片岡愛之助インタビュー「結婚して人生への考え方が変わった」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.48は俳優、片岡愛之助にインタビュー。
端正なルックスと柔らかい物腰が人気。歌舞伎俳優として、また振り幅の広い役者として映像や舞台で活躍中の片岡愛之助。4月には三谷幸喜作・演出の舞台『酒と涙とジキルとハイド』に主演し、コメディでもその魅力を発揮する。役者人生をひた走る片岡愛之助に、作品やプライベート、今の心境について聞いた。 ──『酒と涙とジキルとハイド』の初演(2014)では笑わせていただきました。コメディは初めてだったとか。 「演出の三谷幸喜さんが楽しんでいらして、『歌舞伎でしたら、どんな感じですか』とか、無理な宿題をたくさんお出しになり、役者が表現したものからチョイスされて作っていきました。優香さん、藤井(隆)さん、迫田(孝也)さんと、コメディに長けた方々と一緒で、楽しいお稽古場でした」 ──最近ではブロードウェイミュージカル『コメディ・トゥナイト!』、福田雄一さん演出の『DEATH TRAP』にもご出演と、すっかりコメディ作品の常連に。 「『酒と涙と〜』をきっかけに、こういった作品のお話もいただけるようになりました(笑)。役者としてイメージが明るい人になってしまったので、深い暗い芝居ができるのか?と思われているかもしれませんね(笑)」
──その振り幅の広さは、俳優として魅力かと。この先もコメディ路線を保ちつつ?
「コメディ路線を中心にと考えているわけではないですけど、いろんな作品をバランスよくやっていきたいですね。もちろん本業の歌舞伎では古典歌舞伎をしっかり先輩から教えていただいて、後者につなげる。それ以外に新作やコラボレーション歌舞伎も作る。そして歌舞伎と違う舞台や映像と、バランスよく並行して取り組めたらありがたいです。舞台やテレビを見て、この人歌舞伎もやっているの?と興味を持っていただけるだけでいいんです。それをきっかけに歌舞伎を見に来てくださったら、非常にありがたい。僕ら役者はテレビの場合は視聴率、舞台では動員数と、お客様ありきの生き物です。舞台と言ってもいろんなタイプのお芝居、楽しみ方があることを知っていただき、足を運んでいただきたいです」
──この3、4月にはミュージカル『ジキル&ハイド』が上演されていましたが、気になりますか。
「とても気になります。主演の石丸幹二さんとはすごく仲良しで。昔、ライターさんが『愛之助さんとすごく似た人がいるんですよ。石丸さんって知ってる?一回会わせたいね』と言う話になり、一緒にご飯を食べにいくようになって。彼は劇団四季時代によく僕の舞台を見に来てくれて、『泣けました』と感想をくれたんです。『一緒に舞台やりたいね』と言いつつもなかなかスケジュールが合わず、やっと共演が叶ったのがドラマ『半沢直樹』でした。骨格が似ていると声が似るみたいで、石丸さんが『愛之助さんの声は僕が高い声を出した時の声と同じですね』と、そんな視点が面白いなぁと。今度は是非舞台でご一緒したいです」
──お忙しい毎日でしょうが、ONとOFFの切り替えは、どのように?
「僕は舞台なら幕が閉まった途端に切り替わります。ただ、正直、あまりOFFを必要としないというか、僕は舞台に出ながら充電できます。僕にとっては三谷さんのお芝居をさせていただくことが、勉強であり充電。しいて言うならOFFはその日のお芝居が終わってから次の日のお芝居が始まるまでですかね。ですが、いつがONなのかOFFなのか、よくわからないというか、あまり仕事を仕事として思っていないのかもしれません。仕事しなきゃいけないと捉えると、疲れてしまいませんか?僕にとって役者という仕事は、自分が好きなことを楽しんでいるところを、たまたまお客さんが見てくださっているという感覚。この取材も、ティータイムにおしゃべりしている間に、記者さんがメモを取っている、みたいな(笑)。そう考えると、あまり疲れない。その意味では、あまりONとOFFがない人間かもしれない」
──ストレスを感じることは?
「全然ないです。あまり考え込まないですし。最近思うのですが、人生は一回きりで限りあるもの。カウントダウンされている限られた時間をいかに過ごすか。一期一会と言う言葉を聞いて、昔はそうなのかな?くらいの感覚でしたが、今は身にしみます。侍が刀を持っている時代なんて、バサっと道端で斬られたら終わり。家を出たらもう帰ってこられないかもしれない。ですからその時その時、一期一会の瞬間を真剣に過ごし、悔いのない人生を送りたい。46歳になり、自分の中では二十歳過ぎから全然変わっていない気がしてはいますが…。僕の親は53歳と56歳で亡くなったんですね。自分ももうその年齢だと思うと、これからどんな人生を送ったらいいのか?と考えたりもします。歌舞伎の世界では“四十、五十は洟垂れ小僧”と言われますが、実際、色々と考える歳になってきたなぁと」
──プライベートの時間はどのように過ごしますか。旅行とか?
「はい。昨年9月、遅めの新婚旅行に行ってきました。ロサンゼルスとロス・カボスです」
──目的地はどのように選んだのですか。
「パンフレットを見たら素晴らしいので、ここにしよう!と決めました。実はラスベガス滞在中にメキシコの大震災が起きたことを知り、明後日行くのにどうしよう、多くの方々が被害にあっているときなのに…と、一度キャンセルしたんです。ですが、そこで考え直して。僕らが体験した阪神大震災のことを考えると、逆じゃないか、控えるのではなく、現地でお金を使うことが復興に繋がるんじゃないかと思い、現地の人に聞いてもらったんですね。すると、被災地とロス・カボスは距離が離れていて平穏なのでウェルカムです、と。それなら行こう!と、改めて手配していただき、行ってきました。実際に素晴らしいところで、感動しました。ロサンゼルスではユニバーサルスタジオに行ったら、入り口で手を振っている男性がいて。なんと、妻(藤原紀香)と繋がりのある大江千里さんが、ニューヨークから飛んできてくださったんです。『どうしたんですか?』『待ってましたよ』と、本当にビックリしました!あたたかい方で『案内しますよ』と一緒に回ってくださり、すごく仲良くなりました。このような素敵な出会いもあり、実に楽しい旅でした」
──ご結婚なさって、生活や考え方など変わられましたか。
「人間ドックには行くようになりました。それまで全く健康にも頓着なかったんです。どちらかというと人生は太く短くと思っていたのが、このように変わったのですが、一番身近にいてくれる家族の存在は大きいです。妻は本当によくサポートしてくれるんです。僕の座頭公演では、誰よりも宣伝してくれ、妻一人でかなりの枚数のチケットを売ってくれる。また僕のお礼状を書くために書道を習い、夜中の3時くらいまで書いています。お客様ありきの仕事ですから、本当にありがたいです。その他にも出し物にちなんだ帯や着物を作ったり、今月は、僕が立派な床の間のある楽屋に入れていただいたら、お軸と茶器を勉強して飾ってくれました。4月には自分の公演もある多忙な中で、あれこれやってくれる。女優でありながら裏方もできる、月にもにも太陽にもなれる人ですね」
──ご夫婦でお芝居の話はなさいますか。
「します。自分ではできているつもりでも、客席から見ないとわからないこと、見えないことがあって。何かのタイミングが遅かったり、バランスが悪かったり。それを教えてくれる、感想を言ってくれるのはありがたいです。歌舞伎のことを知らなくても、観客の視点からの単純な感想は大事なんですよ。お客様だと気を使ってなかなか本音を言ってくれないじゃないですか。よかったよ!と言う意見はもちろんありがたいですけど、冷静な目線での意見は大事です」
──素晴らしく優秀な奥様ですね。以前、紀香さんがミュージカルに出演なさった際、その真面目でストイックな姿勢に頭が下がりました。
「真面目すぎるんですよね。逆に彼女の健康が心配になります。今日も劇場でお客様を迎えて、そのまま自分の公演の宣伝のために大阪へ。ですが、お互い舞台人なので、わかり合えることが多いです。芯の役をやることの大変さやプレッシャーは、経験した人でないとわからない。彼女が舞台をやるときは逆に支えてあげたいなと思うのですが、僕は大して何もできない。一緒に美味しいものを食べに行くくらいかな」
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Photos:Motohiko Hasui Interview&Text:Maki Miura Edit:Masumi Sasaki