ローラの雑誌「R magazine」も手がける
大田由香梨のクリエイティビティ
“ライフスタイリスト”の名にふさわしく、衣食住の全てをコーディネイトするマルチな才能の持ち主、大田由香梨に聞く。
近年では、モデルであり女優としても活躍の場を広げているローラのファンクラブ会報誌『R magazine』の制作に加え、今月27日には満を持して自らのライフスタイルをまとめたコンセプチュアルなスタイルブック『THE LIFESTYLIST』を上梓。企画から編集まで全ての工程に関わったという作品は、そのセンスとクオリティの高さで発売前から早くも話題を呼んでいる。あらゆるジャンルの垣根を超える彼女の類まれなセンスはいったいどこから生まれるのか? その秘密を探るべく、自らリノベーションしたという彼女の事務所を訪ねてみた。
ローラ × 大田由香梨の感性
──ローラさんのファンクラブ会報誌『R magazine』では、創刊時から全てのディレクションを担当されていると伺いましたが、そもそもきっかけは?
「去年、ローラのファンクラブを立ち上げることになったとき、同時にファン向けの会報誌も発行することになったんです。そのときちょうど私が以前からブランドのカタログ制作やアートディレクションもやっているのを彼女のマネージャーさんが知っててくださって、それでやってみないかとお声がかかったんです。制作するにあたってローラといろいろ話し合った結果、“作りたいものを作ろう”ということになって。それを突き詰めていって形にしたのが『R magazine』なんです」
──制作にはローラさんもかなり関わっているとか。
「はい。企画から撮影、編集と制作の一連をほとんどすべて3人(ローラ、自分、デザイナー)で進めています。毎日のように彼女とメールして進行していますね。ローラのキャラクターやムードが伝わるように、表紙もフォントも毎号変えて発行しています」
──彼女との息もぴったりですね。
「ローラとは、彼女がデビューしたての時から仕事を一緒にしてきた仲。ファッションはもちろん、食のことから生き方など考え方が共通している部分が多いんです。ローラはほんとにおしゃれでファッション感度の高い人。よき仕事のパートナーでもあるし、いろんなことを語り合える大切な人です」
今この時代に紙として残す理由
──『R magazine』からはローラさんの人間性や魅力がしっかり伝わってくると同時に、お二人のファッションに対する想いが伝わってくるアートブックのような側面も感じられます。
「今のようなウェブメディアが主体になってきた世の中において、形として残る紙の存在は特別だと思っているんです。紙に残すということは、自分たちが生きている間だけじゃなくて、ヴィンテージの本のように50年、100年とその先の時代に生きる人の本棚や家の中に残るもの。その人たちが今いるローラを見てファンになってくれたり、今この時代に生きていたんだなということを感じとってくれるような本にできたらいいなと思って作っています。ファッションはその時代のムードを切り取って見せてくれるものだと思うので、その時の気分を大事にしながら、ローラの内面も伝わるような一冊にしたいといつも考えています」
この夏ぴったりなフルーツ・フィズ2種。スイートとスパイシー あなたはどちら?
──制作するときのイメージソースは何かありますか?
「私はいつもこれという枠は作らないんです。ファッション、フードとカテゴリーを分けて考えていないので、どれに対しても好きなものをとことん掘り下げていっているような感じ。結果的にそうやって自然と蓄積していったものが発想として柔軟に出てきているのかもしれません。洋服から言葉を思いつくこともあればその逆もあるし、その場でぱっとアイディアが浮かぶことも結構あります。『R magazine』2号目で掲載したロエベの撮影の時も、パリでのショーが終わってから撮影まで1週間しか時間がなかったんです。そんな中でショーピースが急に変更になったから、それまで考えていた撮影内容もすべて変えなくてはいけなくなって。前日までどこで撮影するかも決まっていなかったんです。そこでふとひらめいたのが、アクセサリーにあったミラー。カメラマンの事務所にたまたまあったアクリル板を割って小道具にしたのがあのページです。結果的にものすごくいい仕上がりになって。そんな感覚を日々大切にしています」
──ジェーン・バーキンやツィギーなど、時代のファッションアイコンのそばにはいつもその人を支える優秀なクリエイターがいたわけですが、大田さんもそんな存在のような気がします。
「いえいえ、ローラが本当にすごい人なんです。私は彼女の伝えたいことを形にするお手伝いをしているだけです。きっとそういう相手の意向に徹して何かを作り上げるのが好きなのかも。月刊誌のスタイリストをしていた20代のとき、トレンドの中にいることはとても楽しかったし、刺激的だったんですが、一方でトレンドとは全く無縁のブレない自分自身もいて。であればそういうものをもっと発信していけたらなと思っていた矢先に、ブランドのカタログやビジュアルブックの制作など、よりコンセプチュアルなお仕事の依頼が舞い込むようになってきて。そこで経験を積んでいくうちに、ものや人の魅力をより深く伝える仕事のほうが自分は向いているんじゃないかと思うようになったんです。大変なこともあるけど、すごく楽しいです」
──『R magazine』で今後一緒にお仕事してみたい人や、いま気になっているブランドはありますか?
「ブランドだと、今はKENZOがとても気になっています。あとはフォトグラファーのデイモン・ベイカー。ローラをぜひ撮ってほしいと個人的に思っています」
Photos:Satomi Yamauchi, @otayukari
Text:Mari Higure
Edit:Yukiko Shinmura, Kefa Cheong