都築響一氏による岡本太郎現代芸術賞展レポート | Saeborg
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都築響一氏による岡本太郎現代芸術賞展レポート

 

いつもお世話になっている写真家の都築響一さんが岡本太郎現代芸術賞での展示を取材しにきてくれました!!

大雪の日だったのですが、都築さんは来ると言ったら絶対に来る方なので、中止せず決行。

アクセスが大変な中、着ぐるみモデルさんも、都築さんもちゃんと来てくれて改めて感動しました。

そして、いらっしゃるなり「みんなおもしろいね~!」と言って、サエボーグだけの取材のはずが全員の作品を撮影していって、全体のしっかりした記事を書いてくれました。本当にありがとうございます!!

 

都築さんの「ROADSIDERS‘weekly」というメルマガのvol.104の一部を抜粋して転用させてもらっています。他の記事もいつも物凄い情報量と濃さなので、もっとご覧になりたい方はメルマガに登録してご購読してくださいませ!

 

 

2014/02/26号 Vol.104(1/2)

ロードサイダーズ・ウィークリー104号をお届けします。
先週、ちょうどいいところでオアズケした『埋まらない穴』の後編、そしてファインアートとアウトサイダー・アートの境界線を揺るがすような、アートのお話 もあり。さらに『フィールドノオト』は昨年から今年へと年をまたぐ時間の新宿の音を採集。そして今週は重要な告知もいっぱいあります! 最後までズズーッ とスクロールしつつお付き合いください。


lifestyle ハダカの純心
――あるストリッパーと医者の恋物語2

art 芸術はいまも爆発しているか
――岡本太郎現代芸術賞展

art ぴんから体操新作展に寄せて

travel フィールドノオト10 新宿(畠中勝)

告知1

埼玉のコミュニティFM局で、みどり◯みきさんの番組ゲスト!

告知2

3月7日より戸谷誠展、開催!

告知3

3月9日大阪オフ会・募集開始!

告知4

3月20日、美学校にて久住昌之さんと公開対談

告知5

3月23日、札幌ト・オン・カフェのトーク満員御礼&キャンセル待ち受付開始

告知6

3月29日、本宮映画劇場トリビュート・イベント!
――場末のシネマ・パラダイス 本宮映画劇場という奇跡

告知7

4月20日、嬉野観光秘宝館のお葬式

 

art 芸術はいまも爆発しているか
――岡本太郎現代芸術賞展

大雪で交通網がズタズタになり、何千人ものひとびとが家や車や電車に閉じ込められ、首相が天ぷらを食べていたあの日、僕は長靴を引っ張りだして、川崎市岡本太郎美術館に向かっていた。

生田緑地入口から美術館に向かう道。クロスカントリースキーか、かんじきが必要
生田緑地という広大な公園の丘の上にある美術館は、公園入口からふだんでも10分ほどの軽い登道。この雪で大丈夫かと思ったが、同じ敷地内の日本民家園は 休止、でも美術館は開館するという。ときにふくらはぎまで雪や水たまりに浸かりながら、先人の足跡をたどりつつの雪中行軍は、なんだか酔狂で非日常的で楽 しくもあり、ようやく辿り着いた美術館で、いつもどおりの制服を着たお姉さんたちにニッコリ迎えられたときには、外とのあまりの落差に一瞬とまどった。

ようやく辿り着いた美術館は山小屋にも見えた
岡本太郎美術館では現在、毎年恒例の「岡本太郎現代芸術賞展」を開催中(~4月6日まで)。今年が17回目、780点の応募作品が集まったというこの公募 展は、「芸術は爆発である!」精神を大事にしてます、と学芸員が強調するように、ふつうの現代美術館の公募展とは、ちょっと毛色の異なる作品が集まるので 見ていて楽しい。
今年は、本メルマガでも2012年6月20日配信号「突撃! 隣の変態さん」で紹介したラバー・アーティスト「サエボーグ/saeborg」が、グランプリである岡本太郎賞の次点にあたる岡本敏子賞を獲得したという ので、軽い気持ちで出かけてみたら、ほかのアーティストたちの作品もすごくおもしろかったので、展示されている入賞作品20点のうちから、いくつか選んで 紹介してみよう。
The Fall 高木敦基(特別賞)
展覧会場入口にそびえたつ白い塔。よく見るとすべて白いプラスチックの洗濯ばさみだけで組み上げられている。

ぜんぶわたしのもの 長尾恵那(手前)
まっかにながれる キュンチョメ(奥)

大賞となる岡本太郎賞に輝いた『ぜんぶわたしのもの』。作品空間に立入禁止のテープが張り巡らされ、
手前には「立入禁止の その先へ どうぞ お入り下さい」と書かれた米袋が置かれている。
そして空間内には黄土色の床と赤い尖塔。そのすべてが実はコメでできている。そのコメを土足で踏みつけて、鑑賞者は空間内をめぐることになる。赤い尖塔 は、上から見ればそのまま日の丸になる。コメを靴のまま踏んで歩くという心理的な抵抗感の、意外なまでの激しさ。それがそのまま震災後の日本が置かれた状 況を暗示しているようでもある。
あの日、日本は確かに変わった。
年をまたぐたびにそんな気は薄れていくけど、
あの場所は未だに入ることも出来ない。
それが普通になっちゃって
でも、ぐっと拳をにぎる瞬間もあって
どうにもならないことをどうにかしたくて2012/12/31-2013/1/1
ここには山ほどのゴミ袋があった。まるで日本の裏側みたいだった。2013/12/31-2014/1/1
この場所の除夜の鐘は三年鳴っていない。もうしばらく鳴らないかもしれない。

なにかに遠慮しつづけるのなんて、もうゴメンなんだ。
(作家の言葉/展覧会パンフレットより、以下同)


Slaughterhouse-9 サエボーグ
ふだんはこのように、ラバーの農場内に、ラバーの豚が一匹、静かに立っている。
会期中の毎週土、日曜、祝日には、一日3回、ラバーの着ぐるみに人間が入って、公開パフォーマンスという「解体ショー」を行う。
解体を待つ豚くんたちと「サエノーフ」
静かな音楽に乗って、淡々と解体が進んでいく。
解体を終えて記念撮影タイム!
私の性別は女ですがステレオタイプな女性像を押し付けられることに抵抗があります。男性が興奮する対象としての女性像から離れること。人間以外の姿になろうと決めたのはそのためです。
私は、新しいジェンダーや自由な性を作るために制作しているのかもしれません。
今回の展示では、牧場の巨大なセットを出現させ、ジェンダーもまた人工的なものであることを訴えます。
人工的な環境で特定の役割をこなすことは、哀れな食用家畜と変わらないのです。
(作家の言葉)

解体ショー動画

Kwannon うみの風景 小山真徳

高速道路の開通でだれも立ち寄らなくなってしまった、観光地の忘れられた土産物屋のような、昭和の匂いを撒き散らす――
2013年9月中旬、本作品制作取材の目的で青森県八戸から宮城県気仙沼までの海沿いの道を、八戸で買った中古のママチャリで縦断した。道中、陸前高田の 『奇跡の一本松』を遠くから見た時に、各地方の郊外の山上に鎮座している大観音の姿と重なった。国道45号から脇に入り開発中の風景を縫うようにフェンス で仕切られた仮設の参道が一本松に繋がっている。肉感は無く、ほっそりとした一直線の胴体から四方八方に枝が伸びており、それが千手の手に見えた。風景が 観音様を生む、とその時思った。
(作家の言葉)

いけにえライン 鈴木雄介
大掛かりな木製のタワー。各階のレール上を、プラスチックのキューブに封じ込められた金魚がゆっくりと走りつづける。ジーっというかすかなモーター音を伴いながら。

Flower Maker 栗真由美
白い台座から垂直に立つバラが満開の、あるいは花弁をほとんど散らした姿で、モーター仕掛けでゆっくりと回っている。

果たし状 小松葉月(特別賞)
不思議な教室のような空間。壁には黒板や習字が貼りめぐらされ、真ん中に学習机と椅子を備えた玉座のような場所がセットされている。
そして机に向かって、セーラー服を着て防災頭巾をかぶった作家が、一心不乱にペンを動かしている。

彼女の前に広げられたノート、漫画雑誌、聖書・・・そしてセーラー服から壁の黒板まで、彼女はすべての平面を小さな「にこにこマーク」で埋め尽くしている のだ。展覧会会期中の毎日! 朝10時から夕方4時半まで! 彼女はここに座ってにこにこを描き続ける――「作家自身が14年間着ていた、にこにこの顔が 描かれている制服と靴下と上履きを履いて、母が作ってくれた大切な防災頭巾をかぶり、毎日にこにこの絵を描き続けます」(展覧会サイトより)
45点のテスト、何度も書き直した漢字プリント。何かを同時に始めてもいつもクラスで最後。そんなどうしようもない私が小学2年生の夏休みにふとあること をしてみた。悪いテストの解答用紙にひたすら、にこにこの顔を画面びっしりかいてみた。何だか無性にどきどきした。それからも、ろくに授業も聞かずに教科 書の上に、にこにこの顔をかいていた。悲しくてぐちゃぐちゃにしてしまったテストもこれをかくことで大切な宝物に変わった。その行為は悲しいことを楽しい ことに変えるリハビリとなっている。
怖くて悲しい出来事には画面いっぱいのにこにこがかかれた果たし状をだす。私はこれのおかげで強く生きることを表現する。
(作家の言葉)

この街 柵木愛子
きらきらと輝く照明の下に広がる、ミニチュアのプラスティック・シティスケープ。

回る生きる 廣田真夕
果物を箱詰めするときに使う緑色の緩衝材を床と壁一面に敷き詰め、壁には絵を、床の真ん中には尖ったオブジェを配置、それが静かに回転している。福島で果樹園をしていた祖父と、福島が直面する悲劇への思いを込めた作品だという。

HORYMANと鯱 アートホーリーメン(特別賞)
5メートル角の床面に広げられた、おびただしい量の漫画作品。鑑賞者は手袋をしてページを捲りつつ、じっくりと大河絵巻を味わうことができる。

家族の物語 中村亮一
ユニークなかたちの画面に、丹念な筆致で描かれた家族の物語。

なにもない風景を眺める:線の部屋 文谷有佳里
4面ガラスの透明な箱に浮かび上がる線描が、ガラスを透かして見える背景と交じり合う。作者はガラスの箱に長い間こもって、すべてをこの場所で描き上げたという。

Fire 知花玲央
グロテスクでユーモラスな大小のレリーフ作品群が壁に配されて、ひとつの風景のように見えてくる。

悪ノリSNS「芸術は炎上だ!」 じゃぽにか(特別賞)
SNS時代に生まれた、若者の「悪ノリ投稿」という現象を、醜悪なコンビニというセッティングに再現する。会期中の日曜日には作家による「悪ノリSNSパフォーマンス」が行われ、それが来場者によって撮影、SNSに投稿され、炎上していくことが最終目的とのこと。

1970年代から90年代生まれの作家たちが集まった今回の芸術賞展。経歴を見てみると、ほとんどの作家は美術大学の出身か、在学中の学生だ。いわばファ インアート界のメインストリームを歩んできた若い作家たちのなかから、こんなふうにある種の「かろみ」とファンキーなテイストが育ってきていること。全般 的な傾向として「インサイダー・アート」と「アウトサイダー・アート」の境界線が、どんどん曖昧になってきている傾向がわかっていただけたろうか。そのダイナミズムがこれからどんな場所に向かっていくのか、すごく気になる。第17回 岡本太郎現代芸術賞展
~4月6日(日)まで
@川崎市岡本太郎美術館
http://www.taromuseum.jp

さまざまなイベントも予定されているので、サイトで詳細を確認されたし――

本展覧会は、出品作家にご協力いただき、会場内を自由に写真撮影できるようにいたしました。
ブログ、SNS等への撮影画像掲載も自由です。会場や作品の写真がSNS等を通じてシェアされ、来館者と作家とのコミュニケーションのきっかけになればと考えます。SNS等への画像投稿の際にはハッシュタグ「#TARO賞」をつけてください。
――という美術館の姿勢にもエールを送りたい。

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サエボーグ(saeborg)はラテックス製の着ぐるみ(スーツ)を自作し、自ら装着するパフォーマンスを展開するアーティストです。これまでの全作品は、東京のフェティッシュパーティー「Department-H」で初演された後、国内外の国際展や美術館で発表されている。2014年に岡本太郎現代芸術賞にて岡本敏子賞を受賞。主な展覧会に『六本⽊アートナイト2016』(A/Dgallery、東京、2016)、『TAG: Proposals on Queer Play and the Ways Forward』(ICA/ペンシルバニア大学、アメリカ、2018) 、『第6回アテネ・ビエンナーレ』(Banakeios Library、ギリシャ、2018)、『DARK MOFO』(Avalon Theatre/MONA 、オーストラリア、2019)、 『あいちトリエンナーレ』(愛知芸術劇場、名古屋、2019)、 『Slaughterhouse17』(Match Gallery/MGML、 スロベニア、2019 )など。

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