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松尾貴史が選ぶ今月の映画『サバービコン 仮面を被った街』

1950年代に実際に起こった人種差別暴動をもとに、白人だけが住む、理想のニュータウン「サバービコン」の裏側をブラックに描いた映画『サバービコン 仮面を被った街』の見どころを松尾貴史が語る。

予想のできない展開に目を見張って

 これは大変なものを見てしまいました。人というものは、常識を取り繕いながらも、これほどまでに邪悪な本性を持てるものなのですね。冒頭、タッチ、テイスト、画質、さまざまな要素から明るく古き良きアメリカの郊外の楽しいお話、というふうにジョージ・クルーニー監督の術中に嵌ってしまい、油断してしまいました。

 舞台は1950年代のアメリカです。のどかで暮らしやすい住宅街にある日、黒人のマイヤーズ家が引っ越してきます。ほどなくして、強盗事件が発生し、その隣家の主人であるガードナー・ロッジ(マット・デイモン)は妻のローズ(ジュリアン・ムーア)を亡くしてしまうのでした。まだ幼い息子のニッキーの世話をするために、ローズの姉マーガレット(ジュリアン・ムーア、二役)が同居することになります。

 さて、暮らしやすいのどかな町ではありますが、それは白人にとってそうだというだけでした。街の住民たちは、不幸な出来事を何の根拠もなく、マイヤーズ家が住みついたせいだとキャンペーンを張り、嫌がらせが高じていき、暴動にまで発展してしまいました。そんなアホな、と思ってしまうかもしれませんが、この黒人差別暴動は実際の出来事で、被害に遭った家族の名前はマイヤーズ家でした。映画の中ではその「史実」が忠実に描かれています。

 多くの人は差別をすることがみっともないということを知っています。しかし、それがある種の匿名性があれば、その汚い行為に抵抗を感じなくなる傾向があります。日本でも起きているヘイトデモの参加者の多くが、サングラスやマスクで顔を隠していることにも現れていますし、ツイッターなどで本名や正体を隠して差別的な呟きを垂れ流している人も多いのです。

 この映画の中でも、おそらく意図してのことだと思いますが、多くの人たち、特に男性は没個性的に表現されています。小さな邪悪が集団になった時のかけ算は、恐ろしい解を見せつけます。そして、その騒ぎを横目に静かに繰り広げられる別の邪悪が恐ろしいことになっていくのです。抽象的な書き方で申し訳ありませんが、ぜひ映画館でその意味を実感していただきたく思います。

 マット・デイモンの演技と役作り、ニッキー役のノア・ジュープ少年にも舌を巻きましたが、ジュリアン・ムーアの二役も静かに凄いのです。二役であることを際立たせないことが最も難しい点だと思うのですが、二役であることを知らずに見た私は、よくこれだけ似ている女優を探してきたものだと感心していたので二重に仰天です。姉妹の対比も巧妙ですが、妹が亡くなった後に姉が故人の印象に近づけようとするところがまた出色です。

『サバービコン 仮面を被った街』
監督/ジョージ・クルーニー 
出演/マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、オスカー・アイザック 
2018年5月4日(金)より全国公開
URL/http://suburbicon.jp/

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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾貴史(Takashi Matsuo) 1960年5月11日生まれ。兵庫県神戸市出身。大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業。俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト、“折り顔”作家など幅広い分野で活躍。カレー店「般°若」(パンニャ)店主。著書にPHP新書『なぜ宇宙人は地球に来ない? 笑う超常現象入門』等多数。最新刊は『東京くねくね』(東京新聞出版局)。

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