仲野太賀インタビュー「留まらず行動することで、状況も大きく変化していく」 | Numero TOKYO
Interview / Post

仲野太賀インタビュー「留まらず行動することで、状況も大きく変化していく」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.84は俳優の仲野太賀にインタビュー。

俳優の松尾諭の自伝風エッセイ『拾われた男』を原作にした同名のドラマがDisney+で独占配信中だ。原作者の松尾諭自身がモデルとなっている、持ち前の人を惹きつける魅力と幸運で他人に“拾われる”ことで人生を切り拓く主人公・松戸諭を演じるのは仲野太賀。どこか厚かましく不器用、でもピュアで熱い──そんな人間臭い松戸諭を中心とした笑いあり涙ありのヒューマンドラマとどう向き合ったのか? プロ並みの腕前を持つカメラのこと、「ずっとそばにいて力をくれている」という好きな音楽のことも訊いた。

兄弟役として初共演。引き込まれた草彅剛の演技力

──『拾われた男』の脚本を読んだ時はどう思われましたか?

「松尾諭さんの自伝が原作になっていますけど、実は今まで松尾さんとあまり接点がなかったということもあって、松尾さんがドラマになるような人生を歩んでいることを知らなかったんです。『一体どんな話なんだろう?』ってワクワクしながら原作や脚本を読ませてもらったら、とても面白くて。松尾さんが、図々しさもありながら憎めない、なんだか愛さずにいられないキャラクターで。あと、俳優としてオーディションに落ちまくる日々にも共感しました。始まりはとてもミニマムな話なんですが、読み進めていくとお兄さんとの話が急カーブしていくような展開で、アメリカでのエピソードもあって、これはDisney+さんとNHK さんがあってこそ成立するドラマになるんだろうなと、クランクインがとても楽しみになりました」

──松戸諭を演じる上でこだわった点は?

「実際に何か面白いアクションを起こすっていうより、醸し出す雰囲気が面白いんです。その絶妙さをしっかり監督と話し合いながら演じていきました。変に図太いところだったり、すごく感動しぃだったり、そういう個性を大事にしていました。監督とよく話していたのは、原作は松尾諭さんの自伝に基づいているけど、見てくれる人が松戸諭に共感できるような、ちょうどよい塩梅のキャラクターをしっかり演じていこうということでしたね」

──お兄さん役の草彅剛さんをはじめ、錚々たる方々が出演されていますが、特に思い出深い出来事というと?

「いっぱいありますが、やっぱり草彅剛さんとご一緒できたのが特に心に残っていますね。子供の頃から見てきた大スターである草彅さんのお芝居の素敵さも知っているので、共演できることがとても楽しみで、いざ面と向かうとものすごく引きこまれました。今回約五カ月間、同じスタッフとほぼ毎日一緒にいたので、スタッフの空気感でそのお芝居がどうだったかがわかるんですよ。草彅さんががっつりお芝居に入っている時のスタッフの波動のゆらぎが、『キター!』『最高!!』っていう感じを物語っていて。僕も『…ですよね?』みたいな(笑)。本当に素敵なお芝居をされているので是非観てほしいです。草彅さんがお兄さんで本当に良かったなと思います」

──諭は縁と運を味方につけて駆け上がっていきますが、縁と運を味方につけるために仲野さん自身が大切にしていることはありますか?

「確信を突けるような答えは出せないけど、もしあるとするんだったら、現状に留まらず行動することが大事だと思います。松尾さんご自身も僕自身も『こうでありたい』『ああなりたい』っていうことにすごく貪欲だし、いろんなものを嗅ぎ付けて、いろんな人と会ったり挑戦してみたり、そういう一個一個の積み重ねで何かを引き寄せているのかなと思いますね」

──先ほどオーディションを受ける日々に共感したとおっしゃってましたが、どんなことを思い出しましたか?

「初めて映画に出た時に、自分が憧れていた世界は決して遠い世界ではなく繋がっているんだなあって思ったんです。全然仕事がなくて自分の俳優人生はもうダメかもしれないと思った時に、セリフが少ない役ではあるけれど、仕事のオファーがあったり。今思えば本当に些細なことかもしれないけど、そういう時に声をかけられることって、『ここにいていいんだよ』って言ってもらえるような、自分の存在を証明してもらえるような気持ちになるんですよ。お仕事がないと、果たして自分は俳優をやっていると言えるのだろうかって思うことが山ほどあるから。僕の場合、例え小さな役だとしても、どこかで必ず繋がるっていうことが継続してるんですよね。オーディションを受けてセリフ一言の役が受かって、10年後にその時のスタッフさんが大きな役で呼んでくれることもある。一個一個を懸命にやることでしかないような気がしています」

自分が見た景色を他の人にも届けたい

──役者という仕事の魔力みたいなものも描かれていますが、仲野さん自身はそれをどう捉えてらっしゃいますか?

「僕の場合、まず他には何もできない人間であるっていうのが第一にあると思います。それ以外でいうと、僕はそもそも映画やドラマや舞台っていうエンターテインメントが大好きなんですよね。10代、思春期の頃からそれに虜になっている自分が今も変わらずにいて。それがすべてのような気がします。自分が受け取り手っていう認識がずっと揺らがないので、自分がいろんな作品を観て感動して、いろんなものをもらって、見える景色が何かしら変わっていくような体験を他の人にも届けたいっていう想いがあるんです。とにかく感動しぃなんですよね。だから、ちょっとでも素敵な映画やドラマを作りたいとか、もっといい芝居がしたいっていう気持ちにずっと突き動かされている気がします」

──ご自身が出てる作品と出てない作品だと、観る際の心構えって変わってくると思うんですけど、出ている作品でもピュアに楽しめるものなんですか?

「確かに変わってはきますね。でも僕は、撮り終わったものに対してネガティブな気持ちになることが基本ないんですよね。キャストやスタッフみんな、大変な思いをしながら一生懸命作った作品なので、そのすべてがつながっていく瞬間を見るのは素直に楽しいです。『あの時のあれはこうなったんだな』とか『ああいうことあったな』とか思い出しながら観るんですけど、当然『今の芝居、もうちょっとああしておけば良かったな』って思うこともあります。でも、それも含めてワクワクしながら観ていることが多いんです」

──『拾われた男』はアメリカでの撮影もあったそうですが、どんな経験になりましたか?

「約三週間ぐらいアメリカで撮影させてもらいました。英語でお芝居をする機会もあって、それも自分にとっては挑戦でしたし、とても楽しかったんです。拙い英語だけど、僕のお芝居を見て、現地のスタッフも日本のスタッフも笑ってくれる状況が嬉しくて。言語は違えど、お芝居を通して繋がることができるんだと思ったし、もっと英語でお芝居してみたいなと思いました。さっき、初めて映画に出た時に自分と向こう側が繋がった感覚を覚えたと言いましたけど、その感覚にも近かったんですよね。配信が主流の時代になって、世界中の人に気軽に自分が出てる作品を観てもらえる機会が増えた。国境を飛び越えてお芝居ができる可能性はゼロじゃない気がして、志が高くなりました」

──アメリカでプライベートの時間はありましたか?

「ありました。草彅さんやスタッフの方何人かで食事に行きましたね。僕はカメラが趣味なんですが、草彅さんを見ていると『撮りたい!』っていう気持ちに駆り立てられちゃって、『もしかしたら何かに使わせてもらうかもしれないので、撮っていいですか?』って頼み込んだら、『ああ、いいよいいよー』って言ってくださって、撮らせてもらいました」

──仲野さんがシャッターを押したいと思う瞬間って言語化するとどういうものなんでしょう?

「好奇心に近い気がするけど、もっと知りたいみたいなところなのかな。『その相手にもっと触れたい』みたいな。だから、実際会った人じゃないと撮りたいと思わないんですよね。そのザワザワ感って心と繋がってる感じでわかりやすく言語化できないんですけど、しっかりドキドキしてはいますね」

──カメラはいつも持っているというより予定を立てて撮りに行かれるそうですが、オフの日も何をやるかしっかり決め込むタイプですか?

「そうですね。一日動ける日があると予定を練るかもしれないです。最近は一人で箱根に行ってきました。行きたい温泉があって、それを目的に朝出発したんですけど、その温泉がやってなかったんです。『え!!』って思ってずっこけましたね(笑)。それで、作品のクランクイン前だったので、箱根神社に行ってお参りして、最近瞑想にハマってるんで、芦ノ湖のほとりで瞑想をして…(笑)。せっかくだから一泊して、その旅は終わりましたね」

音楽が強い力になっている人生

──仲野さんというと音楽好きとしても知られていますが、最近よく聴いてるアーティストというと?

「この前出た坂本慎太郎さんの新譜の『物語のように』がめちゃくちゃ良くてヘビロテしてますね。ゆらゆら帝国もすごく好きで、高校生の時のメールアドレスはゆら帝の曲名の『午前3時のファズギター』でした(笑)解散する前にライブにもギリギリ行けたんです」

──音楽はどんな存在ですか?

「音楽が強い力になっている人生だと思いますね。ずっとすぐそばにある感じがします。人生に炎を灯してくれたのが銀杏BOYZで、いろんなことを教えてくれたのがくるりで、音楽の楽しみ方を体感させてくれたのがNUMBER GIRLとかZAZEN BOYSとかゆらゆら帝国っていう感じがしています。我ながら今の発言は良い流れでしたね(笑)」

──はい、すごくわかりやすかったです(笑)。例えば、銀杏BOYZだと一番思い出深い曲は?

「やっぱり『BABY BABY』かな。ずっとそうなんですよね。めちゃめちゃ聴いてます。あのイントロのギターを聴くだけで、無条件で沸き上がってくるものがあるっていうか、形容し難いエモーショナルな感覚に襲われるっていうか。思春期真っ盛りの時に出会った曲っていうのも大きいかもしれないです。その感覚がずっと色濃く残っている感じがします。聴くと絶対に元気が出ますね。そういえば、3日前ぐらいにカラオケに行って『BABY BABY』をみんなで歌いました(笑)。めちゃくちゃ盛り上がるんですよね」

──(笑)同世代のお友達が多いイメージですけど、「BABY BABY」以外だとどんな曲で盛り上がりますか?

「ウルフルズの『笑えれば』で大合唱した記憶があります。『さすらい』(奥田民生)も歌いますね。めっちゃ盛り上がりますね。僕は割と盛り上げ役に徹しているんですけど、女の子がいる時はきのこ帝国の『クロノスタシス』でデュエットをします。映画「花束みたいな恋をした」みたいなことをしています(笑)」

──ライブも結構行かれてますよね?

「ライブに行くのは好きですね。さっきの話にも通じますけど、自分自身も表現者ではあるけど、リスナーっていう意識が強いのでフロアでみんなで一体化したいんです。音楽に限らず、なるべく現場に行きたい現場主義なタイプですね」

売れない役者だった諭が、航空券を“拾い”、“拾われた”ことから繋がり始めたたくさんの人々との“縁”。芸能界で大活躍している“本人役”キャストも加わり、これは実話なのか?!フィクションなのか?!笑いあり涙ありのヒューマンドラマの真相に期待が高まる。『拾われた男』 は、ディズニープラス「スター」で全10話、毎週日曜日23時に見放題独占配信中。

『拾われた男』
原作/松尾諭著「拾われた男」(文藝春秋刊)
監督/井上剛
脚本/足立紳
音楽監督・音楽/岩崎太整
出演/仲野太賀、草彅剛、伊藤沙莉、薬師丸ひろ子、鈴木杏、風間杜夫、石野真子
制作・著作/ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社/株式会社NHKエンタープライズ
配信/『拾われた男』ディズニープラス「スター」にて毎週日曜日23時に見放題独占配信中
©️2022 Disney & NHK Enterprises, Inc.
https://www.disneyplus.com/ja-jp

ラグビーシャツ¥50,600(COMOLI/ワグ インク 03-5791-1501) パンツ¥49,500(08sircus/08ブック 03-5329-0801) シューズ¥107,800(F.LLI Giacometti/ウィリー 03-5458-7200)Tシャツ/私物

Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Naomi Sakai

Profile

仲野太賀Taiga Nakano 1993年、東京都出身。2006年に俳優デビュー。『淵に立つ』(16)で第38回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞受賞。主な出演映画に『南瓜とマヨネーズ』(18)、『タロウのバカ』(19)、『今日から俺は!! 劇場版』『生きちゃった』『泣く子はいねぇが』(すべて20)、『すばらしき世界』 (21)など。映画『ぜんぶ、ボクのせい』が8月11日(木・祝)より公開予定。『LOVE』のジャケット写真を撮影するなど、写真家としても活躍中。

Magazine

JUNE 2024 N°177

2024.4.26 発売

One and Only

ROLA SPECIAL

オンライン書店で購入する