グライムス インタビュー「ブリトニーを目指しても、結局自分の音になる」 | Numero TOKYO
Interview / Post

グライムス インタビュー「ブリトニーを目指しても、結局自分の音になる」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。 vol.19はアーティスト、グライムスにインタビュー。

グライムスことクレア・ブーシャ。カナダ出身の彼女は、独学での作曲、宅録からキャリアをスタートさせ、2012年イギリスの名門レーベル4ADからアルバム『ヴィジョンズ』をリリース。音楽的な才能と、キュートで独創的なルックスで、音楽シーンのみならずファッション界からも注目を浴びる存在に。2016年1月に新作『アート・エンジェルズ』をたずさえ来日した彼女に、オリジナリティあふれる創作の源泉について聞いた。 曲作りとヴィジアルは同時に生まれる ──ファッションアイコンとしても注目を集めていますが、ご自身が監督も務めたミュージックビデオの中で着ている服はどういうテーマで選んでいますか? 「ここ2作くらいは、スタイリストにお願いしているので『マリー・アントワネットみたいな服がいい』とイメージを伝えて見つけてもらっているわ」 ──マリー・アントワンットというと「Flesh without Blood/Life in the Vivid Dream」のミュージックビデオですね。 「そう。でもマリー・アントワンットに限らず、天使だったり、ゴスな女の子だったり、いろんな人をイメージしたわ。テニスコートとか洞窟、この女の子ならこんな部屋でインテリアはピンクがいいとか、自分でロケーションも選んで」

──そのイメージはどうやって生まれるのでしょうか。

「『Kill V. maim』は作曲している時点でイメージがあって、それをもとに撮ったの。『Flesh without Blood/Life in the Vivid Dream』に関しては、アルバムの中の『World Princess, Pt.II』という曲でMVの構想があったんだけど、ビデオを作らないことになったから、そのアイデアをこの曲にスライドしたというわけ」

──そういえば、どちらのビデオも最後に血まみれになりますよね。それにはどんな意図が?

「そういえばそうね! 意識してなかった。たまたまそうなったの(笑)」

大友克洋を読んで、絵を描こうと思った

──アルバム『アート・エンジェルズ』のジャケットでも、アートワークのキャラクターが血の涙を流しているけど。

「それもたまたま(笑)。私は赤が一番好きな色だから、いつでもどこかに赤を入れたいなと思っていて。ジャケットも赤を入れようと思って、無意識で血で足してみたんだと思う(笑)。赤はいくらあっても、多すぎないから」

──ホラーは好き?

「全然好きじゃない!」

──キュートで、ホラー、ファンタスティックと、いろんなテイストを持っているけど、作品作りのインスピレーション・ソースは?

「アートも映画も本も好きだけど、いつも考えごとをしているのね。空想してるっていうか。それから夜に夢を見たら、それをノート書き留めたりもしてる」

──ミュージシャン以外で好きなアーティストはいますか。

「大友克洋の大ファンなの。彼のマンガを見て、自分も絵を描くようになったくらい。特に『童夢』と『AKIRA』が好き」

──ところでこのアルバム・ジャケットを見たときに、謀図かずおを思い出したんだけど、彼は知っていますか。

「このアーティストは知っているわ! 彼のことは最近知ったんだけど、すっごく好きなテイストなの! 今回のジャケットは、『エヴァンゲリオン』からインスパイアされたんだけど、アニメやマンガに限らず、日本のカルチャーはすごく好きよ」

──日本のカルチャーのどういうところが好きですか。

「街を歩いているだけで、広告とかビジュアルがいっぱいあるよね。都会の景色の中にアートが点在しているのも刺激になるし、日本人のパーソナリティも好き。日本って高層ビルに航空障害灯の赤いライトがつくでしょう? アメリカにはないんだけど、日本に来てホテルの窓を開けると、赤い点滅がすごくきれい」

ブリトニーを目指しても、結局自分の音になっちゃう

──日本で好きなショップはある?

「まだ日本でオフをもらったことがないの…。ちゃんと休みとって遊びに来たいな」

──今回のアルバムは、かなり力強いアルバムになっているけど、これまで「インディ界のアイドル」扱いをされることについては、どう思っていましたか?

「私の音楽を聴いて『ポップ・ミュージックだから誰か敏腕プロデューサーがいるんだろう』と思われるのは、ちょっと違うなと思ってはいたわ。私はプロデュースも、楽曲制作も、録音、エンジニアリングも全て自分でやっているしね。ただ、自分の音楽がラジオでかかっている“ポップ・ミュージック”なのかというと、と自分の音楽とは違うのかなと思うし」

エンジニアもプロデューサーもいない独自の音楽

──オリジナリティは意識していますか?

「意識しなくても、オリジナルなものになっちゃうよね。前作『Visions』は、自分ではブリトニー・スピアーズを目指して、ブリトニー級のものを作ったつもりだったんだけど、みんなは全然そう捉えなかったようだし」

──ブリトニー・スピアーズは好きなんですか?

「若いときはゴスばっかり聴いていたから、メジャーな曲がかかるようなラジオとかは全然聴いていなくて、20歳くらいになって初めてブリトニーの曲を聴いたのね。それから大好き」

──今はラジオやテレビなどのメジャーなメディアには触れますか。

「今、流行っているものを聴くとそれに影響されるから、意識してあまり聴かないようにしているんだけど、2、3年前の作品を少し遅れて聴いてみることはあるわ」

──メインストリームのポップ・アイコンたちを意識したりしますか?

「それはないかな。自分は自分だから。ブリトニーをはじめ色んなポップ・ミュージックから影響を受けているから、周りからは『この人もポップ・スターになりたいんだな』と見えるかもしれないけど、だからといって影響されたものに自分が同化する必要はないしね。いろんなものから影響されても、そこから独自のものが生まれることだってあると思う。『グライムス』はエンジニアもプロデューサーもいないし、全部自分で作っているから、私の考えていることがダイレクトに作品に反映される。これからもずっとそうやって作っていくんだと思う」

ドレス ¥300,000/YOHJI YAMAMOTO(ヨウジヤマモト青山店 03-3409-6006) インナー、スニーカー/モデル私物 タイツ/スタイリスト私物

Photos:Yosuke Demukai Styling:Yasuhiro Takehisa Hair & Makeup:Masayoshi Okudaira Interview & Text:Cosmos Hoshima Edit:Masumi Sasaki

Profile

Grimes(ぐらいむす)クレア・ブーシャによるソロプロジェクト。カナダのバンクーバーやモントリオールを拠点に独学で作曲を学び、宅録で作品を作り始める。自主レーベルから3枚のアルバムをリリースしたのち、2012年、4ADから『ヴィジョンズ』を発表。『NME』誌の「最もエキサイティングな新人バンド2012」で1位を獲得するなど、音楽シーンのみならず、カルチャーやファッション界からも注目を集める。2015年12月、現在の拠点であるLAでレコーディングし、自身でプロデュースも手掛けた『アート・エンジェルズ』発表。新世代のポップ・アイコンとして要注目のアーティスト。

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する