窪田正孝インタビュー「結婚して自分の選択に責任を持つようになった。食の意識も変わり、ボクシングも始めて20代より健康的に」 | Numero TOKYO
Interview / Post

窪田正孝インタビュー「結婚して自分の選択に責任を持つようになった。食の意識も変わり、ボクシングも始めて20代より健康的に」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.80は俳優の窪田正孝にインタビュー。

若い世代の政治意識への高まりが叫ばれている中、現実にありそうでなさそうなポリティカルコメディ『決戦は日曜日』が公開される。衆議院議員の川島が病に倒れた矢先、解散総選挙が行われることになった。そこで、政治のことは何も知らない有美(宮沢りえ)が地盤を引き継いで出馬することに。川島の私設秘書で事なかれ主義の谷村がサポートするも、熱意が空回りする有美に翻弄される。政治の現実を知り、どこか冷めている谷村を演じるのは俳優の窪田正孝。コメディでありながら、メッセージ性の高い作品に出演を決めた理由、最近のプライベートについて聞いた。

見たことがない新しい宮沢りえに、隣でワクワクしていた撮影期間

──坂下監督から、熱烈なオファーがあったそうですが、出演の決め手は? 「監督の前作『ピンカートンに会いにいく』を観たときに、日常を上手に描く方だなという印象があって、いつかご一緒したいと思っていたんです。それでオファーをいただいて、脚本を読んだらセリフの量が膨大だったんですが(笑)、政治の世界、選挙の裏側を秘書の視点で描いているのが面白いなと。ただ、実際、撮影現場に入ったら、とても言葉が少ない監督で、細かい演出もなかったんです。前作で主演を務めた内田慈さんから、監督の情報を仕入れていたんです。とにかく、謎めいていましたね。ひとりでセットの選挙看板を眺めながら、考え込んでいる姿が印象的でした」 ──窪田さんが演じる谷村は、どこか冷めている現実主義というキャラクターでした。 「谷村が秘書を始めた頃は、夢や希望もあったんでしょうけど、どの世界も表があれば裏があり、全て見てしまったことでそれが砕け散ったんだと思います。本当は正義感が強い人だったのかもしれない。反対に、赤楚(衛二)くんが演じる新人秘書の岩渕は、最初から長いものには巻かれておこうという精神で、それは『さとり世代』代表というか。僕が演じる谷村はその少し前の世代で、秘書としても中堅だから、いろんなものの板挟みになって、何かが壊れてしまったんでしょうね。夢や理想は心の中にしまって現実を受け入れてきた人物が、情熱だけはある川島有美と出会い、少しずつ変化します」

──有美役の宮沢りえさんとは初共演でしたが。

「りえさんとはずっと共演したかったんです。川島有美をりえさんが演じられることを知り、とてもうれしかったです。有美は大人だけどすごく可愛らしくて、まっさらで何にも染まっていない。それをりえさんはどんな表情で演じるんだろう、どんな動き方をするんだろうと、秘書として見守った撮影期間は、ずっと楽しかったです。りえさんには、自然と守りたいと思ってしまう魅力がありますよね。りえさんが有美だから、自分も演技の振り幅を大きく出せたんじゃないかなと思います。俳優としてもひとりの人間としても尊敬しています」

──宮沢りえさんとのシーンで、特に印象に残ったことは?

「有美を屋上から突き落とすシーンがあるんです。もちろん安全面を考慮してハーネスを着用した撮影で、スタッフさんも何度も確認していたんです。りえさんは助監督さんと以前も現場が一緒で仲が良いらしくて、『ワイヤーをちゃんと持ってて』と何度も確認されていて。ちゃんとロックもされているし、絶対に大丈夫なんですよ(笑)。それから、屋上から叫ぶシーン、車の中で出発の掛け声をかけるシーン、すべての仕草が素敵でした。きっと作品を観た皆さんそう感じるでしょうけど、こんな宮沢りえさんの姿を初めて見ると思います。世の中、思っていることを口にできないこともあるし、正しさを貫いて生きるのは大変だけど、それを実行していく有美の姿がこの作品の見どころだと思うし、思わず笑っちゃう瞬間もたくさんあります」

──秘書チームの赤楚衛二さん、内田慈さん、小市慢太郎さん、音尾琢真さんたちとの息もぴったりでした。

「撮影期間は17日と短かったけれど、秘書チームは一致団結していました。監督が最初から全部想定してキャスティングしているから、それぞれのキャラクターが明確だし、音尾さんと小市さんが率先して自然な雰囲気を作ってくれたので、緊張することなく、そこに生きる人のように自然にセリフが出てきました。だから、ほとんどやり直しもなく撮影も早めに終わって。やっぱり早めに帰れるのはうれしいんですよ。それも含めて楽しい現場でした(笑)。とにかくキャストの皆さんが魅力的なので、化学反応を楽しんでいただけたらうれしいです」

20代より健康的に。食の意識が変わり、ボクシングでジムに通う日々

──作中で、有美が正義感を持ち続けるように、何か貫き通していることはありますか?

「なんだろう……。毎日欠かさないのは、朝、起きたら、観葉植物に水をあげること。そういうことじゃないか(笑)。何かを貫くというより、20代までは、敷いてもらったレールの上をひたすら一生懸命走っていて、選択することに対して無自覚だったんです。30代に入ってから、自分の選択に責任をもつようになりました。どこで何をするのか、自分でちゃんと決めないといけない。それは変化したことかな」

──考え方が変わったきっかけは?

「結婚です。誰かを通して新しいものを知ることってありますよね。アドバイスされてそれに従うというより、それいいな、自分も取り入れようという判断もひとつの自分の選択です。そこに自覚的になったし、そういう気持ちを素直に認められるようになりました」

──作中で谷村は最初、淡々と秘書業務をこなしていましたが、有美と出会い再び情熱を取り戻します。窪田さんはプライベートで、熱くなることはありますか?

「ボクシングです。映画をきっかけに、ボクシングトレーナーの松浦慎一郎さんと親しくなってジムに通っています。時間があるなら週6でも行きたいくらい。これまでスポーツはいくつか経験したんですが、ここまでハマったのは初めてです。機会があればライセンスも取りたいけど、あくまで趣味に留めておかないと。スパーリングをすると、簡単に歯が取れたりするんですよ」

──ボクシングの魅力とは?

「まず、身体の変化が自分でわかること。シャドーボクシングならどこでもできるし、体力がつきます。自分の身体と会話できるようにになった気がします。疲れているとか、今日は調子が悪いなとか、意識が身体の奥まで届くようになりました。何かあったときに、自分や誰かを守ることもできるし、自分に自信がつきます。それにボクシングはスポーツとしてはすごくシンプル。闘拳と書いてボクシングなんですが、そこに美学を感じています」

──30代になり、身体を鍛えなくてはという気持ちはあったんですか。

「どうですかね。あまり年齢を気にしたことはないけど、20代の頃より今の方が体調はいいんです。食べるものの質が変わったからかな。以前はお腹に入れば全部一緒だと思っていたんですが、やっぱりそんなことはなくて(笑)。お酒も全く飲めなかったんですが、ご飯を食べながら少し呑むようになってから、美味しさがわかるようになりましたね」

──好きな料理は?

「少し前まで、七輪にハマっていました。炭火で炙るとなんでも美味しいんですよ。ししゃもでも野菜でも、七輪で焼くとお店のような味になる。それを醤油麹で食べて、熱燗をつけると本当においしい」

──お腹に入ればなんでも、というところからすごい変化ですね。

「自分が一番、驚いています(笑)」

『決戦は日曜日』

とある地方都市。谷村勉(窪田正孝)はこの地に強い地盤を持ち当選を続ける衆議院議員・川島昌平の私設秘書。ある日、川島が病に倒れ、後継候補として白羽の矢が立ったのが川島の娘・有美(宮沢りえ)。谷村は有美の補佐役として業務にあたることになったが、自由奔放、世間知らず、だけど謎の熱意だけはある有美に振り回される日々。よほどのことがない限り当選は確実だったのだが、政界に蔓延る古くからの慣習に納得できない有美はある行動を起こす――それは選挙に落ちること!前代未聞の選挙戦の行方は?

脚本・監督:坂下雄一郎
出演:窪田正孝 宮沢りえ 赤楚衛二 内田慈 小市慢太郎 音尾琢真 
製作:「決戦は日曜日」製作委員会 
制作:パイプライン 
配給:クロックワークス
Ⓒ2021「決戦は日曜日」製作委員会 
公式HP:https://kessen-movie.com

Photos: Takao Iwasawa Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

窪田正孝Masataka Kubota 1988年8月6日生まれ、神奈川県出身。2006年に俳優デビュー。08年「ケータイ捜査官7」でシリーズ監督をつとめていた三池崇史と出会い主演に抜擢される。以降、TVドラマ、映画などを主に幅広く活躍。12年『ふがいない僕は空を見た』などで第34回ヨコハマ映画祭新人賞、第27回高崎映画祭で最優秀助演男優賞を受賞。主演を務めた『初恋』(20)は第72回カンヌ国際映画祭監督週間に正式出品され、世界中の映画祭で喝采を浴びた。20年にはNHK連続テレビ小説「エール」にて主演を務め、第45回エランドール賞新人賞を受賞。主な映画出演作に、『MARS~ただ、君を愛してる~』(16)『東京喰種 トーキョーグール』シリーズ(17・19)、『犬猿』(18)、『Diner ダイナー』(19)、『ファンシー』(20)など多数。2022年は『ある男』、『劇場版ラジエーションハウス』などの公開が控えている。

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