【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.4 肌、荒れてるよ | Numero TOKYO
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【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.4 肌、荒れてるよ

圧倒的な演技力で唯一無二の輝きを放つ俳優、松岡茉優。芸能生活20周年を記念した、Numero.jpでのエッセイ連載。vol.4は松岡がどうしても解せない呪いの言葉「肌、荒れてるよ」について。

vol.4 肌、荒れてるよ

特に20代前半は、自分のことを棚に上げ、周りの発言に怒りをもつことが多かった記憶があるのだが、案外、相手もそんな意味では言っていないことが年々わかってきたことで、怒る回数は減ったように思う。自分の発言で相手を怒らせていたことだって、数多あるのだろうし。
 

たとえば先日、通っているネイルサロンで、
「この前、お客さまが来店されたときに、ネイルが剥がれまくってて。ガビガビだったんです。もう、ちょー剥がれてて、え、これで過ごしてたの?って引いちゃって」
という会話が隣の席から聞こえてきた。
私は思わず自分の爪を見つめて、隠したい衝動駆られたが、そうではない。だって、ガビガビだから来るのでしょう? きれいにしてほしいから来るのでしょう? 引かれながら施術を受けたくなどない。
もう、このサロンには来ない! なんて、数年前までなら怒っていただろう。

でも、きっとそのネイリストさんにとっては、ネイルが剥がれたまま日常生活を過ごすことは、考えられないのだろう。爪はきれいにしておくもので、だからこそネイリストという仕事をしているのかもしれない。
他の客にも聞こえる声量で話していたことは確かだが、今その人が施術している客とは関係値が深くて、そんな話もできる仲なのかもしれない。

 
考えを巡らせれば、怒ることでもない。私はガビガビをきれいにしてほしくて伺うので、どうかこれからもきれいにしてほしい。どう思われていても、同じようにきれいにしてくださるのだから、引かれたって構わないのだ。
その人の気持ちになって捉え直すという筋トレをしていると、日々の消耗が抑えられるし、自分にはない価値観や感情の発見になる。そういう人もいるのだな、と、捉えるようにする。

そんな心掛けで過ごしていても、どうしても理解できず、毛が逆立つ発言がある。
「肌、荒れてるよ」
に代表される、相手が気にしているかもしれない容姿について、あえて言及する行為だ。
そんなこと、その人自身が誰よりもわかっている。その人が治したい場合、すでにありとあらゆる努力を重ねているだろうし、そこまで気にしていない人であっても、
「え、ほんと⁉︎」
となるケースは限りなく少ないだろう。たとえば、「太った?」に対しても同じ思いである。その人が気にしている場合、すでにありとあらゆる努力をしているだろうし、そんなに気にしていなくて、
「え、ほんと⁉︎」
となったとしても、
「教えてくれてありがとう!」
とはならないと思う。

先述の通り、自分には理解できない発言であっても、なるべく理由を考えるようにしているのだが、これだけは、なぜわざわざ伝えるまでに至ったのか、どうしてもわからない。心配してくれるのだったら
「肌荒れつらいね、どんな方法を試しているの?」
だとか、
「そんなに気にならないけれど、こういうサプリがあるよ」
だとか、自分の知っている情報を共有したり、共感することで相手の気持ちをなだらかにすることもできるはずだ。

たとえば、「美人だね」と言われることがつらいという人もいる。言ったほうとしては褒め言葉であっても、それがコンプレックスだったりすることがあるのだ。
容姿に言及するというのは、そもそもが難しい。どこに触れてほしくない箇所があるのかは、本人にしかわからないから。特別に親しい関係性を除いて、容姿に言及するということは、できることなら避けたい話題だと私は思っている。

そんなつもりはなかったとしても、相手が傷ついたならば、そこにはすでに、傷が存在する。納得いかなくても、自分ならば気にしない発言であっても、「その傷は存在しない」と、他者が判定を下すことはできないのだ。謝れなかったら謝らなくてもいいけれど、「そんなことで傷つくのはおかしい」とは、言ってはいけないと思う。傷ついたことすら否定してしまっては、傷をさらに深め、その人にとって、その言葉が呪いに変化してしまう可能性があるのだから。

そんな恐ろしい「容姿についての言及」の世界に、なぜか存在し続ける「肌荒れてるよ」。
もしかして、ただの感想なのか?
どうしてもわからない。

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Text:Mayu Matsuoka Logo Design:Haruka Saito Proofreader:Tomoko Uejima Edit:Mariko Kimbara

Profile

松岡茉優Mayu Matsuoka 俳優。1995年、東京都生まれ。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し、一躍名を馳せた。16年に映画『ちはやふる 下の句』、『猫なんかよんでもこない。』で第8回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞を受賞し、期待の若手俳優として注目を集める。18年、第42回日本アカデミー賞にて『勝手にふるえてろ』で優秀主演女優賞に、『万引き家族』で優秀助演女優賞に輝く。19年に『蜜蜂と遠雷』で、20年に『騙し絵の牙』でも同賞優秀主演女優賞を獲得。近年の出演作にテレビドラマ『初恋の悪魔』(日テレ系)映画『スクロール』『連続ドラマW フェンス』Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』ほか。23年は7月期の新土曜ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日テレ、7月より毎週土曜よる10時放送)、映画『愛にイナズマ』(秋公開予定)で主演を務めることが発表されている。

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