iriインタビュー「メジャーデビュー3年目の今だから歌えること」 | Numero TOKYO
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iriインタビュー「メジャーデビュー3年目の今だから歌えること」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.58はR&Bシンガーソングライターのiriにインタビュー。

心地いい低音が響くスモーキーな歌声、等身大の日常を詩のようにつづる歌詞世界、幅広いプロデューサーやアレンジャーと共作した多彩なサウンド。2016年にデビューした逗子市出身のR&Bシンガーソングライターiri(イリ)が、3枚目のアルバム『Shade』を2019年3月6日にリリース。ナイキのキャンペーンソングや国際ファッション専門職大学のCMソングに起用されるなど、ファッション界からの注目度も高い彼女。自分の中の陰の部分、ネガティブな部分にフォーカスしたという最新作について、そしてプライベートについて語ってもらった。

より内面的なことを深く考えることができた

──新しいアルバムはどんな一枚になりましたか?

「タイトルも『Shade』になっているように、自分の中の陰みたいなものをすごく表現できたアルバムかなと思っています。セカンドアルバムの『Juice』は結構エネルギッシュな、いい意味で力の入った強い作品だったのですが、今回はどちらかというともっと内側の、より内面的なことを深く考えた作品になったかな」

──何か心境の変化があった?

「前作を作って、聞いて、改めて色々考えてみたときに、わりとリスナーの方を意識して書いたという感覚があって。もちろん曲には自分のリアルな気持ちを書いているのですが、ネガティブな気持ちを吐き出すだけじゃなく、その後に何かオチをつけるっていうことを考えながら書いていたんです。でも、今回はあまりそういうことを考えすぎず、ポジティブな内容に落とし込むというよりは、今の心境をそのまま飾りなく作っていったという変化がありました」

──3曲目の「wonderland」に「やけに明るい世界じゃ嘘のよう」という歌詞がありますが、この表現が今回のアルバムを表していると感じました。

「そうですね。ひとつのテーマに向かってアルバムを作っていくような感じではないのですが、曲をひとつひとつ作っていくうちに、自然とこういうアルバムになっていました」

──参加しているアーティストも、いつものチームに加えて、大沢伸一さんやtofubeatsさんなど、どんどん幅広くなっていますね。

「tofubeatsくんはもともと曲が好きで、自主企画のイベントでもオファーさせていただいたりしていて。やっぱりライブを見てもすごくかっこいいですし、一緒に作ってみたいなと。それからgrooveman spotさんは、学生のときから好きでよく聞いていたので、ようやく今回一緒に作りたいという思いが叶ったという感じです。大沢伸一さんは、今までの自分の曲とはまた違う表現で、みんながハッとするような感じのものを一個置きたいなっていうのがありました」

──それが最初の曲「Shade」ですね。大沢伸一さんのソロプロジェクト「MONDO GROSSO」には満島ひかりさんやアイナ・ジ・エンドさんも参加されています。

「はい、今回誰とやったらいいかなっていうのを相談しているときに、色々な女性アーティストのプロデュースをやられている大沢伸一さんの名前が挙がりました。birdさんや他の女性アーティストさんとやってらっしゃる曲も聴いていて、やっぱりハッとさせられるような作品がたくさんあって、自分もこういう曲を一緒に作りたいなと思ったんです。それで、ちょっと尖ったイメージのトラックをお願いしたら、音数を増やして重ねるよりも、最小限に引いてみるのが今っぽくて新しいんじゃないかっていうアイデアをいただいて。まずスタジオに入って、好きな曲の感覚を共有しながら作っていきました」

──そういったアーティストの方と一緒に作っていく中で、影響を受けたり学んだりしたことはありましたか?

「けっこう曲の感じや歌い方に“iri節”みたいなものが強く出ちゃうことが多くて(笑)。それがいいときもあれば、あんまり出すぎるともったいないっていうときもあるんです。なので、大沢さんに関して言えば、『あんまりR&Bっぽいフェイクを入れた感じにしないで、ちょっとパツンと切ってみて』とか、歌い方についてもレコーディングでアドバイスをもらって。実際にそれですごくメリハリが出て、やっぱり違うんだなって勉強になりましたね」

──なるほど。そういうことを言ってくれるんですね。

「あとはtofubeatsくんも一緒にレコーディングをしたんですが、歌詞の意味に合わせてちょっと力を抜いてみるとか、少しさみしい感じで歌ってみるとか、そういうニュアンスをもっと出すといいよっていうアドバイスをくれたりして。それもすごく覚えています」

──自分の中で思い出深い曲というのはありますか?

「やっぱり大沢さんとの『Shade』はすごく時間をかけて作った感じがあって、メロディーもギリギリまで突き詰めて考えたりしたので、印象深いですね」

──『Sway』という曲の、「いつだって未完成だって構わない 寄り添って歌ってる」という歌詞もすごく好きです。

「ありがとうございます。この曲は、もうiri節炸裂っていう感じではあるんですけど(笑)、歌詞に関しては一応ファンの人に向けてちゃんと書いた曲ですね。『Shade』もそうですが、今回の曲はわりと自分の中に物語みたいなものをしっかり描けるように意識して作っていきました。だからこそ、そこをつなげていくのが難しかったり、大変だったりもして。でも、例えばファンレターをいただいたりして、『iriさんの曲を聴いて頑張って学校に行ってます』とか読むと、めっちゃ嬉しいんです。自分が一番やりたいこと、力になりたいことはこういうことだなって心から思いますね」

悩んでいることも曲にすればポジティブになれる

──デビューして3年くらいになりますが、今回の作品を通して自分自身の変化だったり進化だったりを感じた部分はありますか?

「あまり間を置かずに作品を発表しているので、急に何かがポンと変わったという感覚はないんです。でも、今回の曲はなんとなく自分の抱えている不満というか、モヤモヤというか、そういうものは結構出ていると思います。それは多分メジャーデビューして3年たった今の気持ちというか、今だから書けることだなという気はしていて。見える景色も変わっていって、『Shade』にもそういう感じが出ていると思います」

──ライブも重ねていると思いますが、こういう人に向けて曲を作っているっていうような、はっきりしたイメージはある?

「う~ん、改めて考えると、あまり誰かに向けて書いているという意識はないかもしれないです。もちろんファンの方、リスナーの方に向けて書いた曲はあるんですが、やっぱり自分が悩んでいることをそのまま書いていくことで、自分自身がポジティブになれるというか。曲を作りながら、自分と対話していく中で、これからどうしていくかってことが見えてくるような感覚がありますね」

──歌詞は悩むタイプですか?

「スラスラ出てくるときと、まったく出てこないときがありますね。書いて、くっつけて、そこから組み合わせを入れ替えてみたり」

──短い文節がポンポンと並んでいる感じで、詩に近いですよね。ひとつひとつが繋がっているわけじゃないから、順番を入れ替えても違和感がなかったり。

「そうなんです。そうすることで逆に良くなったり、意味が出てきたりするから、それはすごく楽しいですね。基本的には音が先にあって、コードのテンションに合わせて書いていく。tofubeatsくんとやった『Flashlight』とかは、トラックを聴いたときにすごく宇宙!って感じあったので、それを反映したりしました」

──トラックメイキングにも挑戦していると話していました。

「今回のSTUTSくんとの曲も、最初のベースだけは自分で作ってみました。まだ勉強中ですが、アルバムが完成してからはその勢いもあって、またちょこちょこ作っています。やっぱり楽しいですね。普段はなかなか作ろうって気持ちになれないときもありますが、そういうときは降りてくるのを待っています(笑)」

挑戦したいのは海外でのライブとサーフィン

──プライベートと仕事のはっきりとしたスイッチはありますか?

「ありますね。やっぱり歌っているとき、ライブのときが一番オンになっています。作るときは作るときでまた違ったスイッチが入っているので、オフは休みの日に引きこもっているときかな。今日も家から出なかったな、みたいな日が多いですね(笑)」

──家ではどんなことをしてます?

「作曲してみたり、新しく買った詩集を読んでみたり。地元の逗子を散歩して、古本屋さんでおすすめを聞いたりとか。普段から面白い言葉とか言い回しとか、そういうものは探したりします。名前を忘れちゃったんですが、最近は日本の女性作家の詩集を読んでいます」

──家族と暮らしている中で、音楽の話をしたりしますか?

「母親は音楽好きなので、最近の曲とかは私よりも詳しいんです。新しいバンドとかよく聴いてるみたいですね。私の曲に対しても基本的にはいいねって言ってくれていて、母はいつも家事をしながら聴いてくれているみたいです(笑)」

──例えば遊んだ日の帰り道とか、今日のことを曲にしようって思ったりしますか?

「う~ん、わりと家にいるときに、ギターでスリーコードとかでループ作って、ちょっといい感じに陽が入ってるから作ってみようかなっていうような感じが多いです。いざ作ろうと思うとなかなかできなかったりもしますし」

──今後、例えば一人暮らしとか、海外に行くとか、そういうプランはありますか?

「一人暮らしっていうよりは、制作部屋みたいなスペースが欲しくて、それは考えていますね。東京に行ったりすると病んじゃいそうなので(笑)、地元の湘南の方で制作もできて住めるようなところを探そうかなって思っています。あとはサーフィンに挑戦したい。今年は友達に頼んで教えてもらおうかなって計画しています」

──長い休みがあったら何をしたいですか?

「やっぱり海外に行きたいです。去年はそれこそ友人と一緒に5日間くらいニューヨークに行って、ライブを見に行ったり古着屋に行ったりしました。ロバート・グラスパーがちょうどブルーノートでライブをやっていて、すごく近くで見れたんです。今年はキューバにも行ってみたい。仕事としては台湾やフランスに行かせてもらって、フランスの人が意外な曲ですごく踊ってくれたりとか、台湾の人はしっかり歌声を聴いてくれたりして、嬉しかったですね。今年はアメリカでもライブをしてみたい。もっと海外に行く機会を増やせたらいいな」

──ファッションは古着が多いんですか?

「楽なやつが多いです(笑)。今日はキラキラした服ですが、普段はスニーカーとかブーツを履いて、Tシャツにデニムみたいなとにかくシンプルで着心地のいいファッションが好きですね」

──映画やドラマは見ますか?

「映画館にも結構行きます。『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー』とか、『エリック・クラプトン 12小節の人生』、それから『ボヘミアン・ラプソディ』も最近見ました。こういう作品を見ると、実は好きなミュージシャンについてあまり知らなかったことがわかったりして、面白いです」

──ドキュメンタリーだったり実話をもとにしたものは、音楽だけじゃなく私生活も描かれていて面白いですよね。iriさんの曲も、フィクションっていうよりは、生活と地続きな感じがします。

「やっぱり私は、これまで聴いてきた曲がそうだったし、そういうリアルな感覚にぐっとくるんです。その人の見たもの、感じたものがそのまま感じられるような作品が一番好きですね。私自身もそういう曲を作り続けていきたいです」

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iriが選ぶお気に入りミュージック

Joji『SLOW DANCING IN THE DARK』

「ミュージックビデオも面白いし、ちょっとダークな感じが好きですね」

Mac Ayres『Easy』

「曲だけじゃなくアルバム全部良いんですが、ちょっとジャジーで今っぽさもあり、メロディーがすごく綺麗で勉強になります。今回のアルバム制作前によく聴いていて、そのメロディーの感じとかも自分の中にインプットされていると思います」

Toro y Moi『Ordinary Pleasure』

「すごく気持ちいい曲で、これまでそんなにはまらなかった人なんですが、新しいアルバムはすごく自由で新しくて、よく聴いています」

iriの最新作『Shade』の情報はこちら

Photos: Yuji Namba Styling:Yoko Irie(TRON) Hair & Makeup: Megumi Kuji(LUCK HAIR) Interview & Text: Mayu Sakazaki Edit: Yukiko Shinto

Profile

iri(イリ)シンガーソングライター。1994年神奈川県逗子市在住。自宅にあった母のアコースティックギターを独学で学び、アルバイト先の老舗ジャズバーで弾き語りのライブ活動を始め、2014年、雑誌「NYLON JAPAN」と「Sony Music」が開催したオーディション「JAM」でグランプリを獲得。ヒップホップ的なリリックとソウルフルでリヴァービーな歌声で、ジャンルレスな音楽を展開する。2016年にビクター・カラフルレコーズからデビューし、現在までに2枚のアルバムを発表。Chloe や VALENTINO のパーティーにてパフォーマンスを披露するなどファッションシーンでも注目を集める。最新作は3枚目のアルバムとなる『Shade』。

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