田中圭インタビュー「監督のひと声でスイッチが入るベックは、犬だけど“俳優”でした」 | Numero TOKYO
Interview / Post

田中圭インタビュー「監督のひと声でスイッチが入るベックは、犬だけど“俳優”でした」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.85は俳優の田中圭にインタビュー。



刑事、科学者、教師などあらゆる役を完璧に演じ、バラエティ番組への出演、音楽番組など幅広く活躍する俳優の田中圭。8月19日(金)に公開される『ハウ』では、気弱な主人公・赤西民夫役で出演。ワン!と鳴けない真っ白でモフモフの大型犬「ハウ」と出会い絆を深めていくが、ひょんなことから離れ離れに。ハウはさまざまな人との出会いと別れを経験し、大好きな民夫との再会のために旅をしていく。動物との初共演となった今作にどんな思いで臨んだのか。また、ハウ役の俳優犬・ベックとの交流、犬との暮らしについても聞いた。

「ハウ」を演じる、“俳優犬”ベックとの心のふれあい

──今作、動物との共演は初ですが、いかがでしたか。

「撮影中、ベックにはオンとオフの切り替えがあって、監督から『よーい』と声がかかった瞬間、明らかに雰囲気が変わるんです。これはもう俳優だな、と思いました。とはいえ、やっぱり大変な部分もあって。民夫とハウが目を合わせるシーンでは、なかなか目を合わせることが難しくて。それをドッグトレーナーの宮(忠臣)さんやスタッフさんがいろんな工夫をしてくださるんです。ベックは撮影に慣れているとはいえ、ワンちゃんなので集中力の限界もあるし、このタイミングでここに立ち止まってくれっていうのは難しいんです。台本を読むと、人間でも難しいようなことが当たり前に書いてあり、いざ撮影となるとやはり簡単じゃないわけです。ベックはもちろん、監督、スタッフ、宮さん、みなさんの力が集結して撮影できたことを知っているから、完成した作品を観て、本当にすごいと思いました。スクリーンに映っていたのはベックじゃなくて、ハウでしかなかった。本当にベックはすごいなっていう感動と、観終わったあとにこの多幸感に包まれる感じは何なんだと思いました」

──撮影には、どんな心構えで臨んだのでしょうか。

「ワンちゃんは好きなので、そんなに気負うこともなかったのですが、言葉は通じないので、俳優と芝居をするより折り合いをつける部分は出てくるだろうなとは思っていました。ただ、実際に芝居をしてみると、ベックに対して同志のような気持ちが生まれました」

──撮影前に、ベックとはどんなコミュニケーションを?

「初めは、頼むぞベックという感覚でした。この作品は、僕とベックが仲良くならないと始まらないから、他のスタッフさんはベックをあまり構わないようにして、僕とコミュニケーションを取るような環境にしてくれました。ベックはこれだけかわいいので、みなさん本当は一緒に遊びたかったと思います。ベックにとってはいつも一緒にいる宮さんやトレーナーさんの側にいる方が落ち着くだろうから、そのバランスを見ながら、僕がリードをもっても大丈夫そうな時は、現場まで一緒に移動したり。そうやって少しずつ距離を縮めていきました」

──ベックとの演技で印象的なことは?

「パワーが強いから階段を一緒に走るシーンで、少し気を抜いてしまうと引きずられそうになるんです。それに、突然、遊びたくなっちゃう瞬間もあって。ベックの体は大きいけど、撮影のときはまだ1歳4ヶ月で子供だったので、そりゃそうですよね。でも、監督のよーいの一声でスッと変わるんです。それを間近で見ていたので、すごく印象に残っています」

──思い出に残っているシーンはありますか?

「ハウが民夫を見つけて飛びついてくるシーンです。久しぶりに会ったので、ベックが僕を見つけるなり、こっちに来たがっていたので、急遽リハーサルなしで撮ることに。自分も、ちゃんとハウと呼ばなきゃと注意してたんですが、ベックがワーっと走ってきて、僕の横を思いっきりスルーして駆け抜けていって、あれ!? っていうことがありました(笑)」

──ちょっと寂しいですね(笑)。

「僕も、おい!って突っ込みました(笑)。さすがだと思ったのですが、ベックは人に飛びついたりしないんです。だから、今回だけはどうにか飛びついてくれるように、そのシーンもカット割りを計算しながら、いろんな工夫をこらしてどうにか撮影しました」

──犬童一心監督は、動物を撮った作品も多く、待ち時間も動物の気持ちを大事にされるそうですが。

「現場は、犬童監督の優しい人柄がそのまま出ているような雰囲気でしたし、作品をみてもそれを感じます。今回、監督とご一緒する機会をいただけてよかったと思います」

──今日の取材では、久しぶりにベックに会いましたがいかがでしたか。

「今日も、ベックのほうからコミュニケーションを取ろうとしてくれました。トレーナーの方がいないときでも、僕の言うことを聞いてくれたので嬉しかったです」

「ペットはちゃんと世話をしなくちゃダメだ!」

──本作は、東日本大震災の被災地のこと、地方都市のシャッター商店街などの社会問題を折り込みつつ、ハウと民夫、ハウと出会った人々とのコミュニケーションを描いています。監督からそれについてどのような話があったのでしょうか。

「この作品は、社会問題に対して何か提示するものではなく、あくまでエンタテインメント作品だと思うので、監督から僕へ改めて何か話があったわけではありません。僕も社会問題というよりも、民夫のことだけを考えて撮影していました。でも、ハウがワンと鳴けなくなった理由は、ひとつの社会問題のようなものですね。動物を飼う責任や思いやり、命とどう向き合うか、そういう視点で観ても考えさせられる作品だと思います。でも、まずはハウのかわいらしさとか、エンタメ作品として楽しんでもらえたら」

──劇中で、民夫は上司の鍋島(野間口徹)とその妻、麗子(渡辺真起子)によって、シェルターで保護されていたハウと出会いました。Numero TOKYO本誌でも2019年と2021年に動物をテーマに特集しています。これまで動物たちの現状に触れたことは?

「今、動物を飼っているわけではないので、あまり身近なことではないのですが、自分の周りにも保護猫を引き取っている友達がいます。だから、保護活動のことは知ってはいたけど、改めて撮影をすると、こういう活動がもうちょっと話題になればいいのにと思いました。僕もそうですけど、今、犬や猫を飼っていない人にとっては、普段の生活に関りがないので、知っていたとしても、ピンとこないかもしれません」

──以前は、犬を飼っていたんですか。

「生まれたときから実家にワンちゃんがいたんですけど、はっきり覚えているわけじゃなくて、写真を見ると、そういえばいたなというぐらいの記憶です。中学、高校の頃に飼っていた子は、散歩に連れていったり、一緒にペット雑誌の表紙を飾ったこともありました。楽しい思い出がたくさんあります」

──犬との暮らしから学んだことは?

「ちゃんと世話をしないとダメだということですね。可愛いと思うけど、今は簡単には飼えないです。ワンちゃんに生活を合わせなきゃいけないし、散歩に連れていかなかったら可哀想だから、毎日ちゃんと世話をする覚悟がないと。軽い気持ちでは飼えません」

──今作では、ペットとの別れも描かれていました。今、ペットロスで悲しんでいる方に、それを乗り越えるアドバイスをお願いします。

「民夫のセリフにもありますが、思い出は消えることもないし忘れることもないので、自分の心の戸棚に、ちゃんとしまえるかどうかだと思います。それには絶対、時間というものが必要なので、しばらくペットロスになってもしょうがない。ペットに限らず、自分にとって大切な、寄り添える存在がいなくなったら、そうなって当たり前です。それに、乗り越えるものでもないと思うんです」

──別れを自分が納得することが大切ということでしょうか。

「どんなふうにお別れしたかにもよりますけど、別れが悲しくて動物を飼えないでいる人もいるし、どこかのタイミングで新しいワンちゃんを迎える人もいますよね。新しいワンちゃんを飼ったからって、前のワンちゃんへの愛情がなくなったわけじゃない。ロスを乗り越える必要はないけれど、ずっと泣いていたら亡くなったワンちゃんも悲しむだろうから、その子に、もう心配ないよ、大丈夫だよと言えるように、自分自身で新しい生活やマインドを作っていくしかないです」

──犬と生活するには覚悟が必要だと言っていましたが、今、飼いたいという気持ちは?

「ずっと飼いたいと思っています。しかも今回ベックに会って、かわいいな、やっぱりいいなと思いました。今は何とも言えませんが、いつか飼いたいなと思っています」

『ハウ』

婚約者にフラれ、人生最悪な時を迎えていた市役所職員・赤西民夫(田中圭)。そんな民夫が、上司からの勧めで保護犬を飼うことに。「ハウッ」というかすれた声しか出せない犬を「ハウ」と名付け、いつしかかけがえのない存在に。しかし突然、ハウが姿を消す。アクシデントが重なり、ハウは青森まで運ばれてしまっていた……。

監督/犬童一心
原作/『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫)
脚本/斉藤ひろし、犬童一心
音楽/上野耕路
主題歌/GReeeeN「味方」(ユニバーサル ミュージック)
出演/田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真紀子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川美和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子
企画・プロデュース/小池賢太郎
プロデューサー/丸山文成 柳迫成彦
企画・製作プロダクション/ジョーカーフィルムズ
製作幹事/ハピネットファントム・スタジオ
東映 配給/東映
公式HP/haw-movie.com
公式Twitter&公式Instagram&公式TikTok:@haw_movie2022
配給:東映
2022年8月19日ロードショー

Photos: Ayako Masunaga Styling: Kei Shibata (tsujimanagement)  Hair & Makeup: SHIGE Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Sayaka Ito, Yukiko Shinto

衣装: Louis Vuitton

Profile

田中圭Kei Tanaka 1984年、東京都生まれ。2003年のドラマ『WATER BOYS』で山田孝之演じる主人公の親友として注目を集める。2008年公開の映画『凍える鏡』、2009年のドラマ『子育てプレイ』『ホームレス中学生2』で初主演を務める。2018年の『おっさんずラブ』に主演し、社会現象を巻き起こす。主な出演作に、『スマホを落としただけなのに』(18)『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』(19)『mellow』(20)『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』『総理の夫』『そして、バトンは渡された』『あなたの番です 劇場版』(21)『女子高生に殺されたい』(22)など。

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