柳楽優弥インタビュー「失敗をしても前を向いて、努力を続けるのが天才なのかもしれない」 | Numero TOKYO
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柳楽優弥インタビュー「失敗をしても前を向いて、努力を続けるのが天才なのかもしれない」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.67は俳優の柳楽優弥にインタビュー。

浮世絵師・葛飾北斎。代表作である「冨嶽三十六景」は、日本国パスポートの査証ページや、2024年からの新千円札の図案に採用されるなど、まさに日本を代表するアーティスト。しかし、青年期の北斎に関する資料はほとんど残されておらず謎に包まれていた。それを、独自の視点と解釈によるオリジナル脚本で大胆に描いたのが、2021年5月28日公開の映画『HOKUSAI』だ。葛飾北斎の青年期を演じた柳楽優弥に彼が感じた北斎像と、今年30歳を迎える心境について聞いた。

努力して成功を掴み取る物語が好き

──葛飾北斎の名前はあまりにも有名ですが、青年期については謎の多い人物なんですね。

「青年期は有名人ではなかったから、資料がほとんど残されていないんです。よく引越しが多かったと言われますが、当時は色っぽい美人画も描いていたから幕府から逃げていたのかなとか、いろんなふうに想像できます。青年期の北斎は、喜多川歌麿や東洲斎写楽という、自分よりも絵が上手い人を目の当たりにして、苦悩して挫折しながらも這い上がっていくという人物として演じました。僕はそういうまっすぐな人物が好きなので、すごく共感したし、観てくださる方にも気に入っていただけたら嬉しいです」

──北斎というと孤高の天才というイメージがあったので、歌麿への憧れや、写楽に対する嫉妬はとても人間味を感じました。

「僕は特殊な才能を持った天才より、努力していく中で少しずつ評価を得ていく人物が好きなんです。今回も、苦心しながら這い上がっていく北斎像を意識しました」

──柳楽さんといえば、映画『誰も知らない』で第57回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を史上最年少で獲得し、天才と呼ばれましたが。

「うーん。天才ってなんでしょうね。スポーツ選手でもアーティストでも、長く活躍されている方は、ビギナーズラックということではなく、ひとつのことをずっと好きで努力を重ねて、その結果、評価がついてくる。それが天才なのかなと思います」

──今作の北斎には、柳楽さんのこれまでのキャリアや人生観も少なからず反映されているんでしょうか。

「僕自身、器用に立ち回れるタイプじゃないから、天才より努力して勝ち取っていく人物の方が好きということもあります。ラッセル・クロウ主演の『シンデレラマン』という映画があるんですけど、それも努力で勝利を掴みとるサクセスストーリーです。今作の北斎も、ある意味、がむしゃらに頑張って掴み取っていく人間なので、自分の理想像が反映されているのかもしれません」

風景画を始めるには、一線を越える何かがあったはず

──今作では、北斎が人物画から風景画に変わるきっかけが描かれています。

「歌麿に憧れて頑張っても手が届かず、もがいている間に写楽が登場して売れっ子になり、北斎はズタボロになって放浪の旅に出るシーンですね」

──フラフラと海に入っていくという絶望的なシーンですが、海の中で何かを見つけて砂浜に這い上がり、一心不乱に砂浜に絵を描く表情の変化に感動しました。

「以前、ホアキン・フェニックスの映画の予告編で、ホアキンが海中に漂う映像を観たんです。それを思い出して、監督に海から撮りましょうと提案したら、海中カメラを用意してくれました。人物を描いていた北斎が、風景を描くようになった理由は、史実に残されていないのですが、きっと自分の中で、何か一線を越えるものがあったと思うんです。これは、僕らが考えたひとつの説なんですけど、北斎が海に入っていく時、もしかしたら、人生を諦めるくらいの思いがあったのかもしれません。でも、海で何か掴んで で砂浜に描くけれど、どんどん波に消されていく。そういう姿がいいんじゃないかと監督に提案しました」

──挫折してもがいて苦しんで。その先に、世界中で名を轟かせる北斎があるんだと思うと、自分ももう少しがんばってみようと思いました。

「夢がありますよね。僕も応援してくださる方がいるので、気持ちを強くもって一つひとつ取り組んでいきたいと思っています。この映画を観てくださった方も、失敗しても成功の素だと思えるくらいの強さを感じて、前向きな気持ちになってくれたら嬉しいです。僕もいつか北斎のようなスーパースターになりたいです(笑)」

一汁一菜の朝ごはん作りが毎日の楽しみ

──プライベートで熱中していることはありますか。

「今、朝ごはんを自分で作っています。一汁一菜で、みそ汁、だし巻き卵、漬物とごはんくらいなんですけど、飯碗にごはんをよそった瞬間、テンションが上がりますね。『松山あげ』にもハマっていて、スタイリストさんに教えてもらった『奇跡の味噌』でみそ汁を作るんですけど、それがもう美味しくて。うちの冷蔵庫には、スタイリストさんおすすめの食材がたくさん入っています(笑)」

──お気に入りのメニューは?

「みそ汁は、季節の野菜と松山揚げ、奇跡の味噌。あと、白米は必ず。ごはんは日本のパワーフードですよ。茹で卵を潰してマヨネーズと和えてブロッコリを食べたり、レシピサイトを見ながら色々と挑戦しています」

──もともと料理が好きだったんですか?

「いや、今年30歳になったんですが、体重管理が難しくなってきて。それで、何かひとつ決まりを作ろうと、朝ごはんを自分で作って必ず食べるようになりました」

──今年、30歳になったんですね。

「9月にアニバーサリーブック『やぎら本』も発売されるので、こちらもぜひ(笑)。この機会に自分で料理をしてみたら楽しくて。今、栄養士の資格も狙っています」

──仕事をしながら?

「いつか学校に通って資格が取れたらと思って調べています。他にも、昨年ニューヨークに留学したんですが、英語もお芝居ができるくらいまで上達したいと思っています」

──オフも忙しいですね。

「30代は何より運動が重要なので、武道の道場にも通っています。護身術なんですが、身体と精神の鍛錬を地道に続けています。やっぱり子どもにとって立派な父親でいたいけれど、自分はまだまだ。勉強しなくちゃいけないことがたくさんあって、子どもと一緒に成長している感覚です」

──これだけプライベートが充実していると、仕事にもいい影響がありそうですが。

「そうだといいですね。やっぱり、仕事が思うようにいかなくなることが怖くて、その時のために何かを取得しておきたい気持ちがあるのかもしれません。僕は俳優として小さな頃からこの業界にお世話になっていますし、あまり器用ではないので、まずは演じることを極めたい。そのために普段の暮らしも豊かでいたいんです。今はどちらもがむしゃらに頑張っているのですが、30代はインプットとアウトプットのバランスをとって、毎日を楽しめるようになりたい。それが目標です」

天才絵師、葛飾北斎の知られざる生き様

町人文化華やぐ、江戸の町。腕は良いものの食うことすらままならない北斎に、人気浮世絵版元の蔦屋重三郎が目を付ける。重三郎の後押しにより、悩みもがきながらも唯一無二の独創性を手に入れ、その才能を開花させる。そんななか、北斎の盟友で劇作家の柳亭種彦が幕府の禁に触れ討たれる。怒りに震える北斎が描いた命がけの作品とは……。

『HOKUSAI』

監督/橋本一
出演/柳楽優弥、田中泯、阿部寛、永山瑛太、玉木宏 ほか
配給/S・D・P
2021年5月28日公開
www.hokusai2020.com/

©2020 HOKUSAI MOVIE

Photos: Kouki Hayashi Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

柳楽優弥Yuya Yagira 1990年、東京生まれ。2004年是枝裕和監督作品『誰も知らない』にて、第57回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を日本人初、史上最年少で受賞。以降、映画・テレビ・舞台で幅広く活躍。近年は『ピンクとグレー』『ディストラクション・ベイビーズ』(16)、『銀魂』シリーズ(17・18)、『散り椿』(18)、『夜明け』『泣くな赤鬼』『ザ・ファブル』(19)など。7月スタート(予定)のドラマ『二月の勝者』では主演を務める他、NHK国際共同制作 特集ドラマ「太陽の子」(8月15日放送)に主演する。また、主演映画『ターコイズの空の下で』が2020年公開予定、葛飾北斎の青年期・壮年期を演じた『HOKUSAI』は2021年公開予定。30歳を記念したアニバーサリーブック『やぎら本』が9月20日発売。現在予約受付中。

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