蒼井優インタビュー
「自分の人生に集中してる人が好き」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。 vol.27は女優、蒼井優にインタビュー。
女優・蒼井優が2008年ぶりに単独主演する映画『アズミ・ハルコは行方不明』。山内マリコ原作の同名小説を、『私たちのハァハァ』の松居大悟監督が映画化した本作で彼女が演じるのは、「ここではないどこか」を求めながらも、地元で鬱屈とした生活を送る、28歳独身OLの安曇春子。「春子が20代後半の自分と重なった」と話す蒼井優は、今どう変化し、成長したのか。いまの彼女ができるまでの話を聞いた。
同じ傷を負った女性同士だからわかるシンパシー
──蒼井さんは山内マリコさんの小説を読んで、どんなところに共感されますか?
「たぶん、読んだ人はみんな『なんで私のことこんなに知ってるんだろう』と思うんじゃないですかね。家の中でひとりのときや帰り道に味わう、恥ずかしい部分とか情けない部分を見透かされるというか。登場人物の傷口と自分の傷口が共鳴し合っちゃう感じかな。痛いし情けないしで、泣きたいわけじゃないのに泣けてくるような感覚。私は今、その傷の生々しさはもうなくて、けっこう乾いてあっさりしちゃってるんですけど、当時を振り返ると懐かしいみたいな」
──同じ傷を負った者として語り合えそうな感じ?
「そう。もう笑い話にできるようになった者同士のシンパシーを感じます」
──安曇春子というキャラクターとご自身が重なる部分はありましたか?
「同性に対しては笑顔でやり過ごしたり、テンションで乗り切ろうとしちゃうところですかね。会社の上司に対しての春子って、一応笑顔でやり過ごすけど、『え?』ってという間があったりするのに、同性にはそこは見せないんですよね。20代後半の自分も、そうだった気がします」
──理解できる女性同士だからこそ、気を遣ってしまう?
「自分の傷つきやすさを知ってるからこそ、それを相手に与えないようにしようとするからってことなんですけど。自分が笑いたくないときに笑っていて、どんどん空っぽになっていく感じってありますよね? 私は30歳を超えて思いきり図々しくなったタイプなので、楽しくないときは笑わないし、楽しいときは思いっきり笑うけれど、そうやって感情に自分勝手になってもあまり人を傷つけない自信が出てきたからだと思うんです。20代後半はまだそこに自信がないからマニュアル通りの対応になっていたんじゃないかなと」
ガシガシ歩ける30代が、楽しくてしょうがない
──30歳という年齢がモヤモヤから抜けるきっかけになったんですか?
「28くらいで第二思春期を通り過ぎて、30という年齢が後押ししてくれました。20代は足元がまだ不安定で、いつ割れてもおかしくないし、よく滑る氷の上を歩いているみたいだった。でも、三十路街道ってよく言いますが、30歳になったらいきなり土になった!という。ガシガシ歩けるぞって。言ってもまだ20代というときに、女としての付加価値が勝手につけられてしまうことにもすごく違和感があったんです。30歳になって人間になったというか、対人間での勝負ができるようになった。だから、今が楽しくてしょうがなくて。20歳で大人になると思っていたけれど、なってみると周りから見れば成人のはずなのに、中身が伴ってなかったり、環境は何も変わってないことにがっかりしたし、肩すかしをくらった感じがあった。でも、明らかに30って大人の年齢なんですよね。子どもの頃から早く大人になりたいと思ってたから、30歳になったという喜びは大きかった」
──蒼井さんが、大人のいい女だなぁと思う人はどんな人なんでしょう?
「どういう仕事をしていても、仕事をしていなくても、自分の人生においての身の丈を知ってる人が一番素敵だと思う。世界で活躍してる人も、専業主婦をしてる人も、スーパーで働いてる人も、自分の環境で幸せを感じることができる人が一番格好いいし、一番幸せなんじゃないかな。男性でもそうだけど、人と比べずに自分の人生に集中してる人が好きです。今はネットとかで情報が溢れてる分、みんなが人の人生について興味を持ちすぎちゃってますよね」
──全く興味ないんですね。
「私は人の人生に興味を持ってる時間はないと思ってるんですよね。誰が誰と何していたとか誰が何を言ったとか、それって自分の人生に絶対関係がないことだから。その情報を入れてる時間があるならもっと自分がワクワクする情報を入れたら、いい人生だったなと最終的に思えると思う」
自分の言葉で話せるようになって、人生が楽になった
──以前、「行き当たりばったりで生きている」と仰ってましたけど、ぶつかりながら自分を知って、自分の人生に集中していく方なんだなといいう印象を受けました。
「自分の人生に焦ってもいけないなと。ただ、ゴールは死と決まっているから、後何十年という時間でここで自分は何を経験したいのか、そこに集中していたらあっという間に人生は終わっていくと思うんです。何も、格好よく華々しく死ぬ必要もないですし。従業員を何百人も抱えるような華々しい人生を送りたかったらそのために頑張って、そうすればいいと思うけど。私はそういう人生は身の丈に合わないと思うから。こうやって自分の考えをちゃんと自分の言葉で話せるようになってから、すごく人生が楽になったんですよね。私もそうだったけれど、みんな何者かにならなきゃいけないと思ってるから。でもなったところでどうせいつかは死ぬんだし(笑)。勲章は燃やされちゃうだけだし、そう考えるとどんな人生も楽しいと思えるから」
──潔い! じゃあ、生きづらさはないんですね。
「ないですね。ちゃんと貯金もして、老後に対して自分で責任を背負えるという計画も立ててるから(笑)。何も怖くないし、いろんなものを手放すことに対しての恐れもないです。今はちょっといい暮らしをしているけど、これを一生続けようという気もないし、そのときどきの自分に見合った生活を楽しむ覚悟さえあればいいかなと。だって、宝石持ってても仕方ないでしょ?と私は思うから」
──人生に対して開けたことで、仕事への出会いも開けることはあったんでしょうか?
「それが逆で、仕事に対してはものすごく慎重になりました。プライベートがダラっとしてるから、なけなしの集中力を仕事だけに注ぐようになったのかな。映画を作る喜びもひしひし感じるようになってきたと同時に、楽しもうとすればするほど、どこまでやれるのかということも考える。昔は、こんな芝居をしてたら駄目だとか、どこかで結果を残そうとしていたけれど、今は辛さとかしんどさも含めて面白いなと思えるし、結果を残せなくても死ぬわけじゃないしって思います。せっかくいただいたお仕事だから、もちろん全力で取り組みますけど」
テレビに出るときは、ちょっと声のトーンがあがります(笑)
──もはやなさそうな印象があるんですが、仕事のオン・オフのスイッチはありますか?
「もう境があんまりなくなってきてはいると思うんですよね。でも、テレビに出ると声のトーンが上がりますね(笑)。スイッチ入ったなって感じるし、ちょっとぶりっ子だって自分で思うときがある。お茶の間に通る声を出そうと意識するからかな。でも、打ち上げの私は完全にオンですね。いつも仕切ってるスタッフさんがお酒が入って仕切らなくなるから、場が上手くいくようにカラオケのマイクチェンジしたり、空のグラスを端っこにおいて飲みものを配ったり、この曲だと盛り上がってないと思ったらリモコンでちょっとずつスピードを上げてちゃっちゃと終わらしたりします(笑)。いつも大変なスタッフさんたちがみんないい顔をして帰っていくのが嬉しいし、みんなが楽しんでるのが楽しいんですよね」
──映画『アズミ・ハルコは行方不明』の現場はオン状態だったんでしょうか?
「『アズミ~』の現場はもう全員グダグダでした。でも、けっこうしてたかもしれないです。たぶん現場のみんなが松居大悟監督のお母さんみたいな気分になっていたと思うので(笑)」
──監督としての松居さんの魅力はどんなところにあると思いますか?
「まず、現場にいる人を信じられるという才能が松居大悟にはある。スタッフやキャストの才能や、映画に対する愛情を信じ切るってすごく難しいことで、意外と持てないものなんです。それと、現場のみんなを自分に振り向かせる才能もあるんですよね。プライベートだとすぐに人のせいにするし、人としてはどうかと思いますけど(笑)。あとは、自分のことを客観的に見れるから、男性を描くのも上手い。今回の映画で女性を描いたのはチャレンジだったと思うし、私はそのチャレンジは大成功だったと思うし、ここからまた松居監督がどういうものを撮っていくのかずっとこれからも見続けるし、同い年でお互いが監視し合える映画界で仲間ができたのはうれしいですね」
衣装/ジャンプスーツ ¥65,000/アキラ ナカ (ハルミ ショールーム 03-6433-5395)
Photos:Yuri Manabe
Hair & Make-up:Eri Akamatsu(esper.)
Styling:Setsuko Morigami(shirayamaoffice)
Interview & Text:Tomoko Ogawa
Edit:Yukiko Shinmura