファストファッションのブランドもたくさんあるけど、僕がこの業界に入った80年代後半には何もなかったから、着るものを自分好みにリメイクしたりして、それはそれで楽しかった。そういった意味では今は面白くないんじゃないかなと思うよね。ただ、新しいことは何もわからないけど(笑)」
自分が持ち合わせていない
価値観や感覚に惹かれる。
「映画館も写真集や画集を扱う本屋もないような福岡の田舎から上京した21、22歳の頃、田村(哲也)さんのアシスタントをしていた当時は知らないことだらけでみんなの話が理解できず、焦っていろいろ勉強しました(笑)。でも今の若い人は何でも検索できて知っている気になるのか、ぼーっとしている人が多い気がする。なので僕は年齢関係なく、個人個人のテクニックや感覚を大事にしています」
とにかくモノが大好き
「デザインのインスピレーションは、日々の生活の中から生まれてくるという感じ。特別に何かから得るということではない。ただモノに対しての興味はある。眼鏡や時計はいつも5個くらいずつ持ち歩いているし、最近は陶器にも興味を持つようになった。歴史を掘り下げたり、ディテールに込められたストーリーを知ることに興味がある。他には落ちているものとか、海の漂流物などを拾ったり。後々、作品として使えることもあるしね」
「最近、自然死が好きで、捕まえた虫は刺さないでそのまんま置いているんだよね。新しく集めた虫、見る? バービー人形の頭に虫を乗せてみたんだけど、顔を髪でグルグル巻きにしてあるのは木の根っこ。白いマッシュルームは森の中に生えていたやつ。赤いのとか毒キノコもあって面白いよ。ただ、ヨーロッパにある赤くて白い斑点のあるキノコがまだ見つからない」
「“モノ”が大好きなので、例えばドライヤーなどプロダクト開発にも携わってみたい。表現と商品開発とはまったく違う仕事なので大変そうだけど、メイクアップアーティストのピーター(・フィリップス)やアーロン(・ド・メイ)も、プロダクトに携わることで彼らの視野が広がっていくのを見てきたので体験してみたい。何か新しいことが起きそうで」
Edit&Text:Masumi Sasaki, Chiho Inoue