清水尋也インタビュー「理屈よりも感情を尊重したい」
旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.78は俳優の清水尋也にインタビュー。
ミドルティーンの時に出演した映画『渇き。』や『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』で鮮烈な印象を与え、順調にキャリアを重ねてきた清水尋也。2021年も映画『東京リベンジャーズ』やNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』といった作品で強い存在感を放ち、劇場アニメ『映画大好きポンポさん』では声優初挑戦で主演を務めた。清水が虚無感や孤独感を抱えながら東京でノマド生活を送る大森慎吾を演じているのが、映像クリエイター・丸山健志の初長編映画『スパゲティコード・ラブ』だ。慎吾をはじめ、13人の若者たちの物語が交錯する新時代の青春群像劇について、そして、生きていく上でのマインドにおけるルーツだというストリートカルチャーについても聞いた。
“執着しないで、そのときやりたいことをやる人でありたい”
──『スパゲティコード・ラブ』で清水さんが演じた大森慎吾は、東京に生きる現代の若者ならではの孤独感や空虚さを持ちながらノマド生活を送っています。演じる上で意識した点は?
「僕も東京で育って、19、20歳くらいのときに得体の知れない虚無感や焦燥感を持ったことは少なからずあったんです。だからそういう状態をなるべくリアルに伝えたいなと思って、孤独感を悲劇的に表すのではなく、生っぽい温度感で届けるような芝居を意識しました」
──ノマド生活についてはどんな印象を持ちましたか?
「野宿とかは嫌ですけど、おもしろそうだなって思いました。いろんな場所に行くのは好きだし。役者の仕事は毎日違う場所に行って、毎日違う方とお会いするようなところが肌に合っていて。僕は毎日同じ時間に起きて同じ電車に乗って同じ場所に行く学校が苦手なタイプだったんです。でも、住所がないならネットショッピングの配達とかどうするんだろうとか(笑)、いろんな心配はしました」
──慎吾がノマド生活を送るのは「執着をなくすため」だと劇中で明かしていますが、それについてはどんなことを考えますか?
「慎吾は執着をすることで生じるマイナスを避けるためにノマド生活を送っていて。リスクヘッジのために執着をしないわけですけど、僕の場合、執着をしないことはプラスの意味合いが強いです。
いま僕がやりたいことはこの仕事ですが、例えば『10年後までにこれをやろう』っていうことを考えないようにしていて。それを考えてしまうと、『じゃあそのためには5年後までにはこれをしていなきゃいけないし、来年はこれをしていなきゃいけない』っていうふうに10年間のプロセスが全部決まってしまう。『これをやらないといけない』ってなるのが嫌なんです。人に命令されるのも嫌い(笑)。
もちろん、いま好きでやっている仕事に対して、役作りでやらなきゃいけないことをやるのは何の苦もないです。基本的には自由にやらせてもらってますし。ただ、仕事でもプライベートでも、なるべく何かに執着しないで、そのときにやりたいことをやろうって思ってます」
──慎吾は何かと理屈を口にするキャラクターでもあります。そこに共感する部分はありましたか?
「慎吾は孤独感だったりを理屈にすることで無理やり腑に落とそうとしているところもあると思うんです。自分はそういうタイプではないですけど、人間ってそういう一面もあるよなっていうのは感じたし、寄り添えた部分です。
でも人間の感情って理屈じゃ語り切れない部分もありますよね。僕自身は、基本的に理屈より感情を尊重したいと思っています。人間って感情を言葉で表現することに長けてる生物で。それが故におもしろいし、面倒くさいんだと思うんですよ。感情があるところが人間の良いところでもあり悪いところでもある。
理屈じゃ効かない部分って、特に恋愛で出てくると思うんですけど、『理屈で言ったらこうなんだけど、相手が求めてるのは多分そうじゃないんだろうな』みたいなこともあるし。他の人がやっていたら『え?』って思うようなことでも好きな人だったらかわいく思えたりもする。結局感情、特に愛情が重要だと思うんですよね。僕がこの仕事をやってるのも愛情があるからだし、友達と一緒にいるのもその友達が好きだからなわけで」
──13人の登場人物はそれぞれ悩みを抱えていますが、清水さん自身は悩んだ時はどうやって解消しますか?
「僕、仕事のことも悩まないし、プライベートでも悩まないんです。面倒くさがりだからかもしれないですけど(笑)。嫌なものは嫌だってその場ですぐに言いますし。周りの人にも僕の嫌なことに対して我慢してほしくないので、同じように言ってくれる人としか一緒にいられなくて。
例えば相手とケンカしたとして、どちらかが『とりあえずここは自分が謝っておけばいいか』って謝ったとしても、結局問題は解決してないからまた同じようなことでケンカが起きたりする。
時間がかかってもいいから、とことん話し合って消化することでより良い関係になると思っています。だから何かあっても、そんな気の置けない友達と遊んで疲れて寝たらどうでもよくなってることが多いです」
“芝居は、どんどん分岐点が広がっていく瞬間がおもしろい”
──例えば、現場で全く違う価値観の人と出会ったという経験はありますか?
「海外で制作した『アウトサイダー』っていうNetflix映画に出させてもらったんですけど、主演がジャレッド・レトで。彼は撮影期間中ずっと、『ジャレッド』って呼んでも反応しないんです。役名の『ニック』って呼ぶと『何?』って答えてくれる。何度か『ジャレッド』で振り向かせようと試みたんですけど、やっぱりダメでした(笑)。周りも『あいつはもうニックだから』みたいな。プライベートの時間もどっぷり役に捧げていました。それは自分とは全然違うアプローチだったのでびっくりしました(笑)」
──約10年間、いろんな役を演じられてきて、仕事の楽しさはどう変化していますか?
「あまり変わらないかもしれないです。もちろん、最初の頃よりはこの仕事で生活させてもらっているんだという自覚が強くなったので、いただいた役は毎回全力で演じないといけないという意識は増しましたが、『楽しい』っていう本質はずっと変わってないですね。やっぱり映像を作るのが好きだし、演じるのが好きだし、毎回現場に立つとワクワクします」
──一番楽しい瞬間はいつですか?
「カメラの前に立って芝居してる瞬間と、完成した作品を見た瞬間ですね。突拍子もないところでとんでもない化学反応が起きるときもあるし、今の芝居はもう二度と同じようにはできないと思うときもある。そういうときはゾワッとして『わあ、いいなあ』って。
基本的には毎回違う人とご一緒して、お話ししてセッションしてお芝居していくのが楽しいっていう感覚がずっとあります。自分がどれだけいろんなパターンをやったとしても、他の人と噛み合ってなければ成立しなかったりもする。それで、『こう来るんだったらこうしてみようかな』とか、自分の中でどんどん分岐点が広がっていく瞬間もおもしろい。
僕が映像を好きなのは、いつどこで誰が見てもいい、そういう普遍的な美しさなんですよね。いま作ってる映画やドラマが5年、10年先もずっとおもしろい作品だって思ってもらえればいいな、そういう作品にしたいなと思っていつも参加していて、そのための試行錯誤を反復するのがすごく心地いいんです。
実際に完成して観てみたら全然違う方向に仕上がっていたり、自分がどう頑張ってもカットされてるときもあるし、 でもそれによってすごく良い方向に転がっているときもあるし。演じている段階ではどうなるかわからない部分があるのも好きなところかもしれないです」
“肌に合うのは生々しい感情を歌にしているヒップホップ”
──オンとオフをはっきり切り分けられるタイプだそうですが、最近オフは何をすることが多いですか?
「前と変わらず友達と遊びに行くのが多いですね。洋服を買いに行ったり、お茶したりごはん食べたり。あてもなくふらふらとどこかに出かけることもあるし。たまに車を借りてちょっと遠くに行ったりもします。その時々によって結構バラバラかもしれないです」
──趣味ではラップもやられているとか。いつか私たちも清水さんのラップを聞けるときが来るのでしょうか?
「中学生の時にRくん(R-指定)を見てフリースタイルラップを知ったんです。それで、いまでは周りに音楽をやってる友人も多いので、一緒に曲を作ったりもしてます。
好きなラッパーのライブに行くといろんな知り合いのラッパーが遊びに来てて、そこでつながりができて仲良くなることもあって。頻繁に連絡を取り合って遊ぶっていうより、誰かのライブに行けば誰かしらいるみたいな感じですね。
でも近くにプロがいるからこそ下手なものは出せないので、自分が納得できるレベルのものができたら、聞いてもらえる機会があればいいなとは思いますけど、まだまだですね(笑)」
──ほぼ同世代のLEXさんとも交流があるんですよね。
「LEXはすごすぎて、ちょっと化けものですよね(笑)。何回か遊んだことがあるんですが、いい子でかわいいです。元々共通の知り合いがいて。同じ場所にいたときに、直接の知り合いではないので最初は特に話しかけなかったんです。そうしたら向こうが僕に気付いてくれたのか、『清水尋也くんですよね? 挨拶遅れちゃってすいません』って言ってきてくれて、『いや、全然大丈夫ですよ!』みたいな。すごく礼儀正しい子でした。
僕もよく曲を聴くし、ティーンの代弁者として絶大な人気を誇っていてすごいですよね。単なる1人のリスナーとしての感想ですけど、これからもっと世界で活躍していくんだろうなと思います」
──同世代の活躍は刺激になりますか?
「なりますね。でも海外のラッパーとか、同世代でもとんでもないですからね。『21歳なの?』みたいなのいっぱいいますし。ずっとすごい年上だと思ってたら同い年で、たくさんの札束持って写真写ってて『次元違うじゃん』って。もう慣れましたけどね。トリッピー・レッドが同じ歳で、イアン・ディオールが1個上なんで、その辺は同世代なんです。トゥエンティー・フォー・ケー・ゴールデン(24kGoldn)とかリル・パンプが年下って知った時点で、もうなんか『はあ……』みたいな気分になりました(笑)」
──(笑)。ご自身の好きなカルチャーからはどういう影響を受けましたか?
「中学の時からずっとヒップホップを聴いてて、ストリート育ちではないけど、ストリートカルチャーはずっと好きなので、生きていく上でのマインドの根っこの部分に影響を受けていると思います。ルーツですね。何にでも噛みつくのは違うと思いますけど、思ったことはちゃんと言いたい。フィクションを歌った曲の良さもあると思うんですけど、僕の肌に合っているのは生々しい感情を歌にしているヒップホップの曲なんです」
──ご自分の気持ちに特にリアルに刺さった曲というと?
「僕が一番好きなアーティストは変態紳士クラブなんですけど、彼らの『すきにやる』っていう曲は、リリースされた当初からずっと聴いていて教訓にしているところはあります。曲を好きになった後に友達になったんですけど、いまでは交流があるからこそ曲の中でも嘘をついてないのも知っていて。そんな彼らと一緒にいるとやっぱり元気をもらえる。それもあって僕にとってずっと大事な曲ですね」
『スパゲティコード・ラブ』
フードデリバリー配達員、シンガーソングライター、広告クリエイター、カメラマン……。東京でもがく13人の若者たちの日常を追った群像劇。解読困難なほど複雑に絡み合ったプログラミングコードを意味する「スパゲティ・コード」のようにこんがらがった彼らのドラマは、リアルタイムに更新され、解きほぐされ、やがて一本の線へと変化していく。誰かとつながりたくて、夢を諦められなくて、この街のどこかに居場所を探している。飾り立てた“キャラクター”とは違う、本当の自分がここにいる。
監督/丸山健志
脚本/蛭田直美
撮影/神戸千木
出演/倉悠貴、三浦透子、清水尋也、八木莉可子、古畑新之、青木柚、xiangyu、香川沙耶、上大迫祐希、三谷麟太郎、佐藤睦、ゆりやんレトリィバァ、土村芳
製作/All Of Creation
制作プロダクション/PYRAMID FILM
配給・宣伝/ハピネットファントム・スタジオ
©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会
11月26日(金)よりホワイト シネクイントほか全国公開
happinet-phantom.com/spaghetticodelove
ジャケット¥522,500 パンツ¥121,000/ともにBottega Veneta(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン 0120-60-1966)その他スタイリスト私物
Photos:Takao Iwasawa Styiling:Shohei Kashima(W) Hair & Makeup:TAKAI Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara