山田裕貴インタビュー「生きてると実感したいから芝居をする」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.63は俳優の山田裕貴にインタビュー。
『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.O』では鬼邪高の番長・村山良樹、NHK連続テレビ小説『なつぞら』では主人公の幼馴染、小畑雪次郎を演じる山田裕貴。不良、高校生、刑事など、どんな役柄も演じ分ける、若手演技派俳優の筆頭だ。プライベートでは大のSF好きという彼が、前川知大が演出する舞台『終わりのない』に出演。そこで俳優という仕事、SFへの想いをたっぷり語ってもらった。
「カメレオン俳優になるだけじゃダメなんだ」
──俳優デビュー作となる『海賊戦隊ゴーカイジャー』から8年、来年で30歳ですね。
「そうなんですよ。24、5歳くらいに見られがちなんですけど。よく『え? 昔、ゴーカイブルーだったの?』と驚かれるんです」
──ゴーカイブルー=鬼邪高の村山『HiGH&LOW』=雪次郎『なつぞら』と、役柄が幅広過ぎて繋がらないかもしれないですね。
「そもそも、自分だと気付かれないことが多いんですよ。『特捜9 』を見てると声をかけてくださったおばさまに、『ありがとうございます! 朝ドラもぜひ』と言うと、『どれ? どの役?』。菓子屋の息子ですと言ったら『え? もしかして雪太郎?』『雪次郎です』って。あ〜、やっぱわかんないかって思いながら」
──それだけ、役ごとに印象がガラリと変わるということなんでしょうね。
「それが僕の目指していたところなので、すごく嬉しい反面、カメレオン俳優を目指しても、カメレオンのまんまじゃダメなのかなと思うところもありまして。僕が出演するから、観ていただくというふうにならないと」
──NHKの朝ドラ『なつぞら』では、主人公なつ(広瀬すず)の幼馴染であり、夕見子(福地桃子)の夫になりました。物語の鍵となる役だから、これまで山田さんを知らなかった方にも印象付けられたのでは?
「どうですかね。ぜひ雪次郎のことを忘れないでいただけたら。『雪次郎は山田裕貴』と、頭の片隅にでも覚えてくださったら嬉しいです(笑)」
──それにしても、デビューが戦隊ヒーロー、しかもブルーの役ということで、若手俳優のエリートコースなのかと思いきや、これまでだいぶ悔しい思いをされてきたとか。
「戦隊ヒーローで注目されるのは、やっぱりレッドですよね。それに、『ゴーカイジャー』の出演が決まったときにも、嬉しいけどこれが終わったらどうなるんだという、不安の方が強くて。自然な演技もできなくちゃとか、そこからはひたすらもがいてきた感じです」
──目指す地点、目標はあるんでしょうか?
「“俳優王”です。『ONE PIECE』のルフィが、俺は支配なんかしない、この海で一番自由なヤツが海賊王だと言ってるんですが、そんなふうに自由に仕事できて、自分たちの仲間や、仕事をしたい人たちと一緒に映画や舞台を作ったりして、たくさんの人の心を動かすことができたら最強だよな、と」
──ルフィの俳優版なんですね。
「時間や予算の制限もあって、プロデューサーや制作の方々がみんな自由に納得して作れる現場ってなかなかないですよね。たくさんの俳優がいるなかで、僕と仕事をしたいと思ってくれた人と自由にいい作品が作れたら、それは最強に幸せだよなって思うし、それが“俳優王”と僕は思っています」
「イキウメの舞台を見て、同じこと考えてる人見つけた!と感激しました」
──10月の舞台『終わりのない』は、一緒に仕事をしたいと思っていた前川知大さんとの舞台になりますね。
「そうなんです。前川さんの舞台はこれまで何度か観に行かせていただきました。あのSF的な世界観と、人間の本質を絡み合わせた作品がとても好きで。僕はもともと、なぜ地球はあるのか、どうして恐竜が存在したとわかるのか、目に見えない世界について考えるのが好きでした。イキウメの舞台『散歩する侵略者』を観たとき、僕も概念を奪うことについて考えたことがある!と思って。終演後、泣きながら『こんなに素敵な作品はありません』と、前川さんに想いをお伝えしたんです」
──そのときは「舞台に出たい」ではなく「好きです!」と伝えたんですね。
「普段、舞台を観に行っても、演出家さんに『いつかご一緒したいです』とアピールするのが苦手なんですけど、そのときは想いを伝えたくて。これまで、友達にUFOだとか宇宙人とか、概念がなくなったらどう思う?と聞いても、『何言ってんだ』と流されてきたから、同じことを考えている方がいた!と感激しました。だから、今作の出演は、ものすごく楽しみですけど、自分の想いが大き過ぎて盲目的にならないように、冷静になろうと意識しています」
──今回の『終わりのない』は、どんなストーリーなんでしょうか。
「古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原典にした、前川さんの新作です。まだ前川さんから構想を聞いた段階ですが、地球人が宇宙で生活するようになる未来で、宇宙で生まれ育ち、地球を知らない若者が、なぜかその地球に帰還したいと思う。それは遺伝子に眠る記憶のせいなのか、行ったことがないのに懐かしいと感じる、デジャヴュのような感覚。それからギリシャ神話は、災害をポセイドンの怒りなどに例えていたと言われていますが、当時の人は実際に神々が見えたのかもしれない。僕らは退化して見えなくなっただけで・・・。大丈夫ですか? 伝わってます?」
──大丈夫です(笑)。山田さんはSFのベースがあるから、その物語にも入りやすかったのでは?
「そうですね。このお話をいただいたときやってたゲームが、『オデュッセイア』の古代ギリシャが舞台で、ちょうどアポロンや神々のことに詳しくなっていたときだったんですよ。それも運命的ですよね」
──見えないものを演技という形で見せるのは、あの世とこの世の通訳みたいな感じで面白いですね。
「目に見えない世界といっても、宇宙や幽霊だけじゃなくて、感情や人の気持ち、魂も見えない。そういった目に見えない全てのものを表現できたらと思っています。現実にはあり得ないモノや人を、どうにか現実に繋げていきたい。未知との遭遇も、日常的にあることだと思うんです。初めての食べる物だって未知との遭遇と言えるわけで、目に見えない感情やありえないことも、何かに例えれば納得できるかもしれない。視点を変えればいろんなものが繋がっていく。そのことは伝えたいと思います」
──SFは子供のころから好きだったんですか?
「野球少年だったんですが、運動より断然宇宙に興味がありました(笑)。恐竜の時代、ジュラ紀や白亜紀について調べるのも好きでしたし、プラネタリウムにも何回も行きました」
──これまでたくさんの作品に出演して「気づいたらいる山田裕貴」と言われましたが、この作品を含めすでに中心に立つ存在になっています。その手応えは感じますか?
「主役でも脇役でも、僕がどの位置にいようが、重要なのはいい作品にできるかどうか。『ゴーカイジャー』が決まる前は、エキストラから始めたので、セリフがあるだけで嬉しいし、舞台に立てているだけでも素敵なことだから、とにかくいい作品にしたいです。観客の心が動く作品にできたらいいなと思っています」
「生きていると実感したくて、俳優になった」
──以前、自分の感情が演技の役に立つという話をされていたんですが、日頃からそうやって自分を鍛えていたりするんでしょうか。
「この仕事は、人の気持ちを考える職業じゃないですか。だから、なぜそう思ったのか、なぜその仕事をしているのかとか、人の話を聞いていると、自然と鍛えられるところがあります。友達の恋愛話を聞いていても、どうしてその人と一緒にいようと思ったのか、とか。そういう要素が、芝居の設定になるわけですよね。それに、どんな場面で怒ったのか、泣いたときはどうだったのか、泣いたときはどんな顔をしていたのか、自分のことも覚えておくようにしています。眉ひとつ動かさずに、涙が溢れるときもあるんだな、とか。時間があるときは、ひとりでフラっと飲みに行って、隣にいるサラリーマンの方とお話したりするんです」
──俳優であることは隠して?
「こちらからは言わないですけど、気づいてくださる方もいらっしゃいます。いろんな職業の方がいるから、すごく参考になるんですよ。僕より年下のサラリーマンに話を聞いたときは、『正直やりたいことはやれていません。毎日、同じ時間に会社に行って、この仕事が何の役に立ってるかわからない』と言っていて。僕からしたら、社会に必要とされている仕事だと思うんですが、ご本人はそう感じるんだなと。サラリーマンを演じるときに参考にしています」
──プライベートで、自分のスイッチをオフにするときは?
「ひたすらバラエティを観たり、ゲームしたり。携帯もオフにます。マネージャーさんには申し訳ないんですけど(笑)。でも、今こうやって自分の話をしているときも、オフの気分なんですよ。仕事ですけど、こんなに自分の話を聞いてもらえることってなかなかないじゃないですか。でも、オフを楽しみに仕事するというよりも、役を演じているほうが生きている実感があります。生きている実感が欲しくて、この仕事をしているのかもしれません」
──それは仕事が充実して楽しいということですよね。
「そうですね。この仕事で、得をしていると思うのは、いろんな人生を(役で)生きられること。自分の人生だけじゃ、つまらないと思ってしまうから、これは天職だったと思います。現場が楽しい、いろんな人に会えて楽しい、頑張った作品が良かったと言ってもらえると、僕、生きてるんだなって思える。こんなにたくさんの人に『僕、生きてます!』ってところ、見てもらえることって、なかなかありませんよね」
──確かに。雪次郎から村山まで、役柄もかなり幅広いですが、俳優としてもご本人のパーソナリティとしても、独自の視点をもっていますよね。
「そう言ってもらえると嬉しいです! 他にないことをやろうとして、ここにいますから。学生時代、小中高ずっといじられキャラだったんです。みんなと同じことをするのが好きじゃなくて、よくふざけて先生に怒られたりしました。それでも、みんなが笑ってくれれば嬉しいし、自分も笑うことができる。自分のルーツは多分そこです」
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Photos: Kanta Matsubayashi Styling: Aki Hair & Makeup: Junko Kobayashi Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto