シカゴ、映画ロケ地を巡る旅 | Numero TOKYO
Culture / Feature

シカゴ、映画ロケ地を巡る旅

アメリカ北東部イリノイ州に位置し、ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ全米3位の人口を持つ大都市シカゴは、五大湖のひとつ、ミシガン湖に面して超高層ビルが建ち並び、街にはモダンアートが点在する。その一方で、19世紀後半に建てられた古い建築物や高架鉄道が今も利用されているなど、新旧が融合した街並みが特徴的。また商業や金融の拠点であり、音楽や芸術にも深い歴史背景のあるシカゴ。中でもとりわけ”映画の街”と言われているのをご存じだろうか?

1907年にチャーリー・チャップリンで有名なエッサネイ・スタジオの設立をはじめとして、市が提供する充実した補助金制度や積極的な撮影の誘致により、映画産業が活発で、シカゴを舞台にした多くの名作が生まれている。それに伴い、今では年間50余りもの映画祭が開催されているのだ。今回、その頂点とも言えるイベントを訪問した。10月16日から27日に開催された第55回シカゴ国際映画祭である。 「ハリウッドの商業映画に代わる作品を上映すること」を主旨にスタートし、今では国際コンペティション部門を持つ映画祭として北米で最も古い映画祭のひとつとなっている。今年は、67カ国から厳選された長編140本と短編55本の計200本にも及ぶ映画が10日間上映された。出品作品はシカゴで初公開となるものばかりで毎年5万人以上の観客が劇場を訪れ、多くの外国映画に触れる機会となっている。

日本からは是枝裕和監督の『真実』が特別上映、真利子哲也監督作『宮本から君へ』と半野喜弘監督作『パラダイス・ネクスト』が世界各国の現代映画を紹介するグローバル・カレント部門、深田晃司監督作『よこがお』が世界各国の秀作とゴールド・ヒューゴ賞(金賞)を競う国際コンペティション部門で上映された。ここで是枝監督とシカゴ国際映画祭の関係について少し説明すると、監督の劇場映画デビュー作となった『幻の光』(1995) は同年の第31回シカゴ国際映画祭でゴールド・ヒューゴ賞を受賞。以来、新作はシカゴ国際映画祭で必ず上映されている。シカゴに愛された監督である。

今年のゴールド・ヒューゴ賞はフランス映画『Portrait of a Lady on Fire』、シルバー・ヒューゴ賞はポルトガル映画『Jury Award』が選ばれた。

今回、シカゴ市観光局「CHOOSE CHICAGO」の協力を得て、多くの有名ロケ地を訪れることができたので、その一部を紹介する。

1.シカゴを一望する

「SKY DECK(スカイ・デッキ)」

シカゴを代表する観光スポットで、全米でも2番目の高さ(1位はニューヨークのワールドトレードセンター)を誇る。103階の展望室からはダウンタウンを見下ろす絶景が360度広がっている。注目は全面ガラス張りの展望台「スカイ・デッキ(Sky Deck)」。ガラスの床面に立てば地上から412mという高さに立っていることに。『ダークナイト』ではバットマンがゴッサム・シティをビルの上から見下ろすシーンをはじめ、『トランスフォーマー2』、『トランスフォーマー3』、『フェリスはある朝突然に』『マン・オブ・スティール』など多くの映画が撮影されている。

特に印象的なのは、ウォシャウスキー姉弟によるSF映画『ジュピター』。冒頭約10分にわたる、主人公ジュピターの救出劇はWillis Towerから始まり、彼女を守るケインの“反重力ブーツ”が作動し、宙に浮いた2人がビルの谷間をすり抜け、刺客をギリギリでかわしていく。このチェイスシーンは、1日に6分間しかない街が一番美しく見える時を狙い、VFXばかりではなく、現実の最も美しいシカゴの摩天楼も映し出されていた。ぜひ展望階のスカイデックまで上がって映画のシーンさながらに、シカゴの摩天楼をその目に焼き付けてほしい。

住所/233 S Wacker Dr
TEL/312 875 0066
営業時間/日〜金9:00〜22:00 土8:30〜0:00(3月〜9月) 日〜金10:00〜20:00 土10:00〜21:00(10月〜2月)
URL/https://theskydeck.com/

2.あの有名な映画の階段はここ!

「Union Station(ユニオン・ステーション)」

全米有数の美しさを誇るユニオン・ステーションはシカゴを中心に、東はニューヨーク、南はニューオリンズ、西はサンフランシスコと全米約500の駅と結ばれている重要なハブ駅となっている。高さ30mもある待合室の天井。まるで劇場のようなメインビルディングは華やかなボザール様式が目に美しい。

ユニオン・ステーションと言えば、ブライアン・デ・パルマ監督が禁酒法時代のシカゴを舞台に、ギャングのボスであるアル・カポネを逮捕すべくアメリカ財務省の捜査官エリオット・ネスや警官ジム・マローンらが奮闘する様子をスリルたっぷりに描いた『アンタッチャブル』。そのラストシーンの舞台となった場所。駅構内で突然はじまるギャングとエリオットの銃撃戦、階段を落ちる乳母車、響く赤ん坊の泣き声。この手に汗握るシーンはあまりにも有名だ。この駅舎は『パブリック・エネミーズ』や『ベスト・フレンズ・ウェディング』、『マン・オブ・スティール』、TVドラマ「ER」などにも登場している。

住所/225 S Canal St
TEL/800 872 7245
URL/https://chicagounionstation.com/

3.映画の中の傑作芸術たち

「The Art Institute of Chicago(シカゴ美術館)」

二頭のライオンの像が入り口で出迎えてくれるシカゴ美術館は、ボストン美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館と並ぶ、アメリカの三大美術館のひとつ。ヨーロッパの印象派からモダンアート、アメリカンアートが充実しており、ゴッホやモネ、カイユボット、スーラ、エドワード・ホッパーらの名画から、ロダンの彫像まで、とにかく有名な作品が多い。2009年にはニューヨークのホイットニー美術館やパリのポンピドゥーセンターを手がけた建築家のレンゾ・ピアノによる「Modern Wing(新館モダン・ウィング)」がオープンした。独特の浮遊感と透明感があり、いかにもレンゾ・ピアノらしい繊細なデザイン。2020年1月26日まで「ANDY WARHOL—FROM A TO B AND BACK AGAIN」展が開催中。

ジョン・ヒューズが手がけた80年代を代表するティーンムービーの佳作『フェリスはある朝突然に』は高校生のフェリスが学校をズル休みして友達とシカゴの観光名所を巡る青春映画だが、その中にも登場している。

住所/111 South Michigan Avenue
TEL/312 443 3600
営業時間/月〜日10:30〜17:30 木曜のみ20:00まで
URL/https://www.artic.edu/

4.ダウンタウンにあるフランク・ロイド・ライトの傑作

「Rookery Building(ルーカリー・ビル)」

1888年にダニエル・バーナムとジョン・ウェルボーン・ルートによって設計されたRookery Buildingは、初期の摩天楼建築であり、アメリカの国定歴史建造物にも指定されている。彼らの依頼により、1905年に東京の帝国ホテルの建築家としても有名なフランク・ロイド・ライトがロビーの改修を手がけ、機能美を追求したライトの真骨頂であり、モダニズム建築の傑作と言われている。

建築物として優れた外観が人気で多くの映画やドラマで見ることができる。例えば『アンタッチャブル』では主人公エリオット・ネスの勤務する警察本部がこの建物の中に設定されている。『ホーム・アローン2』では、トイ・ストアー「Duncan’s Toy Chest」としてファサードと1階の一部分が使用されている。
ライト・コートと呼ばれる大理石でできたエントランスは一般に公開されているが、有名な螺旋階段を見るためには、ガイドツアーへの参加が必要。

住所/209 S. LaSalle Street
TEL/312 994 4000
営業時間/月〜金6:00〜18:00 土8:00〜14:00 日休館
URL/http://flwright.org/researchexplore/rookery

5.名シーンの舞台は金融街にある

「Chicago Board of Trading Building(シカゴ商品取引所)」

シカゴ商品取引所はルーカリー・ビルにほど近い、金融街の中心にあるアール・デコの建築物。
壁に埋め込まれた時計が特徴で、この一帯の道路で多くの映画の撮影が行われている。ジョニー・デップが実在の銀行強盗を演じた『パブリック・エネミーズ』では、ポスターの背景として使用されているほか、『ダークナイト』ではバットマンとジョーカーの対決シーンも撮影されている。

住所/141 W Jackson Blvd
TEL/312 435 7180
URL/http://www.architecture.org/

6.世界最大のティファニーグラスのドーム

「Chicago Cultural Center(シカゴカルチャーセンター)」

ミレニアム・パークの目の前にある、1897年にシカゴ美術館を手がけたボストンの設計事務所Shepley, Rutan & Coolidgeが設計したシカゴを代表する建築のひとつ。もともとは図書館として建てられたが、1970以降、現在ではカルチャーセンターとして無料の展示会やコンサートなど文化的な活動に使われているほか、シカゴ市観光案内所としても機能している。最も見どころは、ティファニーグラスのドーム。直径約15mのドームはガラス製のドームとしては世界一を誇り、その美しさは一見の価値あり。ワシントンストリートにある入口から入り、3階まで上がって、無料で見学することができる。

この壮大で優美な場所は、もちろんいくつかの映画の撮影が行われている。バラク・オバマ元大統領の物語『サウスサイドであなたと』では、このホールが初デートに訪れた場所として登場。さらに、『アンタッチャブル』ではエリオットが裁判中に抜け出した刺客を追い込むシーンが撮影された。

住所/78 E. Washington Street
TEL/312 744 3316
営業時間/月〜金10:00〜19:00 土日10:00〜17:00
URL/https://www.chicago.gov/city/en/depts/dca/supp_info/chicago_culturalcenter.html

7.シカゴを舞台にした映画にピカソあり

「Daley Plaza(デイリー・プラザ)」

Washington St.(ワシントン・ストリート)とClark St.(クラークストリート)の交わる交差点の角、Daley Plazeの前にピカソの巨大な彫刻が見られる。シカゴのハイウェイでのカーチェイスやジャズクラブでのライブシーンなど、そのほとんどがシカゴで撮影された『ブルース・ブラザーズ』。そのクライマックスに主人公2人の愛車ルース・モービルが突っ込んでいくのがDaley Plazaの正面にあるこのピカソの彫刻。『逃亡者』や『イルマーレ』のシーンでも印象に残っている。無題のため、一般的にはザ・ピカソとかシカゴ・ピカソと呼ばれているそう。

住所/50 W Washington St
URL/https://www.chicago.gov/

取材協力:シカゴ市観光局
https://www.choosechicago.com/

Photos & Text:Akiko Naito Edit:Chiho Inoue

Magazine

JUNE 2024 N°177

2024.4.26 発売

One and Only

私のとっておき

オンライン書店で購入する