ミュージシャンが注目する新世代ミュージシャン、あいみょんの素顔 | Numero TOKYO
Interview / Post

ミュージシャンが注目する新世代ミュージシャン、あいみょんの素顔

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.49はミュージシャン、あいみょんにインタビュー。

新世代のポップアイコンの筆頭候補であるシンガーソングライター、あいみょん。メジャーデビューから2年足らずで、平井堅、槇原敬之など実力派アーティストの注目アーティストに選ばれたり、ファッションアイコンとして注目されたりと、各方面から熱視線を送られる彼女が、4枚目のシングル『満月の夜なら』をリリース。「セックス」「自殺」などの題材をさらりと歌い上げる彼女は一体どんな女の子なのか?その素顔とは?

音楽好きの父親に憧れて、始めたギター

──あいみょんさんは兵庫県西宮出身なんですね。

「大家族で育ったんですよ。6人兄弟の2番目で一番下の弟はまだ中学生です」

──その中で音楽活動をしているのは?

「アーティスト活動をしているのは私だけです。でも、父親が音響の仕事をしていたので、家にはたくさんのCDがあって、そこからかなり影響を受けました。例えば、ビートルズや浜田省吾さんは父親から勧められて。父親から『世界に数あるアーティストの中で浜省がNo.1や』と教育されたので、私も浜省さんの曲は大好きです」

──ほかにはどんな音楽を聴いてきましたか?

「バイト先の先輩がフリッパーズギター、小沢健二さん、コーネリアスを教えてくれて、中でも小沢健二さんの『LIFE』はすごく衝撃を受けました。HYさんも大好き。うちは沖縄の血筋があって、家の中で沖縄の音楽が流れていたんです。夏川りみさんとか。あとは、ソウルフラワーユニオンも家族みんなで聴いてました」

──同世代のミュージシャンでは?

「石崎ひゅーいさんの『第三惑星交響曲』をYoutubeで見つけたときはすごい衝撃でした。その頃、16歳ぐらいやったと思うんですけど、それからずっと好きで、同世代のアーティストの中で、一番尊敬しています」

──その頃はもう作曲していたんですよね。

「そうですね。15歳くらいから曲を作り始めてました。誰に聞かせるつもりもなくて『曲を作ったらギターを覚えられるんちゃうんかな』くらいの感覚で。もともと、作文や詩を書くのが好きだったんです。それに、父親がギターを弾いている姿をカッコいいと思っていて。父親にギターを弾きたいから習いに行きたいと頼んだら『ギターは習いに行くもんじゃない』と教則本をポンと手渡されたんです。でも、ほとんど読まずに独学で覚えました」


──どんな時に曲が生まれるんですか?

「家に帰ると、まずギターを持つのが習慣になっているので、その延長で曲ができることも。作詞と作曲は同時進行です。携帯で詞を打って、携帯で録音してそのまま送信するという。携帯をもつ前は手書きだったんですけど、浮かんでくる詞のペースに、手のスピードが追いつかなくてイライラしちゃって」

──お父さんに、曲の感想をもらうことは?

「父も家族も何も言わないですよ。もちろん応援してくれてますし、テレビ出演はいつも見てくれてますけど、この曲がどうだったかとか細かいことは言わないですね」

──お父さんにいつか褒められたい?

「褒められた瞬間に家族でなくなる気がしていて。私は音楽をやってるけれど、その前に家族であり、みんなのお姉ちゃん、娘であることが大事なので。家に帰ったら音楽の話より、最近あった面白い話を聞かせてほしい。でも、ライブには来て欲しいかも。私がステージに登場したとき、ファンのみんながわーっと湧いてくれているところを見せたいですね。『今、こんな感じよ』って(笑)。でも、いつか、父親にPAに入ってもらうのも夢ですね。それが叶ったら、多分泣いちゃいますけど」

全ての曲は、誰かへのラブソングになっている

──これまでに、メジャーで4枚のシングル、フルアルバムを1枚リリースしています。1stシングル『生きていたんだよな』は自殺をモチーフにした衝撃的な曲でしたが、恋愛に関する曲が多いですよね。

「結局、人間はラブソングしか書けへんと思うんですよ。男女間の恋愛だけじゃなくて、動物や家族に対してのラブソングも含めて。表現方法が違うだけで『生きていたんだよな』も自殺をテーマにした曲でしたが、それさえもラブソングになりうるかもしれへんなと思います」

──ご自身の恋愛観は反映されていますか?

「基本的には反映されてないと言いたいんですけど、きっと反映されているでしょうね。ギターを持って、浮かんだ言葉がそのまま物語になっているので」

──「僕」という男性目線の曲も多いのは?

「曲を作ってる段階で『だぜ』『だぞ』という語尾を使ってしまったら、これは男の子の歌になるんだなと思いながら作っています。だから、作っている時点ではどちらの目線になるのかわからないんですよ」

──でも、曲を聴いていると、男女を入れ替えても成立する、ノージェンダーな雰囲気も感じます。

「それは『僕』という一人称がしてくれている仕事だと思っています。『俺』と『私』の中間が『僕』だと思ってるんです。女の子が歌う『俺』には抵抗があっても、『僕』なら誰でもスッと気持ちに入れる。そういう中間がいいんです。『私』にも『俺』にもなれるのが『僕』であり『君』。もちろん男性目線の意味合いで書いている曲もあるけれど、女性にも聴いてほしいと思いますしね」

──「女性」についてはどう捉えていますか?

「自分が女性なので近すぎてよくわからへんけど、強さを感じます。母は6人子どもを産んで育て、お姉ちゃんと妹も出産を経験しているんですが、特にお姉ちゃんが子どもを産んだ時に強さを感じました。母親になると自分の大事なものを必死で守ろうとするんやな、と。もうお姉ちゃんには一生逆らえへんと思ったくらい。もちろん男性もそうだと思うんですけど」

──それまでのお姉ちゃん像とは変わりましたか?

「子どもを産むと、一気に母親になるんですよね。自分の中から生まれたものを守れるのは、女性だけかもしれないから、私も出産してみたいし、その痛みを知りたいと思いました」

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官能小説から学んだ表現が生む曲の広がり

──今回のシングル『満月の夜なら』はソウルフルなグルーヴのある気持ちのいい曲です。歌詞をみるとエロティックな表現もありますね。

「聴く人に想像を膨らませてほしいから、比喩表現は作詞をする上で必要だと思っているんですよ。だから、官能小説をよく読んで、表現方法を勉強しています。例えば紙コップをいかに『紙コップ』と言わずに遠回りして表現するか、それが官能やと思っていて。そうやって作詞すると、聴く人があれこれ想像を働かせてくれて、例えば私がただのアイスクリームのつもりで作詞しても『アイスクリームってどういう意味なんやろう』と、みんなが想像してくれる。そうやって自分の物語を作ってくれることが素敵やと思っています」

──ちなみに、どんな官能小説を読んでるんですか?

「官能小説じゃありませんが、最近、石田衣良さんの『sex』という短編集を読みました。官能小説以外も読書が好きですね。ミステリーやサスペンスを読むことが多いので、うちの本棚には『殺』『死』とかの文字が並んでいて、あとは官能的な小説(笑)」

──セックスは恋愛を語る上で大切な要素?

「みんな目指すのはそこだからセックスは大事です。アルバム『青春のエキサイトメント』に収録した『ふたりの世界』で、セックスをちゃんと表現することが許されたので、これからも官能的なことを歌っていきたいと思っています。意外にもストレートなラブソングやキスの歌より、官能的な歌の方が嫌な気持ちになる人が少ないんですよ。だから人間は本能的な生き物なんだなと思いますね」

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CDも絵も、作品を残すことが芸術

──デビューから、CDジャケットはとんだ林蘭さんがアートディレクターを務めていますね。

「とんだ林蘭さんはアーティストなので、彼女の作品の一部になったつもりでやっています。やっぱり作品を残す作業が芸術だと思うので、音楽もアートワークもすべて芸術のつもりでやっています」

──残すことが大事ということは、配信についてはどう考えていますか?

「私も配信を利用することもあるので否定はできないですけど、CDで作品を残すために、とんだ林さんとアートワークやブックレットを作っているので、CDにはまだ夢があってほしいなと思いますし、残したい。それから、私が父親から『これ聞きな』とCDを手渡されたように、人に渡すことができる音楽っていうのも大事な気がして。もしかしたら弟が音楽に興味が出て来たら『これ聴きな』と手渡したいので、好きな音楽はCDで買うようにしています」

──オフの日はどう過ごしていますか?

「美術館に行くことが多いです。日程を調べて、これやってるから行かなきゃって。このタイミングで重なるのはやめてよと。例えば国立新美術館の『至上の印象派展』や、練馬区立美術館の『サヴィニャック展』にも行ったし、レコーディングの合間に『猪熊弦一郎 猫たち展』にも行きました。サヴィニャックは家にポスターを飾ってるほど好きで、原画を見られるのは貴重ですから」

──絵を描くことも好きですか?

「もともと美術の道に進みたいと思っていたので、絵を描くのも好きです。でも、想像して自分の中から湧き出るものを描こうとしても難しい。冷静に見ると、岡本太郎のパクリやなと思ってしまう。だから、ひたすらデッサン、模写をしています。人の顔や雑誌の表紙を5時間くらいかけて紙と鉛筆と消しカスをずっと眺めながら。疲れるけど、仕上がったときの満足感たるや。絵を描くのは、気分転換というか純粋な趣味です」

──ファッションアイコンとしてフィーチャーされることも多いですが、普段のファッションは?

「自分で買うのは古着が多いですね。パーカーやスニーカーのゆるい格好が多いけど、スカートもよく穿きますよ。スカートのイメージがないと良く言われるんですけどね。露出するのも好きで、私服ではよくへそ出ししてます。冬はさすがにしませんけど、春めいたらすぐにへそを出す(笑)。昔、母親が若い頃、ミリタリーファッションでヘソ出しをしてたらしくて、遺伝かもしれません(笑)」

トップス¥86,000 デニムパンツ¥99,000/ともにMonse(アイデア バイ ソスウ 03-3478-3480) シューズ/スタイリスト私物

Photos:Yuji Namba Styling:Masataka Hattori Hair&Make:Chie Fujimoto Interview&Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki

Profile

あいみょん(Aimyon) ミュージシャン。1995年兵庫県西宮市生まれ。2015年3月タワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌〜死ね〜』でインディーズデビュー。オリコンインディーズチャートトップ10入りを果たす。2016年11月ワーナーミュージック・ジャパンのunBORDEレーベルより、シングル『生きていたんだよな』でメジャーデビュー。自殺をテーマにした楽曲で話題を呼ぶ。2017年に発表されたシングル『愛を伝えたいだとか』『君はロックを聴かない』は2018年1月に放映された『関ジャム 完全燃SHOW』の年間ベスト10に選出される。最新作は4枚目のシングル『満月の夜なら』。

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