ラブリ×佐々木裕一先生対談 「SNSとの付き合い方って?」 | Numero TOKYO
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ラブリ×佐々木裕一先生対談 「SNSとの付き合い方って?」

個展「“デジタル”と“私”の関係 どうやら私は数字らしい」でインスタグラムのあり方における是非を問いかけたラブリこと白濱イズミ。東京経済大学コミュニケーション学部教授でSNSの研究を続ける佐々木裕一先生。両者を迎えて、SNSとの関わり方に“正解”はあるのかを考える。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2019年12月号掲載)

SNSの光と影

ラブリ(以下L)「個展をしたのはインスタグラムの投稿や数字がまるで人の全てかのような風潮にフラストレーションを感じたから。SNSにおけるフォロワーや『いいね!』の数は、インスタグラムの登場でより注目されるようになったと思います。仕事にも影響するようになって。そんな数への皮肉と、時代へのリスペクトを込めた展示内容にしました」 佐々木裕一(以下S)「ツイッターのユーザーについて研究した際は、使う動機として一般的に『知り合い同士の交流』『ニュースなどの情報収集』『暇つぶし』『オンラインでの人気獲得』の4つの結果が出ました。つまりは数に一喜一憂してしまう人もいると思いますね」 L「ツイッターは社会について発信するときに使うようにしています。内容によってインスタグラムと使い分けているという感じですね。インスタグラムのほうが内容が表面的でユーザーも若い」

S「写真は撮影をして投稿し、リアクションをもらえるまでの効率がいいですね。ツイッターみたいに他者の発言を否定する感覚があまりないのも、若い方に支持される理由かもしれませんね」

L「『いいね!』がたくさん付く投稿はたわいのないものであることが多いです。逆に、時間をかけて真面目に書いた文章や作品は「いいね!」が付きにくい。少し面倒くさい投稿は反応するハードルが上がるんです。自分が何に反応したか表示もされ、それすらジャッジされる材料になってしまうので、自分を守る心理も働いていると思います」

S「“よそ行きの自分”を演出している人は、少なからずいると思いますね」

L「女性のユーザーは『完璧な理想の女性像』を表現するような投稿に対して、不安や劣等感を感じる人もいます。個展に来場してくれた方は年齢、性別、仕事もさまざまでしたが、共通点はユーザーでありながら、疑問や疲労も感じている点。私の場合、投稿の中で一番『いいね!』の数が多かったのは弟の小さい頃の写真で、平均が8000だとしたら、その10倍の反応があったんです。最初は悩みましたね(笑)」


S「ラブリさんの場合は自分が表現する人だからこそ、冷静に見つめているということはありそうです。SNSをして良かったことは何でしたか」

L「テレビに出る仕事もしていたのですが、自分のことがうまく伝えられなかったんです。どうしたら自分の活動や言葉を見てもらえるかなと考えたときに、インスタグラムが日本に上陸。自由に作品や言葉を発信できて、イメージを変えられたのはインスタグラムのおかげです。長く続けていくために、なるべく自分をつくらないで投稿してきました」

S「個としてパブリックと向き合っていく感覚でしょうね。いわゆるバカッターとかバイトテロは自分の発信がどこに届くか理解していないから事件になる。フォロワーが増えれば家族、親しい友人、同僚のほか会ったこともない人もいて、情報の受け取り方も各々違うわけです。専門的には「コンテクストの崩壊」といいます。なので、誤解を生まないためには複数のアカウントを持って使い分けることも一つの手です。ただそこでコミュニティ間の分断が起きるというまた別の問題も生まれるのですが」

だから、フェイクニュースに騙される!

L「SNSでは自分にとって心地よい情報のみ入ってくる環境になっている可能性がありますよね。

S「かなり偏っているのは事実です。フォローする人が偏るのは当たり前で、しかもSNSにはアルゴリズムという並び替えのシステムがあります。タイムラインの一番上に出てくる情報が、その人が最も関心を寄せる情報。フェイスブックの場合はタイムラインの下にくるべき情報は無反応なものと判断し削除されているそうです。興味のある情報を欲するなかでいきなり異質なものを見せても、人は離脱してしまいますから」

L「選挙前に10、20代の人たちに政治に興味を持ってもらえるような投稿をしました。若い人たちが理解できて好むような伝え方をしないと見てもらえないので、動画にまとめてストーリーで話しかけたりしていたんです。でも1000人くらいフォロワーが減ってしまって。逆に政治に関心のある人によるリツイートで、全然違う層の1000人のフォロワーが増えたことがありました」

S「なるほど。そういう意味でも、SNSはかなりユーザーの気分に左右されるということですね。良くも悪くも自分が見たいものだけ選んでいるわけです」


L「なかには『初めて選挙に行ってきました』といううれしいコメントもありました。でもきちんと判断ができるようないい情報を得て、選挙に行けたのかは正直わからない。情報を見極める術がないと利用されてしまう懸念もあります」

S「情報には企業や団体が絡んでいることが多いので、それは頭に入れておいたほうがいい。背景には、企業が広告費を稼ぐためユーザーに高頻度でスマホを手に取らせ、いかに使う時間を伸ばすか試行錯誤している現実がある」

L「まさか自分が広告のシステムの中の情報に踊らされているとは思っていないですよね。写真や動画を撮る方法も目的も何にせよ、スマホが日常生活の中心になっている人が多いです」

S「例えばアリがスマホを見てもその上を歩いて越えていくだけですが、人間がスマホを目にすれば、まず手に取ってしまう。そして怖いのは、そのうち慣れて無意識に手に取るようになることです」

L「無理やりにでも見ない時間をつくったり、フォローを増やさない努力をしないと。自分にとって必要がない情報やストレスになる可能性があるものは絶対にフォローしないようにしています」

S「メディアリテラシーが高い! しかも自制心がある。情報量が増えると一つの情報に対する注意は低下します。きちんと情報を読まず把握していない状況になってしまい、最たるはフェイクニュースに騙される」

L「誤った情報に騙されないためにはメディアリテラシーを高める必要があるんですね」

S「確かに高めたほうがいい。でも限界があると考えています。ドーパミンが出るので、フォロワー数や『いいね!』を脳が常に欲するようになる。そんななか、グーグルやフェイスブックをやめた人たちの中で、人間の弱みにつけ込む情報環境をなくそうという非営利組織を立ち上げ、取り組みを始めている人たちもいます。人間の能力をいかにコンピューターが越えていくかばかり注目されますが、すでに人間の弱さを超えていることを彼らは十分に理解しているんです」

SNSとより良い関係を築く

L「『情報がたくさんありすぎて何がいいかわからない』や『情報が正しいか判断ができない』という発言も聞きます」

S「現代はアルゴリズムによって並び替えられた、人それぞれが好きな情報だけを見ている状態です。それまではマスメディアを中心に『今、何が問題か』が報道され、その話題が広く共有されていました。この6〜7年で急速にその環境は崩れて、狭い世界だけを見ている人が増えている状況です。混乱しますよね」

L「自分で動いて人の話を聞きに出向いたり、興味があるトークショーや開かれたコミュニティに参加してみるのがいいのでは。そこで気になる人がいたら、SNSでフォローしてもいいし。情報は自分から動いて働きかけて得るものだと思いますね」

S「情報源を目的によって使い分けるのもいいと思います。個人的には新聞や本なども好んで読みます。SNSユーザーは情報型かコミュケーション型かに分かれることが多いので、会話を楽しみたいのか、行動を手助けする情報が欲しいのかを自覚することも大事かもしれません」

L「それから、SNSを自分の価値観の中心に置かないことかな。意外と周囲の人間も自分のことにしか興味がないから、気にしすぎない。ハッシュタグでおいしいご飯屋さんや旅先を探すなど、目的と時間を決めて使用するといいかもしれないです」

S「スマホに関していえば、パソコンやタブレットと違ってもともと人間の創造性を拡張する道具としては作られていません。しかもすぐ手に取ってしまうからアルゴリズムで差し出されたものを受動的に見続ける習慣を持ちやすい。でも小中学生までに生身の経験を通じて『面白い』と思える興味の対象と出会えれば、スマホでも熱心に調べ、まとめたり表現するためにパソコンやタブレットも使うようになる。今の時代の大人の大切な役割は子どもが実世界で熱中できるものを見つける手伝いだと思います」

L「個展で壁面に「SNSの中で本当の意味での会話はできない。あなたと会って話したいし、何を考えているか聞きたい」と書いたんです。それが新しい発見や気づきにつながると思って。あくまでデジタルは自分自身の外に置いて生きないと」

デジタルを人間の幸福のために

L「インスタグラムが『いいね!』を非表示にする通知が来て騒がれていますが、数字があるからこそ盛り上がった側面はあります」

S「私は数字をなくすべきだと考えます。今もっと情報技術を人の幸福のために使おうという『デジタル・ウェルビーイング』という考え方が提唱され始めていて、今後注目されるでしょう」

L「私はあえて、嫌な情報や違和感があるものに目を向けてはいます」

S「ニュースアプリのスマートニュースは、米国で『ニュース・フロム・オールサイド』という仕組みを持ち始めました。自分の政治的立場とは違う意見も表示でき、その混ざり具合も自分で調整できるものです。SNSの利用でも自分の『世界』から一歩踏み出す行動が欠かせないと思います」

ラブリのSNSルール

1. SNSを自分の価値観の中心にしない
2. フォローは最低限に抑え、不要な情報源を整理する
3. 生身の人との交流を通してより良い情報収集を積極的に行う
4. SNSで発信するときは、伝えたい対象者について考える

佐々木先生のSNSルール

1. すぐ手に取ってしまうスマホは、あえてすぐに手の届かないところにおく
2. 情報収集型かコミュニケーション型のSNSユーザーなのか自覚する
3. 情報の偏りを認識し、別の角度から物事を見つめる習慣を持つ
4. 実世界での体験を大切に。それを助ける道具としてスマホもSNSも使う

Photo:Harumi Obama Hair&Makeup:Naya(Loveli) Interview&Text:Aika Kawada Edit:Sayaka Ito

Profile

ラブリloveli モデル、タレント。フィリピン観光親善大使。2018年から白濱イズミとしてアーティスト活動開始。個展や音楽活動を行う。『愛は愛に愛で愛を』『私が私のことを明日少しだけ、好きになれる101のこと』を執筆。19年、SNSをテーマに個展「“デジタル”と“私”の関係 どうやら私は数字らしい」を開催。『Forbes JAPAN』による「TOP INFLUENCERS 50」に選出された。
佐々木裕一Yuichi Sasaki 東京経済大学コミュニケーション学部教授。社会情報学者。電通、米日の経営コンサルティング会社を経て、2009年に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。情報社会論を専門とし、ソーシャルメディア研究を行う。18年に『ソーシャルメディア四半世紀:情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ』(日本経済新聞出版社)を刊行。

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