松尾貴史が選ぶ今月の映画『LORO 欲望のイタリア』 | Numero TOKYO
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松尾貴史が選ぶ今月の映画『LORO 欲望のイタリア』

イタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニを描いた、名匠パオロ・ソレンティーノの最新作。ベルルスコーニの一人の男としての欲望と執着と挫折を、めくるめく狂乱と絢爛の世界に映し出す……。映画『LORO 欲望のイタリア』の見どころを松尾貴史が語る。(「ヌメロ・トウキョウ」2019年12月号掲載)

ソレンティーノが描くお騒がせ元首相

パオロ・ソレンティーノ監督がお好きな方には、たまらない映画だと思います。 あまりにも有名で、つい最近まで派手な行動や言動でいい意味でも悪い意味でも話題を撒き散らし続けたイタリアの政治家シルヴィオ・ベルルスコーニ氏とその絶大な権力に吸い寄せられ、まとわりつく人々の醜態を、ときにペーソス、ときにコメディとして描くデカダンス満載の映像です。  

豪勢な生活に明け暮れ、自分と、それに忠誠を誓う周辺の子分どもにだけ蜜を下ろし与える権力者の俗な内面をえぐる痛快さと悲哀もありますが、一度政権の座を追われ、その数年後に手段を選ばずに返り咲いた彼は、自分の足元を固めて、テレビなどの大マスコミを「制圧」し、職権乱用や暴言など数々のスキャンダルをはね除け往い なし、長期政権を維持しました。

あれ、どこかで聞いたような人物が近くにいるような気が。日本の総理大臣とはキャラクターも醜聞も内容は違いますが、長く権力者でいると必ず腐敗するのでしょう。二人に共通するのは、権力者でいること自体が目的であって、世の中を良くしようなどとはさらさら思っていないことでしょうか。

美女を邸宅に集めさせて開く狂宴は、退廃的であり、空虚で悲しくなるばかりですが、この映画ではそういう場面が結構長い時間を占めています。これだけの美女をこれほど勿体無い使い方で浪費するというのは、そのこと自体が作品の売りになっているということでしょうか。ひょっとすると、監督の個人的な趣味なのではないかと勘繰りたくもなります。

妻子がありながら、43歳の時に舞台に出演中の23歳の女優ヴェロニカを見初め、その年のうちに劇場を買い取って口説くという強引さ。73歳の時には55歳年下の女性と未成年淫行がバレて、暴露合戦になって通常の神経ではもたないのではないかと思いますが、彼は平気の平左で煙に巻くのです。

アメリカ大統領就任が決まっていたオバマ氏のことを、「若くて、いい男で、そのうえよく日焼けしている」と言ってしまい、各方面から追及されて「褒め言葉だよ」とうそぶいていたのを思い出します。そもそも品格のない人だとは思っていましたが、その後日本もアメリカも揃いも揃って(以下省略)。
 

映画の中では、ベルルスコーニ氏を作品自体が揶揄したり、批判したりという意図は感じられず、批評性という観点でいえば物足りないものですが、ある珍妙な人物を興味深く描いた架空の話だと思えば楽しめましょう。よろしければ話の種にいかがでしょうか。

『LORO 欲望のイタリア』

監督/パオロ・ソレンティーノ  
出演/トニ・セルヴィッロ、エレナ・ソフィア・リッチ、リッカルド・スカマルチョ  
11月15日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
transformer.co.jp/m/loro/

©2018 INDIGO FILM PATHÉ FILMS FRANCE 2 CINÉMA

Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史Takashi Matsuo 1960年、神戸市生まれ。TVに始まってラジオ、映画、舞台、落語、「季刊 25時」編集委員、創作折り紙「折り顏」、カレー店の運営など幅広く活躍中。最新刊に『違和感のススメ』(毎日新聞出版)。

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